第236話 ある意味では一番チートなんだよ


 ディザスターの運営に予想外の物があったとしたらそれは―


 テルクシノエーの様な魅了特化


 そして


 機械を思うが儘に操れるプレイヤーがいた事だろう。


 このゲームルームも、笑わせつつもクリアさせるつもりはないそんな嫌がらせの様なシステムで動いている。


 アームは極限まで弱くされ、超低確率、もしくは数万ポイントを確認した時だけアームが僅かに強くなる。どれだけ担保を用いたとしても、余程のゲームの匠が必死にポイントを絞りつくして、ぎりぎりクリアできるかどうかという難易度だった。


 無論、見た目はただのクレーンゲーム。こんなのやってられるかとばかりに破壊しようと考える者もいるだろう。時間が足りずに最終手段でクレーンゲームの破壊をしようとした場合、即座に死神が現れる設定もされている。


 そう、このクレーンゲームに対して破壊的な行為、もしくは不正行為をしてはならない。


 だが――――


 【強化してはならない】という制限はなかった。


「・・・やっぱりかぁ」


 最初の数回は通常通りに動かした片桐だが、マシン・ザ・リバティのモニター越しに見えるデータはあからさまに低設定、いや。クリアさせる気のない状態にされているのが見える。


 データをハッキングするように、彼女のソウルギアはそれが機械であるなら同じような事が傍にいるだけで可能になる。


 筐体のデータを確認し、何がセーフで何がアウトかも既に調べつくした。


 技術で何とかなるレベルではなく、余程のポイント長者か幸運の持ち主でもない限りはクリアするのは制限時間内ではほぼ不可能だろう。


 しかし穴を見つける事が出来た。


 不正制御でアームを強くなどは出来ないが・・・【この筐体自体を強化】してはならないとは条件に含まれていない。


「なら、私の仕事だよな」


 3層では恐怖で怯えて気絶してしまった事に少なからず自責の念を感じていた彼女。ディーヴァからどう思われてようとどうでもいいが、共に生活している御堂に見放されてしまうのは看過できるものではない。


 確かに流川や山崎達が居るには居るが、片桐が心から信頼できはしなかった。復讐者の山崎や、完璧超人の様な流川等、居るだけで息苦しくなってしまうのだ。


 そもそもがコミュ障な片桐にとって、ゲームアプリがきっかけとはいえこうして親身になってくれるようになった御堂は大切な友人だ。


 少なからず異性としての好意も無自覚ながら持ってもいる。そんな御堂に使えない存在だと思われてしまうのは怖かった。基本的に甘ちゃんな御堂がそんな事を考える事はないのだが、それでも自分のダメさ加減を嫌でも自覚している彼女には、僅かな可能性も許容できない。


 だからこそ、色々手伝ってもらったとはいえ戦う方法も編み出したし、自分なりの貢献できる方法も手に入れた。今この状態こそ、まさに彼女の本領発揮出来る瞬間だろう。


 はた目にはただクレーンゲームやってるだけのほのぼのとした状況ではあるが、それでもここいらで面目躍如と行きたい片桐だ。


「頼むぞ~、私のソウルギア。こういう時こそ私の出番だよな」


 そこから御堂達は彼女の手腕に驚愕する事になる。


 ディーヴァですら「嘘だろ」と言わんばかりの表情で彼女を見ているのだから。


「うわ・・・凄い」


 機械か何かの様に片桐が動かすアームが確実に景品を獲得していく。ソウルギアの効果で強化されたアームは不正ではないと機械的に判断され問題なく目的の物をどんどんと掴み手に入れていくのだ。


 自分で言った手前、このまま追い課金とばかりに2000ポイントつぎ込んだ。


 合計20回。その全てを1回もミスする事なくカプセルボールやレアリティの高そうなアイテムを確実にキャッチし獲得していく。


 あまりにも正確無比なその姿に最初はわーわーはしゃいでいたサイレーン達も固唾を飲んで見守る事しか出来なくなっていた。


 20回全て取り切ったが、更に追い課金を続けていく。中にはポイントが貰えるカード等もあり、それを取ればある程度ポイントを取り戻せた。


 500ポイント 1000ポイント 2000ポイント 高いと5000ポイントとポイントがマイナスになる所か逆に増えていくほどだ。この間も1回たりとてミスしていない。


 筐体が強化されアームが強くなったとはいえ、それ以外はアームを操作する正確性や慎重さが大事になる。だが、そこは彼女のゲーマーとしての実力、機械に対してどこまでも上位に立てるソウルギアの効果も相まって、並んでいる【物理的にどうやってもとれない景品】以外を全て根こそぎ手に入れていく。


「あと数時間位やれば、必要な物は全部取り切れそうかなぁ。ケーキ屋、もうちょっと待ってて? あ、手に入れたアイテム後で欲しいのあればあげるよ」


「あ、あぁ・・・すげぇな」


「ふふん。機械とゲームだからね。なら・・・私の出番だろ?」


「だな。一緒に参加して貰って助かったよ。俺達だけじゃどれだけポイントが消える事になったか。本当、ありがとな」


「っ・・・! こ、こんなくらい軽い軽い! さ、景品全部取る所見てろよっ!」


 御堂に真正面から褒められたことで、目頭が熱くなる。誰にも見られない様に筐体の方を見つめ、ゲームを再開する片桐だが、じわりと涙が浮かんでいた。


 基本的に褒められ慣れてない彼女だ。人と話す事もあまりない為に、こうやって褒められる事がほとんどないからこそ、大事な友人で頼りにしている男から手放しでほめられた事がとても嬉しかった。


 獲得したポイントをチャージしては再度獲得していくと言う無限ループを続けた結果、用意されていた景品の9割(残りは設定上どうしても取れないもの)を全て獲得し終了した。


 プレイ中に手に入れたカプセルボールは総計30個にも及んだ。


「なんというか、ここまでくると才能ですよねー・・・」


 ミッションであまり役に立たないと考えていた片桐がここまでの独壇場を見せた事で、どんなプレイヤーにも使い道などがあるんだなと改めて気付かされたディーヴァ。戦闘力だけならば確かに最低だろうが、これからもこのようなミッションが出てくるのなら、様々な能力が必要になってくるのかもしれないと納得する。


「私ももう少しやりたかったけど、よく考えたら大金だったからこれでよかったのかも。流石リバティだね。ゲームならきっと一番だよ」


「ほ、ほめ過ぎだってのぉ・・・ほ、ほらカプセルボール開けようって」


 あわあわしながら手に入れたカプセルボールを開いて行く片桐。


 結果としていくつかハズレが入っていたとはいえ、20個を超える運命のコインが出た事で、わずか数時間でこの階層が攻略されるのだった。


 

―236話了


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次回は多分手に入れたアイテムの整理回・・・!(楽しようとしてる

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