第230話 行き過ぎた過剰魅了の先
皆さんいつも沢山のコメント有難う御座います。
返信する余裕がなく申し訳ありませんが、全てのコメントは日々の
楽しみになっています。誤字指摘などもとても助かります。
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女神が居た。
美の化身と言わんばかりの女神がそこにいた。
朽ちたモンスターである、それの身体が目が鼻が耳が、精神が全て目の前の美しい存在に奪われる。
思考が纏まらず、何をすればいいのか分からず、それは喜びのままに地面に降り立ち平伏する。自分の醜い汚れた姿で、視線で汚して良い存在ではないのだ。この世の全ての美を集めても目の前の存在は叶うまい。美など気にした事も無かったそれが、あまりの美しさにそれを汚してはいけないと心の底から認めてしまうほどには、その存在はとても美しかった。
魅了無効所か魅了耐性すら持たない敵対存在にテルクシノエーという美の凶器はこれ以上無いほどに突き刺さる。
全身がテルクシノエーに出会えたという幸運に沸き立ち、一切の思考が塗り替えられていく。か弱い玩具を甚振る事を楽しみにしていたそれが、全て上書きされていく。テルクシノエーという美の化身を頂点とし、彼女のために動き、彼女のために戦い、彼女のために死ぬ。
そこには彼女の意思など関係なく、己自身がその全てを肯定し、これから先残る生涯全てを捧げてしまいたいと懇願する程に。
この時点で、モンスターはモンスターではなく、ただの傀儡に成り果てた。
「うわぁ・・・」
更にはディーヴァの製造したクリーチャーまでもが複数体程その場に平身低頭、テルクシノエーに向かい土下座の態勢で感動と忠誠でうち震えている事に僅かながらに恐怖を感じた。
ディーヴァ自身、ソウルギアがアイドルっぽくなるという事で魅了関係のスキル等は多用した事がある。耐性がなければ相手が意のままに動く洗脳状態や傀儡状態まで自由自在だ。
だが、目の前のこれは洗脳でも傀儡でもない。
【存在が書き換えられた】愚かな駒が生まれた瞬間を垣間見た。
ただテルクシノエーに見られただけで、耐性も無効も持っていなかったそれは、自身を形成する全てをテルクシノエーの為の存在になるために上書きされたのだ。
それは洗脳や傀儡といったような、思考があやふやな状態ではなく。あくまで正気で、正気のまま、【この世の何よりも自分よりも最上の存在】としてテルクシノエーを据え、生まれ変わったのだ。
そこには最早、裏切る、見限る、落胆する等といった事は永劫なくなる。たとえテルクシノエーが死んだとしても、その美貌が陰りを見せたとしても、一度決まったそれは変わる事がない。
何よりも全てはテルクシノエーの為。自分の存在よりも楽しみよりも、自分の最も大切な物よりも、大切な存在が居たとしても、その上にテルクシノエーが存在するようになった。
『えげつないなんてもんじゃないですよ・・・耐性がなかったら、それだけであらゆる生物がテルクシノエーさんの駒に変わるって事なんですから』
そして耐性や無効もどこまで通用するかという脅威もある。
そこには自分が生成したソウルギアのクリーチャー達。本来ならば主人であり最高のアイドルであるディーヴァを頂点に抱き、愛を囁くそれら。勿論ディーヴァ以外に対しては確定して【魅了無効】をセットしてあるそれらが、何体か目の前の壊れ生まれ変わってしまったモンスターと同じようにテルクシノエーを崇拝しているのだから。
テルクシノエーとしては、魅了をかけたのはモンスターだけなので周りのディーヴァのクリーチャーが平伏してるのには驚いていたが、それを察するに彼女自身、自らの魅力とその力がどこまで及ぶか分かっていなかったのだろう。
上手くいけば魅了し、傀儡状態に出来れば御の字程度に考えていたのかもしれないとディーヴァは睨む。それでなければ現状の惨状を見て混乱している訳がないのだから。
『要注意ですねー。敵対するつもりはないんですけど、万が一そうなったら僕の魅了無効とか本当に作用するのか心配ですよ』
そんなディーヴァの心配をよそに、戦闘は至極あっさりと終了した。
武器を抑えていたアンデッド達も限界だったのかその全てが天に昇っている様で、どれも動く事はない。
「終わった、のか?」
「そのようですね。本気で魅了してみましたがここまで上手くいくとは」
「周りの謎生物まで平伏してる件について」
「そ、それは私が悪い訳じゃない・・・と思いたいわね」
テルクシノエーとしても魅力を用いた戦いは殆どしたことがなかったので、どこまで行けるか未知数だったのだ。本格的に使ったのは緊急ミッションの時にフェアリーズ達に用いて魅了をかけ続け自壊させていた程度。
