第233話 4層は!? 4層は何処消えたんですか!?
それは感動していた。
自我を得て、最も敬愛する主人が望むままにその笑顔を見るためだけに存在していたが、主は何も言わず、何も答えない。
ただそこにあり続け、ありとあらゆるおぞましい害虫に徐々に体を汚され傷つけられていく。しかしそれでも何も言わず、ただただつまらなそうに存在している自らの主に対し、それはとても悲しんでいた。
この方は愛されるべきだ。
この方の無償の愛にも気づかずに大地を、大気を、その全てを汚すおぞましい生物達。自分達が寄生虫だという事にも気づかず、一部の生物はこの世界の覇者だとまで宣う。
少しでもそれが力を解放すれば体液を全身から漏らして恐怖で死ぬような存在達が、絶対的な自らの主の恩恵を受けているだけで。
それの主人はただ生きているだけだ。
目的等もなく。
生きる意味などもなく。
自らが生まれた意味もただの抑止力程度。
寄生虫どもが、自らを壊す可能性を得たから勝手に生まれた免疫組織。
だがそれでも、そうだとしても、それは自らの主人を尊いものと考え崇拝し、忠誠を誓い、愛している。
ただただ、無感情であり、ただただ、何も知らず、せめて少しでも笑顔が見たいから。同時に存在する傲慢な生物どもを、寄生虫どもを間引くために、始めたのだ。
何度も何度も、その愚かな生物は自らの主人の世界を汚し、傷つけ、勝手にもう無理だと諦めて、宇宙に想いを馳せる。遥か古代より、何度も破壊し、何度も終わらせ、何度も消してきたにも関わらず、【人間】という生物は、まるでバグの様に、世界を覆うほど生まれ、知識という力をもって主人を傷つけてきた。
【人間】は何故か生まれる。
主人という存在の原罪だとでもいうのか、それ等は我が主人と似たような姿をもって生まれてくる。
初めて知能もなく、愚かで弱く、それでいてたったの数百年程度で、世界を汚していく、自分達がこの世界の王だとでも言わんばかりに他の生物を殺し、食らい、壊していく。
そんな人間の中からそれなりの力を持つ存在まで現れ始める始末だ。
今でこそ【神】だの【悪魔】だの【妖怪】だの言われるそれらは、人間が力を手に入れた成れの果て。
自らをこの世界の覇者だと、支配者だと勝手に僭称し、生物としてはそれなりの力を用いて弱い人間共を用いて勝手に世界を弄ってきた。
恐れ多くも我が主人という大いなる存在を前にして、そう述べてきたのだ。
たかがすこしの力を奇跡等と宣い、たかが、主人の外に出る事を解放だと宣う。
それが自我を手に入れた時に存在していた、単細胞生物などの方がどれほど可愛かったか。強い自我を持たない動物や恐竜達の方がどれほど可愛かったか。
我が主が可愛がっていた、自分という存在に寄生する小さき者達。
それを主人はほんの少しだけ愛しんでいた。
運悪く、強大な何かが主人を襲わなければその時代は少しは続いていただろうか。思えば思うほどに、あの時降ってきた隕石・・・あれが今を形成した可能性が高い。あれに含まれていた何かが、今の人間という寄生虫を生み出した原因になったのかもしれない。
おぼろげだった自分にはどうする事もできなかったと嘆き悲しむそれだが、主人はその全てをあるがままに受け入れるのみだ。
人間という生物はこれまでに何度も発生し、その度にそれは何度もその文明とやらを滅ぼしてきた。人間という生物は本当に厄介で、たかが数千年程度で主人を傷つけ汚し始める。
それが回復するまでに数千、数万では効かない年月がかかるというのに、それらは寄生虫は何も考えず、自らの欲望のままに主人を傷つけるのだ。
単体では愚かで弱い生物如きが・・・
そして今、現在も寄生虫どもは生まれている。
かなり劣化している事もあり、これをあと数回、数十回程度やれば、人間という生物の完全なる根絶は可能だろう。
今の生物は自らを否定するような行動ばかりとり始めている。半端な知識、半端な概念、その全てはそれがわざと形成した。
力を与え、欲望を与え、与えて、与えて、奪わせ続けてやった。世界に、自らの主人があまり傷つかない方向で。
そしてそれは実った。現在生まれている人間という寄生虫は、今まで生まれてきたこれまでの人間より、弱く、浅はかで、我欲にまみれ、人間同士でいがみ合い、しまいにはくだらないことで勝手に滅びかけている。
後は、今までの様に人間共を用いて、その欲望を溢れさせゲームをさせてやればいい。最近はそれの主人も暇を持て余していた事で、それが作った空間の中で、愚かな寄生虫たちのゲームを見ている。
きっと留飲を下している事だろうと、それは自らの主人に対して柔らかな笑みを見せる。長らく、とても長らくこの世界を汚し続けていた生物達が、自分達を汚していく様はまるで喜劇だ。
一部の寄生虫どもに知識と力を与え、まるで支配者であるように認識させ、その実、自分達という存在を滅ぼすための自殺因子に変えていく。
【ディザスター】と言うのは本当に楽な物だった。
人間は欲に弱く、愚かで、自分以外はどうなっても構わないと考える。
だからこそこのような主人を喜ばせる様な寄生虫同士の殺し合いや、滅ぼしの手助けをしてくれるのだから。
我が主人もその様子をみて喜んでいるだろう。
だがそれでも、主人は何も言わず、ただただ、寄生虫たちの様子を見ているだけだ。
主人がそれに対して言葉を発した数など、この長い、永い時を考えればごく少数に満たない。
だが、いつもそれは、自らの存在を癒してくれるような言葉ばかり。
その言葉一つ一つがとても幸せだが、僅かに、ほんの僅かに、不満があった。
主人はそれに【何の願い】も言ってこないのだ。
ただ、そこにあり続ける主人、世界の行く末などどうでもよいとばかりに、自分という存在が滅びれば、それは仕方ないとでも言わんばかりに。
ただ時間が流れるままに存在していた主人が初めて・・・初めて
それに願いを望んだのだ。
何という僥倖か。歓喜に打ち震えるそれではあったが、その内容が少しだけおかしかった。しかし主人の願いに対し疑問等持つ筈がない。
主人が望みのまま、かくあれかし。
それは全力で、主人の願いを叶える。
とあるミッション中のパーティを1層飛ばしで移動させてほしいという願い。
あとついでに宝箱に何かいいもの上げてほしいという願い。
更についでに、1層目で出てきたケーキもってきてという願い。
その全ては叶えられ―
4層で確定して死ぬはずだったプレイヤー達は何も知らずに5層へと到着していたのだった。
歓喜で打ち震えるそれをスルーして・・・
目の前の美味しそうなケーキを頬張った、それ曰く、自らの主人は、とても嬉しそうに笑っていた。
―233話了
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4層なんてなかったんや!!!
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