第227話 ホラー世界でス〇ラーを踊ろう


「はい、ワン・ツー。ワン・ツー。そこでくるっと回ってターン! スカート! そこスカートのふわり具合が足りておらぬよ! 羞恥心消して! そう! 見えてる! アイドルが見えているぞ! はいそこ! イケメンスマイル! 生前モテなかった!? 気にするな! 今を見るのだ! そう! そこで手を合わせて此方を向いて! えびぞり! ナイス! ナイスである!」


「・・・・」


「うわぁ・・・」


「うわぁ・・・・・」


「ぶらーぼー! ブラーボー!! 見事! 汝等のそのダンスがあれば世界を狙える! 狙えるぞ! 今日今からより、汝等はプレイヤーでもアンデッドでもなく、ダンサー! 某有名ミュージシャンを超えるアイドルとなるのだ!!」


 ハトメヒトが感動したとばかりに盛大な拍手を送っている後ろで、御堂達は何をどうしていいのか感情が追い付かず止まっていた。


 あのディーヴァですら「うわぁ・・・」と言いながら思考停止しているのだからその異様さは計り知れないものだろう。


 何せ目の前には先ほどまで死体の輪を形成していたプレイヤー達の死体がアンデッドとなって、軽快にダンスの練習をしているのだから。それも割とノリノリだ。


 自我があるのかないのかわからないが、ハトメヒトの叱咤激励の中に恥ずかしがってたり頬を染めてたりとの事なので多分自我っぽいのはあるのだろう。どうみても目の前の存在はホラーで出てきそうなゾンビでしかないのだが。


 邪属性魔法【屍誕陣】で形成されたアンデッドたち。それは先ほどまで死んでいた彼等の魂が強制的に肉体に宿り、生きた死体となっている。


 普通に考えれば邪悪の儀式そのものなのだが、形成されたアンデッドたちは。前に御堂達が見た全てを憎み襲ってくるような存在ではなく、自分達が死んでいる事に驚いてはいるものの、納得しその場に残っているように見える。


 声帯が死んでいるのでまともに会話もできず、【ぐげげ】とか【うああああ】しか言えていないプレイヤーのアンデット達だが、なぜかハトメヒトはそれ等を理解し、色々情報を手に入れていた。


「さて、主殿、彼等から聞かせてもらった話ではあるが」


「行き成り素に戻るんじゃねぇよ!? どうして急にダンス踊り始めてるんだよ!? てかなんで目の前のゾンビたちにダンス教えてるんだよ!? そしてなんで律義にゾンビたちがこなしてるんだよ!? おかしいでしょう!?」


【うああぁぁ・・・】


 苦労してるんだな・・・と言わんばかりに男のプレイヤーのアンデッドが、御堂の肩をぽんっと叩いてゆっくりと頷く。どう見てもホラーなのだが、とても心配されている姿がそこにあった。


「ほらっ!? アンデッドにまで心配されてるんだが!? てか何でこのアンデッドたちは襲ってこないんだよ!?」


「主殿・・・世の中は深い事を考えると負けになるぞ?」


「ちっくしょう!!」


「さて、先ほども少し言ったが。彼等からどうしてこうなったかの情報を得るとともに、このままで悪霊等になってしまう可能性を考慮し、こうして力を借りる事で邪念を発散してもらっているというのが、今の出来事である」


「・・・えーと、つまり?」


「ダンスやら楽しいことやらしてもらって、少しでも気分を発散させ、その後天に召されるように協力していたという訳であるな。ダンスは死体のダンス辺りは割とポピュラーと聞くので、やってもらっただけであるが」


 あっけらかんというハトメヒトに全力で脱力する御堂。見れば6体のアンデッドは見た目こそあれではあるが、微妙にすっきりした様にそれぞれスマホを弄ったりして会話を試みてたりしている。


「さて、こうなった理由はこの辺りに潜むレアモンスターのようだ」


「ほほぅ・・・一体なにやってるんだろうこの幼女と思いましたけど、そういう情報もゲットできてたんですねー」


「その為に召喚に応じてもらったからな」


「まさか、あんな外法をこういう風に使うなんて思いませんでしたよー?」


「使い方次第、力等そのものに悪意も善意もありはせんよ。さて――」


 ハトメヒトがアンデッドたちから聞いた情報を話していく。


 彼等は既に3階層を超え、4階層目でこのフィールドの辿り着いていたらしい。道中も強いモンスター等とエンカウントし続けてかなり疲弊していたという。


 このダンジョンは全ての階層が地続きという訳ではなく、無数に存在する階層にランダムで到着するタイプとなっているので、稀にこういうバッティングもあり得るのだ。その時にプレイヤー同士で協力し合う事もあれば殺し合う事もあるだろうが、今回は彼等が少し回復のために休んでいた所にモンスターに奇襲され、壊滅したらしい。


