第234話 分かった、今回はイロモノなんだ。


 4層をスルーした事に気付くことなく、御堂達は次の階層にやってきた。


 ダンジョンの倣いと言うか、階層毎に内部が違うのは彼等ももう慣れたものだが、今回の階層もやはりと言うかおかしい場所だった。


 まず次の階層への階段が目視できる範囲に既に存在している。但し、そこに向かおうとすると何かに弾かれたように進めないという状況になっているが。


 この階層はとても狭く、およそ戦闘出来る様な場所ではない。勿論周りに一切のモンスターの姿は見えず、代わりと言ってはあれだが、これ見よがしに中心部に多分ここに居る全員が見た事ある機械が気の抜ける音楽を鳴らしていた。


「・・・・・」


「・・・・・」


「・・・・・」


 御堂、片桐、ディーヴァの3人がとても疲れた顔でそれを見ている。


 機械の横には立札が置いてあり、そこにご丁寧に日本語でこの階層の説明が書かれていた。


──────────────────────────────────────

■試練【運命を掴み取るもの】

ここに辿り着いたプレイヤー達はこの試練を超えない限り、


帰還も次の階層に進む事もできません。これは転移系の魔法を用いても同じです。


ここの突破方法は、目の前の試練をこなし規定量の運命を掴み取る事です。


但し、1度の試練につき200Pを徴収します。


もしポイントがない場合、緊急避難として持っている所持スキル等を担保に


一定量のポイントを貸付いたします。


5度連続で試練を行う場合は500Pです。


この試練で手に入るものは運命の他に、様々なアイテム等があります。


24時間以内に10個の運命を掴み取ってください。


それが出来なければ、この空間に死神が現れます。


戦士たちよ御武運を――

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「・・・場末のクレーンゲームだよな、これ・・・」


「流れてくるテーマが既にそれだもんな」


「ディザスターって何考えてるんでしょうねー」


 試練だなんだの言っているが、目の前にあるのはデパート等の小さな遊具センターにセットされているような安っぽいクレーンゲーム機があるだけだった。


 中には人形や多分中に何かが入っているボール、多分回復剤みたいなもの、お菓子の入った箱など多種多様に取り揃えてある。とても無駄に。


 アームがとても弱そうなクレーンが時々「ういーんういーん」と動いているのが更にしょうもなさを感じさせる。


 先ほどゾンビだの化け物だのと戦った次の階層がこれなせいで感情の揺れがジェットコースターになってしまっていた。


 そして疲れてる御堂達の横で、サイレーンやミューズの二人はとてもはしゃいでいた。こういうゲームが結構大好きなのである。


 時々買い物に行く時にクレーンを見つけてはやりたいと言うのだがテルクシノエーに無駄遣いはダメだと怒られてあまり出来ていなかったのだ。


 このソウルギア3体、というか3人、小遣いを持たせると際限なく使うのでテルクシノエーお母さんにお小遣い制にされていたりする。


 ひと月にサイレーンが3万円、ミューズの二人は2万5000円である。


 ハトメヒトは2万円貰って貯金している。


「ポイントで運命とか言うのを取れば良いって事か・・・」


「これポイント毎回使い切ってる人だと辛そうですよねー」


「でも、私等レベルだと流石に余らせてるだろ?? で、誰からやる?」


「あー・・・まずは俺からやるわ」


「マスター! マスター! 私! 私やりたい!」


「まーちゃん! ショコラも!」


「あーしも!」


 やいのやいのと最早ダンジョンアタックと言うか、試練と言うか遊戯会場になっていた。そしてその状態を諫める者もいなかった。


 だってどうしようもないほどにただの遊戯なのだから。


 結局各自5回ずつ。御堂の場合はソウルギアを含めて5回で交代しながら必要な分の運命とか言うアイテムを集める事になった。


 途中手に入れたアイテムはポイントを消費して取っているという事で、個人個人で所有する事になった。その中で欲しいのがあれば適宜交渉という感じで、そろそろ我慢出来なくなったサイレーンからクレーンゲームを開始する。


 ボタンが2個。右に行くボタンと前に行くボタンというシンプルなタイプのクレーン。運命と言うのは中に沢山入っている丸いカプセルボールの中身の事を言っているのだろう。


「ふふふ。クレーンのサイレーンちゃんと呼ばれたじつりきを披露する時が来たね」


「いつの間にそんな二つ名ついたんだよ」


 御堂の疲れた声色のツッコミが入るが、サイレーン曰く【ゾーン】に入った彼女には聞こえていない。 


 横を見たり前から見たりと、どれが取れるかを把握している最中の様だ。真剣なその姿は、見た目も相まってとても可愛らしく、可憐だがやっているのは子供が遊ぶようなクレーンゲームである。


 もう一度言うが、やっているのは何故かクレーンゲームである。


 ディザスターが何を考えてこの階層を作ったのか御堂は開発者に出会ったら1時間は説教したいと考えておられた。


「よし、見えた! こう・・・で・・・こう!!」


 クレーンがサイレーンの予想に違わず目的の位置まで到着する。


 ゆっくりとクレーンが下がり、その時に【ぴろりろぴろりろ】と気の抜ける音が鳴り響く。


 そして目的のカプセルボール・・・ではなく隣の人形をがっしりと掴んだ。


「よし!!」


 なにが「よし!!」なのかテルクシノエーさんは少し額に青筋を立ててみていたが、やはりというかなんと言うか、人形を掴んだアームがあっさりとすり抜けて殆ど持ち上げる事が出来ずに失敗に終わる。


 「ういーん」と無情にもアームが帰ってきて1回目が終わった。


 その様子を一部始終見ていたサイレーンだったが・・・バン! とボタン部分を叩いていちゃもんを付けだした


「なにこれ!? アーム弱い! アーム弱すぎるよ!? こんなの卑怯だよ! マスター! これ絶対アーム弱くしてるよ!」


「せやな・・・」


 何故場末にこんなクレーンゲームがあって、誰もやっていないのか・・・それは今まさにサイレーンがやったように、「アームが著しく弱くてほぼゲット出来ない」からである。場所によってはそこそこアームが強かったりもするが、基本この手の機械は「取れない」様に出来ているのだ。


 それは目の前の試練を行うクレーンゲームも変わりはない。


 一応いくらか課金すればアームが強化されて取れる時もある。つまりこういう機械は【確率機】なのだ。お金をかければかけるだけ、手に入る可能性がある。勿論うまくやれば弱いアームでも取れない事はないが、サイレーンの自称プロれべるではどうしようもなかった。


 その後ショコラ、クレアと立て続けて失敗し、ハトメヒトがもう少しで取れそうな所で失敗し、最後に御堂が試したがやはり失敗して御堂達のターンは終了した。


 500ポイントが湯水のように消えて行ったが、試練はまだ始まったばかりである。


 クレーンゲームだが。


 どれだけ言おうともやってる事はクレーンゲームなのだが。


―234話了


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他の予定としてはストラックアウトか、インベーダーゲームとかを考えてました。

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