第243話 者皆総て堕ち果てよ。傾宙の女神の足元へ
トランスブースト・タイプ・テルクシノエー。
御堂が持つ切り札の内の一つ。
自身のソウルギアとSSスキル【トランスブースト】を用いて合体するという本来の用途とは全く違った効果を起こすものだ。
今は【タイプ・サイレーン】も存在し、既に何度か発動させ鍛錬も積んでいる。
中型のパワードスーツの様な機械に変わるという理外の効果を発生させ、御堂とテルクシノエーのステータスを合計し更に全ての面に置いて強化する、まさに切り札。
その中でもタイプ・テルクシノエーの効果は魔法と状態異常の強化に重きを置いている。
純粋なステータスはタイプ・サイレーンに大きく劣るものの、魔法力や状態異常の付与に関しては追随を許さない。
【がああああああああああああああああ!】
動きを制限されているとはいえ、最低限の距離は動けるヘルカイトが凄まじい速度で腕を振り下ろす。
それだけですさまじい衝撃波が発生する。直撃すればただでは済まないだろう。
だがステータスが大きく上昇した今ならばぎりぎり回避できる速度だ。
背中のバーニアから魔力の火が吹き出し急上昇して衝撃波を回避する。今のを見た限り、あれが直撃すれば死にはしないがかなりの被害があるだろう。腕の直撃を喰らえば即死もありうる。
「「何とか・・・っ!?」」
【おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!】
動きが緩慢なその辺のモンスターとは違い、ヘルカイトはその速度や戦闘力も他の存在より群を抜いている。巨体だからと動きが遅い訳でも、攻撃速度は遅い訳でもない、更には戦闘に関するならば知能も高い。
試しに放った衝撃波をぎりぎり回避した事に気付いたのだ。
それならば話は早い、両手に魔力を込め連続で攻撃スキルを放つ。
ヘルカイトが身に着けている攻撃スキル【極無限爪撃】が凄まじい速度で縦横無尽に機械神を狙い続ける。
最初の数回は避け切れたが、余りの速さと範囲に逃げ切る事が出来ない。
「「なら・・・【闇槍魔破】!!」」
振りかざした杖の先端、木星を模した宝玉の先から漆黒の闇の様に深い黒の槍がいくつも生み出され射出される。
普段テルクシノエーが使っている魔法の槍の数倍、1本1本が5メートルはあるだろう闇の槍が十数本形成されては、放たれた爪撃に命中していく。
レベル4~5のモンスターなら即死、レベル6以上でも直撃すれば大ダメージは免れないだろう破壊の槍は爪撃の威力をある程度抑える事に成功する。
あくまでもある程度だ、これ以上の上級魔法ならマジックが高ければ相殺出来たかもしれないが、今のタイプ・テルクシノエーのマジックでは威力を緩和するのが限界のようで。
避け切れない魔力の爪の一撃が数回クリーンヒットする。
ローブの様な装甲が飴の様に容易く破壊されるが、なんとか装甲で止めきれたようでそこまでダメージはない。
一方空中戦を始めた御堂とヘルカイトを見て臍を噛むような気持でいるハトメヒト。やはりと言うかハトメヒトを認識している様で、得意の破滅のブレスを使ってこない。あの状況で飛び込んだとしてもただの残機の無駄消費しにかならない。
御堂を押している攻撃だが、あの程度を跳ね返したとてヘルカイトにダメージはほぼ入らない以上、タイミングを見計らなければ動く事が出来ない。
先ほどの連撃を防いだ御堂とテルクシノエー、良く見れば装甲が徐々に修復されている。どうやら自動回復の能力もついているのだろう。
そのまま縦横無尽に飛び回り巨大な闇の槍を立て続けに射出し続けている。
そのほぼ総ては軽く振り払った腕で防がれているが、何本かはその巨体故に命中しているようだ。しかし――
【おおおおおおおおおおおおおおおお!】
それはヘルカイトを苛立たせるだけで、ほとんどダメージになっていない。
まだ完全な強化状態ではないのもあるが、そもそもヘルカイトは魔法に強い耐性を持つし、近寄るだけで数千度という灼熱が襲ってくる。翼が波打つだけでその熱風は周囲の全てを焼き払うのだ。
ある程度距離を取っているとはいえ、ハトメヒトも熱でダメージを受けているし、御堂達もあまり近づけば装甲が徐々に溶解していく。