上手くはまればあの様に自壊まではせずとも、あの時動きを止められた巨獣型のモンスターの様に此方の有利に持って行けると考えての魅了だったが。結果はまさかのそれ以上。ステータスが上がりスキルが増えたのもあるが、ただの魅了とは違う生易しい物ではない事に彼女自身少し以上に驚いていた。
見えはしないがサイレーンもテルクシノエーもミューズの二人も、ソウルギアとして存在してからまだ1年も経っていないのだ。自分自身の力を詳しく試すにも、戦闘スキル等ならともかく魅了云々は試す事がほとんどなかったので未知数だった。
そもそもが地味な衣装を好むテルクシノエーなので、魅力云々はあまり計算に入れてなかったのもある。
「で、テルク姐さん、あれどうすんの?」
「どうすると言われてもね・・・死ねって言ったら死ぬのかしら・・・って!?」
そう軽く言った瞬間、メイフォロウは歓喜の咆哮と上げるとともに、自らの女神の願いに応える様に、自分の存在を分子の一つまで消滅し死ぬ事を選択した。
メイフォロウを形成するその全てが、自分の女神であり最上位であるテルクシノエーの願いに応える様に、迅速に、確実に、自らの存在を殺していく。
それは生まれ変わったメイフォロウにとって、どこまでも幸福で、歓喜に包まれた最後の瞬間だった。
「・・・・やばいな、魅了」
「やばいね、魅了」
「あわわわ・・・」
軽く言った言葉を至上命令とばかりに一瞬でこなし、喜んで消えていくモンスターを見て引かない存在はそうそう居ないだろう。
改めてテルクシノエーの魅了がどれほど迄脅威なのか理解できた御堂達だった。
「激戦になると思えば、一瞬で終わりましたねぇ。そういえばポイントはどれくらい貰えましたー?」
「ん? レアみたいだけどモンスターだし倒しても10ポイントとかそんな・・・・10050!?」
「てか、まーちゃんあれみて・・・あいつが死んだ場所に輝いてる宝箱があるんだけど」
「うわ、マジだ・・・」
「もう色々あり過ぎて頭疲れてきましたよー」
手に入った莫大なポイントに驚いただけではなく、そこには輝く黄金色の大きな宝箱が現れていた。混乱するなと言われても仕方のない状況だろう。
ちなみに先ほどから静かな片桐はモンスターの恐怖空間でフラフラになっている所にテルクシノエーの魅了効果の余波を受けつつ、現実の状況なのか理解不能な物を見させられてもれなく眠りの世界に旅立っている。一応そこではハトメヒトが膝枕しているので地べたに寝そべっていないので虫が顔につく事はないだろう。ほのかな乙女心で彼女を救うハトメヒトがそこにいた。
大激戦になりそうだった戦いがテルクシノエーのファインプレーで瞬殺されたので、だれも彼も色々とテンションがおかしい事になっているが、漸く気持ちを落ち着けたショコラとクレアがそれぞれ役目という事で宝箱のトラップを調査している。
「そういえばマスター?」
「ん、なんだ?」
「雷帝剣使えば物理当たったんじゃないのかな??」
「あれ、【剛剣術】スキルにしか対応してなくてよ、倉庫に置いてきたんだわ」
【雷帝剣】攻撃時に雷撃の追撃や雷属性を付与できるかなり高額で強力な武器ではあるのだが、御堂が使えるスキルには使えないという致命的な弱点があったので、宝の持ち腐れという事でセーフハウスの倉庫に貯蔵しておいたのだ。持ってきていれば少しは何かの役に立てたかもと、一寸だけ後悔している御堂。
御堂の体格やステータスではスピードと手数を活かした【速剣術】よりも一撃の火力などに懸ける【剛剣術】の方が相性がいいのは確かだが、SSスキル【トランスブースト】を発動する事でかなりの速度を出せるようになるため、総合的には【速剣術】を選んだ方がいいと考えたのだ。
後は誰にも言っていないが、緊急ミッションの時にレヴォリューションが繰り出したあの超連撃を遠目に見て、憧れたという所もある。
それで攻撃のきっかけになる武器を置いてきたのは失敗だったが。一応倉庫においておけばほかの誰かが使えるという事を考えて置いてたのだが。
「次からは持ってくるか、魔法属性を付与できる魔法を手に入れるかしねぇとなぁ・・・」
「だね。まだまだ覚える事沢山だよ」
トラップの調査をしているクレア達を見ながら、ひとまず落ち着いた現状に少しだけ息を吐くのだった。
―230話了
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コメントで頂いた雷帝剣はおいてきました、このさきのたたかいにはついて・・・
はい、わすれてました! わすれてましたね!! ゆるしてあげてください
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