第245話 勇気ってなんだろうね? 何で勇気ってあるんだろうね?


 ディーヴァが飛び出していく。


 奥の方はでロボットに変身した御堂は変態機動で暴れまわっているヘルカイトの攻撃を何とかかわし続けている姿が見える。


 近場にハトメヒトが居るからか、どのような理由からか片桐には分からないが全てを破壊するようなブレスは何故か使っていないのが不思議だ。


 直ぐに追いついたディーヴァがハトメヒトの横で自分のクリーチャーをけしかけて更に動きを鈍らせようと奮闘するが、やはりと言うかそこまでの邪魔にはなっていない。


 それでも決死と言わんばかりに体中や顔に向かって飛び出していくアイドルオタの様な姿をしたクリーチャー達は煩わしいのだろう、時々攻撃を止め、自らの身体から引きはがし投げ捨てる。


 お蔭で御堂が攻撃を受ける可能性がまた少しだけ下がっていた。


 その様子をムセイオンの結界の中から片桐が見つめている。


 どうすれば御堂やディーヴァの様に、無謀に近いあの状況で戦う事が出来るのだろうと見つめていた。


 自分達より強いだろうと聞いていたディーヴァが先ほどまで絶望して動けなかった存在だ。それでなくてもあれほどのドラゴン普通に考えれば勝てるなんて思いつくはずがない。


 現に御堂が必死に攻撃を躱し続けて、その隙をディーヴァが攻撃し続けているがバイザーからズームして見れたあの威容に僅かばかりの傷すらついていない。


 善戦しているようには見えるが、勝てる可能性は全く見えない。生命体である以上最悪は餓死等も狙えるかもしれないが、それが出来る程の資材も時間もない。それでもあきらめずに戦い続けている御堂の姿。