漆黒の槍もその凶悪な熱気で焼かれ威力が弱まっているので、結局苛立たせるだけでダメージになっていない。
一切の制限なく、ヘルカイトが動いていたらそれだけで御堂達は死んでいただろう。恐らくは出口の門周囲数十メートル程度という移動制限が付いているからこそ、曲がりなりにも戦えているだけだ。
御堂とヘルカイトによる激しい戦闘を、蚊帳の外にされているハトメヒトが見つめながらも思案する。
『このままでは何れ主殿の方が先に折れるか・・・ディザスターよ、何を考えている? これは汝が望んでいたものではなかろうに』
理不尽とも言えるディザスターだが、【絶対にどうしようもない】状況と言うのは作らないという矜持があると信じていた。
プレイヤー達がまともにミッションをこなし、それを見るのを楽しみにしている存在が居る以上、このようなつまらないやり方はしない筈なのだ。
確かに制限はついている。だが、ついた程度でどうにかできる存在ではない。これがレベル7以上のプレイヤー達で完全に準備を整えていれば、戦いにはなった居ただろうが、中堅程度のプレイヤーで戦える相手ではない。
その間にも斬撃や普通の火炎ブレスなどがタイプ・テルクシノエーを襲い続ける。
どちらにしてもこのままでは何もできずに終わる、そう思った瞬間、御堂達を覆う魔力とステータスが大きく上昇するのが見えた。
一瞬ステータスが弱まったと思った矢先に急にステータスが上昇した事に御堂達も僅かに戸惑ったが何の事はない、ムセイオンの効果時間が切れたのでその間に残りの全てのバフを再度御堂にかけなおし、同時に再びムセイオンを発動しただけだ。
「「よし・・・ここからが本番だぞテルクシノエー!!」」
現状出来うる限りの全てのステータス上昇効果を受けた事で、ついに攻勢に回る事が出来る。
とはいえ、タイプ・テルクシノエーの真価は魔法攻撃そのものではない。
機械神の周囲を取り巻いている3つの恒星の様なビットが周囲を高速回転していく。同時にタイプ・テルクシノエーを強大な魔力を覆っていくのだ。
【があああああああああああああああああああ!!】
あれはまずい――直感的にそれを悟ったヘルカイトが全てを吹き飛ばそうと破滅のブレスを発動させようとする。
距離と位置的にハトメヒトがカバーに入れない事も視野にいれ、目の前の雑魚達が何かする前に全て打ち砕くつもりだ。
だが、それよりも僅かに御堂達の方が早い。
「「惑え、狂え、従え――――【フォールン・テルクシノエー】!!」」
瞬間全てが止まった。
サイレーンやショコラ、クレアも。絶望で震えていたディーヴァや片桐も。
そして目の前にいたヘルカイトはおろか。
空気も、大気も、この空間も、ありとあらゆる全てが、その絶対なる美の化身に全てを奪われていく。
時よ止まれ――そう言わんばかりに、その瞬間、全ての存在がタイプ・テルクシノエーという美によって止まっていた。
止まっていなかったのは、唯一ハトメヒトのみ。そのハトメヒトも気を許せばそのまま傅いてしまいそうな程の魅了が襲っている。
魅了した存在の全ての生殺与奪権利を手に入れる、美の化身テルクシノエーの真骨頂とも言えるその力。魅力において相手に勝っていれば例え相手が何であろうとも、自身の意のままに操る事が出来る。
それは生物を超え、無機物や、自然、時間すらも魅了し堕とす。
だが――
「「自分の息の根を止めろ!!」」
【・・・・・・・・・・・・・ぐ。ぐがあああああああああああ!!】
相手があまりにも強大な場合、その効果は確実には発動しない。
魅了されつつあるヘルカイトではあったが、それでも完全に堕ちることなく、自身の強さと誇りのみで自我を保ち続けていた。
【おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!】
そして、目の前の美を消し去るかのように【破滅のブレス】を発動させたのだった。
―243話了
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Q ドラゴンが何で魅了されるん?
A あらゆる存在にとって、一番美しい存在に見えるにょふ
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