第240話 Q 難易度おかしくね? A ダイス神のお導き


 その瞬間ディーヴァが動けたのは奇跡だと言えた。


 なりふり構わず、自身の持てる全ての力を解放し巨大なドラゴンに向かって全力を叩き込む。


 同時に形成された何十体ものクリーチャー達が普段の様な姿ではなく、完全に漆黒の何かとして生み出され、相手を殺すためだけに飛び込み―


【ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!】


 一蹴された。


 軽く薙ぎ払った腕の一撃は衝撃波を巻き起こし、襲い掛かってきたクリーチャー全てを薙ぎ払い、その勢いのまま展開に追いつけなかった御堂達含めて全員を容赦なく吹き飛ばす。


「っううう! ケーキ屋さん! 動けますか!」


 ディーヴァが一切の余裕なく叫ぶ。


 あれはだめだ、あれはまずい。思考が危険信号を絶えず流し続けている。


 恐怖をスキルで抑えていても怖気ついてしまいそうなほどの威容がそこにあった。


 黄金色に輝く鱗と紅く広がる巨大な翼。


 自身の師匠が本気になった時の様な威圧感が周囲を包んでいる。その姿は正に王者の貫禄。竜の中の最高峰。


 龍にすら匹敵する、ディザスター達が誇る最高レベルのモンスター。


―――――――――――――――灼熱のヘルカイト―――――――――――――――


 ディーヴァは知っていた。


 このモンスターという存在を知っていた。何せ一度見た事があるのだから。


 自身の師匠と同レベル帯のレベル7以上のプレイヤー達。


 その中には今最高レベルを誇る存在なども含まれる自称プレイヤーの味方

【英雄達の凱歌】と呼ばれるプレイヤークラン達の何人かも含まれ総勢で挑み。


―倒せずに撤退するしかなかった。


 実力差が酷すぎた。


 あらゆる攻撃はほぼ無効化され、相手の攻撃は全てほぼ一撃必殺。灼熱の名を冠するように全身が数千度に近い熱を持ち、近づくだけで耐性がなければ焼けて死ぬ。


 吐き出すブレスは【破滅のブレス】と呼ばれ、物理的に全てを破壊し薙ぎ払うエネルギーの塊だ。防御自慢のレベル8プレイヤーが全ての防御スキルを使い切って、それでも耐えられず消滅し、余波で全てを薙ぎ払ったのだから。


 それでも全滅しなかったのはそのレベル8のタンクプレイヤーが必死に全てを庇ったお陰だ。それほどの脅威なのだ。


 結局参加した20人弱のレベル7以上のプレイヤーの内、生き残ったのは6人程度。ディーヴァを入れて7名。その後はミッション失敗の報告を受けてそれぞれが這う這うの体で逃げ帰るしか出来なかった。


 ディーヴァの師匠は最高級の回復剤を用いなければ死んでいたし、今でこそ最高戦力と呼ばれるプレイヤーも為す術もなく撃破された。


「何故・・・こんな場所に・・・!?」 


 愕然としてしまうのも無理はないだろう。


 いくらランダム配置だとしても、このレベル帯で出てきていい様なモンスターではない。というよりも最高レベルのプレイヤー達で【勝てていない】モンスターなのだ。恐らくはこの階層のボスの可能性はとても高いが、そうだとしたらクリアさせるつもりがないと思っても仕方がない。


 実際の所は、ボスが居る階はいくつか存在し、それをクリア出来ればミッション完了なのでが、それをプレイヤー側が知っている訳がない。


 つまりは【とても運悪く】【絶対に勝てないモンスター】にエンカウントしてしまったという事だろう。


「っ・・・・う! な、なんだありゃあドラゴンか!?」


 吹き飛ばされた御堂達が直ぐに態勢を立て直す。片桐だけは吹き飛ばされた衝撃で動けていないが、御堂含め全員が直ちに戦闘態勢をとる。


 同時に目の前の威容を見て絶句してしまった。

 

