第223話 予想以上の物が出てきて困惑するセーラー力士さん(287)


 ダンジョン内でデザートを作るというとんちきな試練。


 実は過去に無かった訳ではない。過去・・・まぁつまり前回ではあるが、無数に存在するダンジョン階層の中で、食べ物を作る試練や、歌を歌って高得点を出す試練、黒ひげ危機一髪で先に黒ひげを飛ばした方が負けな試練など、


 【どうしてこんな試練入れたんですか?】と突っ込みたくなるようなものは既にあったりする。勿論失敗すれば攻略は進まないので、その場合は実力で押し通すか、魔法などで撤退するしかない。


 力で無理やり行ける事は確かだが、その場合のモンスターは基本的に討伐適正レベルより大幅に強化されていたり、面倒なルールが適用されていたりと簡単にはいかない。目の前の見てるだけで精神的に削れていきそうなセーラー服力士たちは、ギャグな見た目と態度とは裏腹に、戦うとなればレベル8以上の強敵として立ちはだかる事になるだろう。


 余程の上位者でもなければクリア出来ないだろうし、損害も大きい。更に言えば倒した所でポイントも貰えないので、骨折り損にしかならないのだ。


 となれば出来る限り試練をこなすのが一番だが、それも出来ないのであればそうするしかないだろう。


 そんなセーラー服力士たちが、目の前に出されたものを見て驚愕に打ち震えていた。


 そこには【完璧】としか言えないデザートがあった。


 プロのパティシエールがありとあらゆる技量を用いて作ったかのような、繊細なフォルム。漂ってくる香りはそれだけでこれが最高級のデザートであると如実に示している。


 それは御堂が得意とするケーキの基本中の基本と言ってもいいショートケーキ。


 上部には沢山のいちごやチョコレートハウス、砂糖菓子の人形がちょこんと載せて在り、美しい中に可愛らしさすら感じさせる。僅かなずれもないクリームの塗り方やホイップの巻き具合に至るまで、プロの手腕と言えた。


 そもそもの問題で、こんなのを作れるプレイヤーが早々居る訳もなく、これを見た力士セーラーさん達はあまりの美しさに1分ほど動く事が出来なかった。


「止まっちゃいましたねー」


「多分まーちゃんのケーキをみて時が止まったんだと思うよ? プロレベルだもん」


「ここまでの物が出てくるとは思わなかったって事かぁ。ま、普通そうだよなぁ」


「マスターのケーキが次回からの難易度をこれをスタンダードにする」


「俺を戦犯にするのやめろ? で、これは合格なのか? 味を見るんなら切り分けるぞ?」


 微動だにしない力士オブザセーラーたちが御堂の言葉で漸く再起動する。何故かその後ろでなんか大きなゼンマイをセーラー服に刺して回しているハトメヒトがいたが、誰もがスルーする事にした。驚愕で気づいていない力士たちは言わずもがな。


【そ、その通りだ! み、見た目などいかようにでも工夫できよう!】


【味だ! 味を見て合否を下す!! さぁ、切るがいい! 私はチョコハウスを希望する!】


【なんだとぉ!? それは私が狙っていたのだ! お前は砂糖菓子の人形の方にせい!】


【譲れん! これは譲れんぞぉ! お主などそこで「ダンジョンで制作記念」と書かれた板チョコで十分だ!!】


【お、おのれぇえええ!】


 ケーキの上部のおまけの取り合いで張り手の打ち合いになるセーラー力士達がそこにいた。


 ガチだった。普通に戦闘してるんじゃないレベルでのガチの張り手の打ち合いからのがっぷりよつ、そこにはない筈なのになんか土俵すら幻影として見えてきた。


 ピンク色のセーラー力士が一応力士なのでスカートの上からまわしを身に着けているのだが、それを下出で掴んでの投げに移行するが、 蒼と赤と黄色がレインボーみたいになっているセーラー力士が気合で耐えきる。


 お互いにまわしを掴み、ないけど土俵際に押し込もうとする姿がそこにあった。


「俺達は何を見せつけられてるんだ・・・?」


「ケーキ屋さんのケーキはモンスターの理性を奪うんですね。僕覚えておきますー」


「テルクシノエー・・・ディザスターってバカなのかな?」


「頭痛くなってきたわ・・・」


「あ、ピンク色が投げられ・・3回転して着地した!?」


「そのまま、飛び跳ねて頭突きしてきたんだけど!」


「もう相撲じゃねーな」


 気が付けば二体のセーラー力士はピンク色と虹色のオーラを纏い、超人相撲をケーキそっちのけで行っている。


 その張り手は音速を超え、衝撃波を叩きだし、投げられようものなら空中で反転して頭から突っ込んでいく。


 回避され一応相撲で言えば負けになる足以外の部分が地面にぶつかる瞬間に闘気を爆発させ衝撃を和らげ足から着地し、その勢いのままローリングソバットを放つ。その一撃を片手ではらい、残像が見える速さで連続蹴りを放つが、それを全て張り手でいなしていく。


 ちなみにその間も、子供の口喧嘩の様に、ホイップが多い方を貰うだの、チョコとホイップの黄金比も分からないやつにチョコハウスは譲れないだの、砂糖菓子人形の良さも分からないとか、お前は遅れているだの言い合っている。


「ねぇマスター。おすもうって、蹴りとかありなの??」


「使う奴は少ないみたいだが、別に反則じゃないらしいぞ?」


「あの超連打キックは?」


「普通のお相撲さんはあの速度と体格で頭まで届くような連続蹴りとか多分出来ないから・・・」


「途中空中で浮かんで着地するのは?」


「お相撲さんは普通の人間だから」


 もう見てるしか出来ないので、目の前のとんでも相撲(精神が削れる)を眺めながら予備で作っておいたケーキを食べている御堂達。


 それに気づかずセーラー力士たちは目的の物を勝ち取るために相撲(爆笑)を続けている。気が付けば張り手の先からエネルギー砲みたいなのを出したり、それを空中ジャンプし華麗な回転蹴りをしながら霧散させたりと、やりたい放題だ。


 馬鹿じゃないのかと脱力したくなる光景ではあるが、それはそれとしてこれと戦う事になったら無事では済まないんだろうなぁ、と改めて気付かされてもいる。


 ディーヴァも脱力こそしながら見ているが、戦ったら逃げるのが精いっぱいだと判断し、この状況を何とか出来る御堂と組めた事に改めて安堵していた。


 そして・・・チョコハウスを巡る相撲はまだ終わりそうにない。


 新鮮さを保つために、ハトメヒトがいそいそとケーキを保存している姿があった。


―223話了


──────────────────────────────────────

知ってますか? まだダンジョアタックミッションの1層目もクリアしてないんですよ?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る