 後ろでは立ち直ったサイレーン、クレア、ショコラが諦めずに用いれる全ての力を使ってあの戦いを見守っている。


 そんな中、ただ見ている事しか出来ない自身。


 片桐自身分かっている。


 この状態で出来る事などない。ドローンを用いた攻撃をしたとしてもダメージも与えられないだろうし、注意を逸らす事も出来ない。


 目の前で、自分を認めてくれて、受け入れてくれた存在が戦っているのに、また自分は守られているだけだ、と改めて自分が無価値なんだと心が沈んでいくのを感じる。


『さっきまでは、私も役に立ててたのに・・・手に入れたアイテムじゃ、私じゃ何もできない』


 この状況を覆す事等出来ず、見れば少しずつではあるが御堂が押され始めているのが見えた。 


「っ・・・! とも、きっ!!」


 気が付けば片桐の瞳から涙が溢れてくる。


 どうして自分のソウルギアは役に立てないのか。


 戦闘系のソウルギアならば、もしかしたら傍で戦えたかもしれない。


 支援系のソウルギアならば、サイレーン達の様に御堂を強化出来たかもしれない。


 機械を強化する、それだけに限定されたソウルギアではこんな時にどこまでも役に立てない。


『なんで、何でこんなのばかり。私や友樹が、何をしたっていうんだよぉ・・・普通に生きて、普通に暮らして、それだけじゃダメなのかよぉ』


 恐怖を上回る怒りが片桐を襲う。


 だからといって彼女に出来る事など何もなく。徐々に動きが鈍っていく御堂や、ランダムで放たれる衝撃波などでかなりの被害を受けているディーヴァ達の姿が見えるのみ。


 このままでは御堂が先に力尽きで全てが終わるだろう。


 それは自分達が死ぬ時だ。


 だが何故だろうか、普段から死にたくないと考えている彼女なのに、そうなったならもう仕方がないなと諦観してしまっている。


 大好きなゲームや動画鑑賞、ネットサーフィン、その全てが出来なくなるのに、そこまで恐怖も悲しさも感じない。


 それよりも、なによりも、今、恐ろしい事があったからこそ――


 ―御堂が死んだら、御堂が死んで自分が生き残ってしまったら


 初めてできた大切な友人が、馬鹿を言い合えるようになった友達が、傍にいるだけで安心できる様になった男が、いなくなってしまったら。


 【もう、生きていても仕方ないんじゃないか?】


『あぁ、そうか。そうなんだな・・・これが、普段ディーヴァ達が考えてる事なんだ。だから、今必死になってる』


 サイレーン達が立ち上がり戦っている理由は勇気ではない。


 いや、勇気もあるのだろう。だがそれ以上に、彼女達が引けない理由があった。だからこそ、今もそれを信じて戦えている。


 御堂も同じなのだろう。恐怖も絶望も重く伸し掛かっている、直ぐ間近に迫っている死に恐れを抱きながらもそれを振り払い、必死に戦っている。


 ―誰も死なせたくないから。誰にも死んで欲しくないから


 だから、今戦っているのだ。


 それが、それこそが勇気という物なのだろう。何かの為に立ち上がり戦える事こそが勇気だと言えるのだ。


 どんなにちっぽけでも、護るもの、護りたいもの、それがある限り立ち上がる。


『私にも、そんな勇気があるのかな・・ねぇ、友樹』


「っ!? 友樹いいいいいいっ!?」


 動きが鈍ったその瞬間を運悪く、ヘルカイトの衝撃波が直撃してしまう。装甲が飴細工の様に破壊されその勢いのまま地面に叩きつけられた。


 ほぼ即死と言わんばかりのダメージではあったが、それでも何とか修復し再び飛び上がる。死ぬほどのダメージを受けても耐えきる事が出来るスキルが発動したおかげだ。


 だが後1回、攻撃を受けてしまえば今度こそ終わりだろう。最早全て終わるのは間近だった。


 明らかに動きが鈍った赤い機械。既に限界なのだろう。ヘルカイトの方もかなり精神的にダメージを受けてはいるが、それでも尚優勢は変わらない。


 ここからでは何を言っているかまでは聞こえないが、それでも御堂が叫んでいるのが聞こえた。怒号、最後の最後まであきらめないと再び飛翔する。


 ヘルカイトもあと少しで勝利出来ると言わんばかりに高らかに咆哮していた。


 このままならば、勝敗は明らかだろう。


「っ・・・! 友樹ぃ・・・」


 暴れまわり衝撃波や岩石などを飛ばしてくるヘルカイトの攻撃を鈍った動きで何とか回避する。まるでシューティングゲームの何のパワーアップもしてない自機が、ぎりぎり弾幕を回避しているように見える。


 御堂がロボになっているのも関係しているだろう。それはまるでゲームの様で――


「え?」


 片桐の頭の中で何かがストンとはまった。


 そして―


「ゲームみたいに見える。それは私のソウルギアの力、バイザーで見た現実は私にはゲームの様に表現出来てる」


 そこには巨大なボスと、【機械】な自機。


「あああ・・・あああああああ!!」


 片桐はあらん限りに叫ぶ。


「私に、力を!! 貸せぇええ! 【マシン・ザ・リバティ】!!」


 【機械】を強化し、【自由に扱う事の出来る】それが彼女のソウルギアの能力。


 その効果は【機械】であるならば、何であろうとも自分の効果の対象なのだ―


 レベル4まで強化されたそれは、今ま出来なかったものまで強化する。


「友樹を【強化】しろおおおっ! そして・・・ここからはっ! 私の腕の見せ所だぁっ!」


 あからさまに動きが鈍っていた御堂が、急にありえない機動を始める。


 飛んでくる衝撃波や岩石、爪の斬撃をありえない動きで全て回避する。それはまるでゲームの弾幕をぎりぎりで避ける極めたような繊細かつ匠な動きで。


 更には周囲に浮かんでいた恒星型のビットが本来の役目を思い出したかの様にそれぞれから極光のレーザーが放たれた。


 暴れまわり、回避など関係ないと気にもしていなかったヘルカイトの胴体や頭部に様々なブーストの他に片桐の機械強化を受けた一撃が命中する。


 今までダメージなど気にもしていなかったヘルカイトの鱗が削り取られ肉を抉り血が溢れた。初めて受けた物理的な痛みがヘルカイトの理性を更に削り取り、絶叫する。


 この瞬間、勝てる可能性が薄かった戦いが、初めて、完全な優勢に変わった。


 そして急なこの状況と、全く自由にならない自身の状態に混乱している御堂とテルクシノエー。自分達の意志ではなく、誰かに操作されている事に気付き、はっと後ろを振り向く。


 振りむいた先、ムセイオンの中。腕の本体から伸びたゲームコントローラーの様なものを握り、同じくマシン・ザ・リバティから伸びたチューブから形成された椅子に座り込んでまるで3Dゲームを遊んでいるような態勢をしている女性の姿。


 タイプ・テルクシノエーの【主導権】を完全に握り、自由に動かし始める片桐がそこにいた。


「勝つんだ、勝つぞ、勝つんだよ!! 私はゲームで最強なんだ! だから! 友樹は殺させないし、生きて帰るんだぁあああ!!」


 その瞬間、最強の機体となったタイプ・テルクシノエーの反撃が始まった。


 全ては片桐のプレイヤースキルにかかっている。


 

―245話了


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しゅじんこう、自分の操作を仲間に奪われるの巻


 

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