 御堂も前にドラゴンは見た事がある、あれもとても凶悪なモンスターだったが、ジェミニによって時間稼ぎに使わされる程度には弱かったが、目の前のドラゴンが同じ存在にはどうしても思えなかった。


 実力を把握できたサイレーンが震えているほどだ、先ほどからお茶らけていたディーヴァが一切の余裕無しで居る時点でやばい所の話ではないものが出てきたのだと把握する。


「どうすりゃいい!」


「撤退の準備を! 急いでください!」


「わかった! ショコラ! クレア! 頼む!」


「らじゃっ! 毎回これってまーちゃん嫌われてる!?」


「急げ半身っ!」


 直ぐにクレアとショコラが帰還の魔法を発動する準備をする。


 時空に関係する魔法、特に【転移】や【帰還】は発動に多少のタイムラグが発生してしまうのが難点だ。発動まではたったの十数秒ではあるが―


【がああああああああああああああああ!!】


 そのたった十数秒があれば目の前のモンスターは御堂達全てを皆殺しにする事が出来る。高らかに咆哮し、それだけで周囲を吹き飛ばす衝撃波が放たれた。


 だが、それは流石に距離があったので重圧を受けるだけで済む。だがそれはただの予備動作でしかない。口から白と黒の魔力の様な何かが弾けていく様子が見て取れた。


「まっ・・・ずっ!? みんな! いって! 死んでも抑えて!!」


 それが何かを見抜いたディーヴァが滝のような汗を流しながら呼び出したクリーチャー達を何体も生み出して突撃させた。


 生み出されたクリーチャー達はディーヴァの命令通りにそれぞれ攻撃を仕掛けるが、大型動物に集る蟻といった感じで多少煩わしいと感じるだけでその動きを止める事が出来ない。


 見る見るうちに灼熱のヘルカイトの口から白と黒の光が漏れだしていく。


 あれが放たれてしまえば終わりだと、ディーヴァは持てる全てを賭けて攻撃をし続けるが一切止まる気配がない。このままでは帰還の魔法が発動前に死の吐息が放たれる。


「あ―――」


 ディーヴァの意識が光に飲み込まれ―――


「「ムセイオン!!」」


 目の前に展開された強力な大結界が、【破滅のブレス】を完全に受けきる。


 あらゆる全てを破壊する筈のブレスが、その結界に一切の罅すら入れる事が出来ずにいた。


「え・・・・?」


「まーちゃんごめんっ! 間に合わなかったからポイント使った!」


「あーしら、ここから動けないから帰還は少し待って!!」


 何が起きたのかと後ろを振り向いたディーヴァが見たのは、お互いに抱きしめ合っているクレアとショコラの姿。


 ミューズの固有スキル【ムセイオン】による防御結界が形成されていた。


 発動中、この結界内部にさえいれば死亡もしなければダメージを受ける事もないという理不尽に近い防御結界。更にはマスターである御堂のステータスも超大幅に強化されるというおまけつきだ。


 但し莫大なデメリットも存在し、発動中クレアとミューズは今の態勢から何もする事も出来ない上に、効果時間はムセイオンのスキルレベル×5分と十分に破格ではあるが、目の前の凶悪なモンスターと対峙するにはあまりにも短すぎる。


 一応使用回数は設定されていないが、一度発動する度に3000ポイントというかなりのポイントを消費するのも痛い所か。


 だが一番この場所において厄介な所は、【帰還】の魔法を使えるのがよりにもよってクレアとショコラの二人しかいない所だろう。


「破滅のブレスを・・・・こんな簡単に・・・ケーキ屋さん、本当に貴方は」


 ―何者なんですか? 


 その言葉は誰にも届かなかった。


 

―240話了


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1ターン目は凌ぎました。

2ターン目はどうなるでしょう?

後、灼熱のヘルカイトは最大4回行動です(何  

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