 出てきたモンスターは全身が回転のこぎりになっているというおぞましい姿で、更には素早さも高く、モンスターの奇襲に気付いた斥候役が最初に殺されてしまった。直ぐに戦うか逃げるかの判断をとろうとしたが、その一瞬の逡巡すら許す事なく支援役の女性プレイヤーの首を跳ね飛ばし、激昂した他のプレイヤー達すら全て返り討ちにした。


 一応最後まで残った、戦闘特化のプレイヤーはある程度戦闘出来たので、疲労していなければ、奇襲されていなければダメージは免れなかったとしても負ける事はなかった程度の実力だったそうだ。


 その後は彼等も意識が途絶え、ただ恐怖と苦しみと憎しみが暴れだしそうになっている時に、何者かの優しい声が聞こえ、それに答えたらアンデッドとしてその場に立っていたと言うのが彼等の主張だった。


「奇襲か・・・疲労してた所にそいつはな」


「情報助かるわ。あーし等が全力で見てるしかないね。早めにこの階層クリアした方がよさそ」 


「で、その。ハトメヒト、そのアンデッド達はどうなるんだ?」


 揃ってスマホを弄っているアンデッドの方を向いていたハトメヒトが優しい声色で告げる。


「これを戻すには蘇生薬を用いるしかなく、我等にはその手段はない。そして彼等も死んで蘇りたいとは望んでいても不可能だと納得している。故に、このままゆっくりと眠りたいとの事だ。募っていた怒りと恐怖は先ほどの戯れで解消された。後は彼等が昇り次第、いつも通り埋葬アプリを使えばよい」


「ハトメヒトって、やってる事カオスなのに、そういう所だよね」


「あぁ、後。埋葬等のポイントについては、主殿、我の主人である貴方に全て渡しておきたいとの事だ」


「はっ・・・!? い、いいのかよ?」


 見た目から女性のアンデッドがスマホのチャット機能を用いて文章を書き、御堂に見せる。


【もうどうしようもないし、最後に心残りも消化できたので十分です。ある程度のポイントは現金に換えて家族に仕送りしておきましたから。最後のメールも残せましたし。だからせめてこれ位はさせてください】


 隣では御堂の肩を叩いたアンデッドも同じく文章を見せてくれる。


【死んでからまさか自我のあるアンデッドになるとは思わんかったし、ここまで馬鹿やればだれを憎め~とか考えつかねぇからな。どうせ後先短いって俺も思ってたし、最後に看てくれる奴等が居たなら、ま、いいだろ】


 周りのアンデッドたちも同じく頷き、残っていたポイントを全て御堂に配布した。その作業が終わると、彼等は武器等を構え御堂達を護るように配置する。


【最後にあんたらが次の階層に行くまでは手伝ってやるよ】


【もうソウルギアは呼び出せないみたいだけど、レベルは4あるんで、壁にはなると思うよ】


【あの子が言うには、肉体が破壊されてもそのまま天に昇れるらしいし、容赦なく使い潰してくれ】


「あんたら・・・・」


「・・・・」


 御堂がその言葉に感動している傍で、ディーヴァが驚愕している。


 ハトメヒトが使った魔法はディーヴァも流石に知っている。あの人格最低とも言えたリジェクションが使っていた外道な魔法なのだから。師匠である彼ですら、あのような下劣な魔法と卑下していた魔法であるそれを、ハトメヒトが使った事で、もしかしたら御堂もそういう魔法を使う人間になってしまうのかと少しだけ寂しくなったいた所にまさかのこれだ。


 呼び出したアンデッド達がハトメヒトの声で落ち着き、理性を取り戻し、それを用いて何かするかと思えば話を聞いたり、彼等のスマホを手渡してやったり、何故か急にダンスとかをやり始めたりと、はっきり言って意味がわからなかった。


 

―使い方次第、力等そのものに悪意も善意もありはせんよ



 どんな外法であろうとも、使い方が正しければ、もしくは正しく使おうとすれば、ここまでの差が出てくるのか、と。あの魔法を使った存在に驚愕せずにはいられなかった。


『・・・・ケーキ屋さんは、彼もソウルギアも興味が尽きませんね』


 異様な光景な筈なのに、和気あいあいとした雰囲気のなか、奇襲に備えつつ次の階層の為の階段を探すのだった。


 片桐は途中で恐怖で口から魂が出てた。


  

―227話了


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ムーンウォークとかもやりましたし、激励方法はジムのトレーナーさん風味です。

筋肉が喜んでますよ! 系列

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