第242話 絶望したっていいじゃない、人間だもの


 1度2度程度の失敗ならば焦りからのミスであるかもしれないが


 3度4度と失敗すればそれは必然である。


 ショコラとクレアが何度も【帰還】の魔法を発動させるが、一切の効果がなく御堂達はその場に残されたままだった。


 ほっとしていたディーヴァと片桐の表情が青くなっていく。この間にも少しずつではあるが痛みから解放されつつあるヘルカイトが起き上がろうとしているのだから。


 半分涙目になり絶叫しながらも帰還の魔法を唱えるがやはり何の効果もない。


「いやはや、これには参った」


 どうやらこのフィールドでは帰還系の魔法は使えないという事にハトメヒトも無表情ながらに大粒の汗を流している。


 となれば方法はただ一つ。


 あの脅威を自分達で倒す事のみ――


 しかし、ディーヴァの師匠達ですら倒せなかった最強レベルのモンスターをその半分のレベル程度でしかない御堂達に倒せとは無茶が過ぎると言えよう。


 なまじ一度圧倒的な姿を見ているディーヴァが震えている時点で勝機はない。


 ハトメヒトが先ほど行った決死の反撃でならダメージも与えられるだろうが、一度手痛い反撃を受けた以上、馬鹿の様に使ってはこないだろう。更に言えばハトメヒトのスキルも早々何度も使えるものではない。


 片桐は震えながら何も言えずにいる。そういう世界なのは知っていたし、御堂でも勝てない存在が運悪く出てきただけだ、騒いだからどうなるという訳でもない。


「・・・クレア、ショコラ。さっきの防御結界もう一度頼む」


「っ!! ま、まーちゃん。ショコラ・・・」


「頼む」


「う、うん。半身いける?」


「わ、かってる・・・!」


 再びポイントを消費し【ムセイオン】を発生させる。


 これでまた5分の間だが生き延びられる可能性が増えた。ヘルカイトもそのタイミングで漸く起き上がり、怒りの怒号を発している。


「マスター・・・」


 ほぼ確実に誰も生き残れないだろうという恐怖がサイレーンを震わせていた。隣ではテルクシノエーも愕然として座り込んでいる。


 この場で絶望していない存在は―――1人しかいなかった。  


「・・・・おらぁ!!」


 自分の両の頬を思い切り両手で平手打ちした。


 ジンジンとした痛みが、少しだけ恐怖を和らげる。


「うし。覚悟したぞコラァ!!」


「・・・主殿」 


「ショコラ! クレア! 俺に残りの強化頼む!!」


「え・・・まーちゃん?」


「ごしゅ・・・?」


「サイレーン、俺に全力強化だ」


 覚悟を決めた御堂。この状況で生き残る方法はただ一つ、あの脅威に勝つ事だけ。それならばここで震えていてもどうしようもないのだ。怯えていれば流川が助けに来てくれる訳でもなく、例え流川達が助けに来ても勝てる可能性はとても低い。


 ならばここに居て戦えるのは御堂だけしかいない。


 ディーヴァと片桐は既に恐怖で戦闘不能。その時点で戦えるのは御堂だけなのだ。


 呆けたように見ていたサイレーンだったが、ゆっくりと御堂の顔を見つめる。


 そこには恐怖に震えながらも覚悟した男の姿があった。サイレーンが愛しい男の姿があった。今も生き残ろうとするその勇気を震えているだけの自分が手助けできるのだ。


「・・・ん。 マスター・・・私はマスターのソウルギア。マスターが諦めないのなら、私も・・・諦めない!」


「あぁ。どうせならやるだけやってやろうぜ。まったく理不尽にも程があるってもんだ」


「そうだね・・・マスター」


 愛しています―と心の中で告げ、御堂の持てる限りの強化を掛けていく。


「テルクシノエー」


「・・・ご、主人様」


「俺はまだ諦めてねぇぞ? 俺にはお前の力が必要なんだ」


「・・・!!」 


「どうせ死ぬなら、もう一つを試してから、盛大に散ってやろうぜ」


「・・・・はい、はいっ!」


 ゆっくりとテルクシノエーが立ち上がる。


 彼女は死ぬのは怖くなどない。ただ誰よりも愛しい人が死んでしまうのが恐ろしいだけ。だからこそ、愛しい彼が生きようともがき続けるのならば、テルクシノエーのやる事はたった一つだ。


「よし、後はクレア達の最後のバフが――」


「主殿」


「ハトメヒト・・・?」


「クレア殿達のバフはまずはムセイオンを解除しなければ使えぬよ?」


「・・・え?」


「ご、ごめんごしゅ。このスキル中は他の事なんも出来ないんだ」


「あー・・・」


 ムセイオンは強力な防御結界だが、弱点は発動中二人とも結界形成のために他の事が出来ない所にある。つまり二人が持つ他の強化スキルを発動させたいのならば、ムセイオンが解除された時に使うしかないのだ。


「・・・か、解除されたら直ぐ頼む! んでまた皆をカバーしててくれ!」


 今一つしまりの悪い所が御堂らしい所だろう。


「さて、では我ももう一度突貫と行こうか。なに、後2回か3回は同じ事をしてみせようぞ」


「あぁ、怒るのは後だ、あいつを盛大に痛めつけてやってくれ」


「承った、我が主よ。この女神ハトメヒト、貴方の為に全力を振るおう」 


 こちらを睨みつけて動かないヘルカイト。あそこからほぼ動けないのであれば、僅かながらにでも勝機があるかもしれない。ならばここで立ち上がらなければ男ではないだろう。


 覚悟を決め、御堂は叫ぶ。


「テルクシノエー!! お前の力、俺に貸してくれ!!」


「はい・・・! ご主人様――」


 御堂がスキルを発動させる――彼の持つ最後の切り札。


「「トランスブースト!! タイプ・テルクシノエー!!」」


 御堂とテルクシノエーの姿が光り輝き一つの巨大な光球に変わる。


 光球はムセイオンを貫通し、ヘルカイトの近くにまですさまじいスピードで飛んでいく。一歩遅れたハトメヒトも同時に飛び出した。


 それに気づいたヘルカイトが再び怒りのままにブレスを吐こうとしたが、その瞬間にハトメヒトの姿を捉え、僅かにたたらを踏み、ブレスを解除した。


 やはり先ほどの激痛はあのヘルカイトをもってしても攻撃を止めてしまうほどには恐怖を与えていた様で、僅かながらにブレスの頻度を下げる手助けになっている。


 そしてその間にも輝いていた光球が少しずつその姿を露わにしていく。


 周囲に浮かぶのは小さな惑星の様な姿をした物体が3基、それらが主人を守るかのように周囲を回っている。


 浮かび上がって来るその姿は流麗的なフォルムを持ち深紅に輝いている。先端には土星を模した宝珠が浮かび上がる巨大な杖を両手で抱きしめている。


 同じく深紅のローブの様な防御装甲に覆われ、ヴェールによって表情を隠されたまるで夜の女神の様な姿をした機械の神が浮かんでいた。


「「さぁ・・・はじめ(ましょう)ようか!!」」


 傾星と木星の機械神と竜の覇者との戦いが始まる。


―242話了


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ロボットの姿の表現の方法がわかりません!!

どうすればええのん・・・・ 

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