第229話 レアモンスターがいるならミディアムモンスターが居たっていい


 奇襲を見破られたモンスターは逃げる事はせずに、寧ろ怒りの絶叫を放つ。

 

 その見た目は黒い襤褸切れに覆われ、姿がよく見えない。全身をワイヤーで縛られつつも空中に浮かぶ姿は、まさに悪霊と言わんばかりの姿だ。


 切り離されている襤褸切れから伸びている腕が複数存在し、それは全て胴体にはつながっておらず、独自に動いているように見えた。下半身はないのか襤褸切れがだらりと垂れ下がっている。


 浮かんだ手にはそれぞれ鉈や鋸、銛や鎌など、いかにもと言った武器を握っている。


【オボボボボボボボボボ・・・!】


 モンスターはおぼろげな思考の中、少しだけ困惑していた。


 獲物に奇襲を防がれた事もそうだが、そこには先ほどバラバラにしたはずの獲物たちがいびつな状態で立っているという事に。


 それぞれが身の毛もよだつような絶叫を上げ、此方をうつろではあるが憎悪の瞳で見ているのだ。先ほど確かに玩具として弄び飽きたので捨てたそれが、綺麗に戻されている事に苛立ちも同時に感じる。


 誰がこれをやったのか、モンスターには見当もつかないがこの中にその犯人は居るのだろう。モンスターは歓喜で震えている。困惑しつつも目の前に弄び壊せる玩具たちが居る事を。


【ヴァアアアアアアアアアアアア!!】


「識別完了しました! 映します!」


 テルクシノエーが声を張り上げると当時に視覚的に邪魔にならない部分にレアモンスターの詳細なデータが表示される。


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■『弄ぶ死神・メイフォロウ』 Lv5 レアユニークモンスター

パワー:12 マジック:12 ガード:12 レジスト:27

【攻撃時生命力吸収:2】

【6本の腕】【常時恐怖空間】【即死攻撃】【物理攻撃無効】【魔法耐性】

【即死無効】【麻痺無効】【毒無効】【発狂無効】【混乱無効】【沈黙無効】

【邪属性無効】【闇属性無効】【光属性弱点】【聖属性弱点】

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「っざけんなって!? 物理無効かよ!?」


 この時点で物理がメインの御堂に出来る事はほぼない。


 魔法属性付与の魔法があれば物理属性に魔力を乗せられるので攻撃が通るようにはなるが、それ等の魔法は残念ながらまだ手に入れておらず、このモンスターは魔法にも耐性を持っている。


 更に言えば、サイレーン達が使える魔法は闇魔法などがメインで、唯一効きそうな攻撃魔法はレアの中級魔法【焦火炎】と【岩石弾】程度。


「マスター! 来るっ!」


【おああああああああああああああああああ!!】


 ふわりと浮かびながら飛び込んでくるレアモンスター、いやメイフォロウが無造作に浮いている6本の武器で襲い掛かってくる。


 その攻撃は緩慢ではあるが、そもそも巨大なため範囲がでかい。更には威力はともかくそれにはスキルによって即死攻撃が付与されている為、僅かにでも命中すればそのまま死ぬ可能性が高い。


「っ!!」  


 四方八方から襲い掛かってくる武器を大きく下がってギリギリ回避するが、逃がすまいと次の攻撃が文字通り飛んでくる。


 今度は逃がさないとばかりに周囲にばらけた腕が囲むように襲いかかり。


【ギイイイイイイイイイイイイイイイイ!!】


「っ! あ、あんたら・・・!」


 攻撃が全て命中する。


 自ら盾になったアンデッドプレイヤー達に。元々死亡しアンデッドと化している彼等に即死攻撃は意味がない。とはいえ一応ある程度防いだものの脆いアンデッドの体。数体は状態を保てずその場にバラバラになって崩れる者もいた。


 そのまま動かずプツリと糸が切れたように動かなくなる。守り通し、役目を果たしたプレイヤーの魂が天に昇ったからだ。それでもまだ動けるアンデッドは必死にもがいて逃げようとしている腕を自らの体で抑え込む。


 そこに、指向性を持った音の衝撃波が苛立っていたメイフォロウに直撃した。


【オオオオオオオオオオオオオ・・・!?】


「物理攻撃はダメでも、魔法や私の歌は通るね――」


 サイレーンがスキルを発動し音の砲撃を浴びせていく。耐性を持つ以上、中級魔法よりも【サイレーンヴォイド】の方が威力が高いと判断し、攻撃をそちらに切り替えた。


 メイフォロウにとっては微々たるダメージにしかならないが、邪魔な事この上ない。それに6本の腕の内4本は邪魔なアンデッドに抑えられているのが更に気に食わないようで、怒りの叫び声を上げている。


 自分の玩具程度の存在が、目障りだと言わんばかりの残った4体の死体を無理はり剥ぎ取ろうと力を籠めた瞬間――


「それじゃ始めましょう! ディーヴァちゃんオンステージ! おさわりは禁止ですよー!!」


 更にそれ以上の謎の黒い物体が、残った全ての腕を覆いつくした。


 何の冗談かと言いたくなるような、黒いのっぺらぼうのような存在がアイドルオタクの様な格好で法被を纏い額には【ディーヴァたん命】や【ディーヴァたんLOVE】等と書かれたハチマキ、サイリウムの様な何かを持っている者や、何か本などを詰め込んでいる袋を両手に携えている者、両手にハート型のディーヴァの顔写真が映し出されたうちわみたいなのを持っている者などと、ハトメヒトの事を言えないだろうと言いたくなるようなクリーチャーたちが何十体も現れる。


「な・・・んだこりゃぁ!?」


「物理無効みたいですけど、それ以外は普通に通りますし。ダメージは通らなくても押さえつけたら動けなくなるみたいですね~。透明にもなれない時点で―」


 ソウルギアを展開し、アイドルの様な姿になったディーヴァがロッド付きのマイクを手にして不敵に笑っている。


「ただの雑魚ですよね♪ そ・れ・に~♪」


「えぇ、貴女の言いたい事はわかるわ」


 その隣には普段以上の魅力を放っているテルクシノエー。恐怖空間で怯えていた片桐でさえ、同性である彼女でさえ息をのむ様な美しさを放っている。


 それはまさかのディーヴァの呼び出したクリーチャーですら動きを止めてしまうほど。


「うわぁ・・・テルクシノエーさんって、本気出すとやばいですねー。魅了無効もってきて良かったぁ・・・ま、そういう訳ですよ。貴方――」


「魅了耐性・・・持ってないわね」


 美の化身テルクシノエーと、アイドルディーヴァが居たのがメイフォロウの不運だったと言えるだろう。



―229話了


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そんだば、魅了無効とか耐性もってないからだべさ


 


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