第222話 戦場でクリスマス所か戦場でケーキ作るお


 まさかの戦場、ダンジョンにて戦いではなくデザートを作れと言われて「はいわかいました」とそれらを作れる豪胆な者はどれだけいるだろう。


 確かに参加者がパティシエや関連のプロであるならば出来ない事ではないだろう。但しここは少しでも気を許すとモンスターが襲い掛かってくるダンジョンフィールドである。周囲にモンスターの姿は見当たらないが、それでも家屋からは一般人では何もできずに殺されてしまうほどのモンスターが居るという中で、更には時間制限がつき、周囲の機材と言っても碌なものはない状態で、相手を唸らせるものを作れと言われて、作り切れるものがいるだろうか。


 というよりも参加者の中でこの状況はともかくとして美味いデザートを作れと言われて作れる者がいる方が稀である。他にもいくつかのプレイヤーパーティがこのミッションに参加しているが、ここに到着してしまえばその時点で詰みになるものが多い。


 そんな中、何故かプロではないが、プロのパティシエすら凌駕する勢いの技術をもつプレイヤーがいた。つまりは御堂である。


 様々なデザートはほぼ大体作れる上に、一番の得意料理はそのプレイヤー名の通りケーキ作りだ。デザートとしては最高峰でもあるだろう。


 後何故か、万が一を考えてケーキの材料とそれを作成するための機材は全てマジックバッグに詰め込んでいるガチ仕様である。何故そんな事をしてるんだと言われれば、ケーキがどこでも作れるなんて最高じゃあないかと言葉が返ってくるだろう。


 わざわざ、本当にわざわざケーキをどこでも作るために、オーブンやらも自費で買い、それ等を動かすための発電機とかすら端数ポイントを換金して買っているのだから本気度が違う。


 とはいえ、それを実際にやる予定は今の所なかった、しいていうならば夏あたりに旅行とかキャンプとかで森や海に行った時に「デザートは俺がここで作る(ドヤァ」をやりたいためだけに手に入れただけというしょうもなさだった。


 あらかじめ作ったケーキでも十分だろうが、プロではないけどプロ意識の高い御堂は出来るなら出来たてほやほやを食べてもらいたいという理由で、機材から食材に至る全てをマジックバッグに収納している。はっきり言ってアホである。


 だが、それが今回良い様に作用したのだから、人生とは分からない物なのだろう。


 今御堂達はモンスターのいない、比較的綺麗な家屋を掃除し、そこでケーキ作成を行っていた。ほこり等があれば折角のデザートがダメになるので、無駄に魔法などを用いて、家屋を完全に綺麗にしている。


「まさかダンジョンで飯を作るならともかくケーキを作る事になるとはおもわんかったよ」


「僕としては、何故ケーキの材料と機材を持ってるのかが不思議ですけどねー」


「マスターはそこが可愛いから」 


「可愛い・・・・のか・・・?」


 惚気るサイレーンに片桐が「お前マジで言ってんの?」と言わんばかりの表情を浮かべる。恋する乙女はそういう物なのである、痘痕も靨という奴だろう。


 等とダンジョン探索しているとは思えない状況のなか、御堂の手伝いとしてサイレーンとテルクシノエーがケーキ作りのサポートをしている。


 ハトメヒトは材料を別け、使いやすい様に分別していた。この状況ではショコラとクレア、片桐にディーヴァはそれぞれ役に立てないので本来の仕事である周囲の監視と護衛を続けている。何故かモンスターは家屋から出てこないのであまり意味のない護衛の為、クレアとショコラはともかく他の者は割と気が抜けているが。


 更に言えば上空には6台のドローンが絶えず周囲を警戒し、その画像が片桐に流れている為、地下から奇襲でもされない限りは襲われる事はないだろう。


 安心してケーキ作りが出来るという事で御堂がダンジョンに来てから割と嬉しそうに作業を続けている。


「ケーキ屋さんは名前の通りケーキ作るの好きなんですねぇー」


「ま、俺の趣味というか生きがいだしなぁ。俺も出来ればこんなダンジョンとかで命を懸けた戦いしてるよりはケーキ作って日々をのんびりとしたいもんだ」


「ドキドキワクワクが足りなくないです??」


「そういうのはいいわ。お兄さんそう言うのは中学生で卒業したから」


 御堂も小さい頃には憧れていたものだ、だが現実を知り、祖父母に出会えた事で変わったのだ。大きな冒険も見知らぬ体験よりも、今の平穏と誰かが喜んでくれる自分も大好きなケーキ作りの事を。


 あるものは夢がないと笑うかもしれない


 あるものは逃げたというかもしれない


 だが、ディーヴァは真剣な表情でケーキを作り続けるその姿に、自分と同じ曲げられない信念がある事が見えた。その姿を笑う事も嘲る事もしてはならない。それは巡り巡って自分を卑下しているのと同じ事なのだと、また一段階御堂に対する評価を上げた。


「ケーキ屋さんは本当にケーキ屋さん開いたらいいと思いますよー?」


「あー、確かに考えてたんだが、なんか違うんだよな。それに勉強とかは大変だってのもあるが・・・俺は趣味と仕事を一緒にさせたくないんだよ」


「趣味と仕事を・・・」


「ケーキ作りをさ、楽しみたいんだよ。だから趣味なんだ」


「大好きなんですねぇ」


「そりゃな。俺の人生の一部だ。あぁ、でもドキドキワクワクが全部嫌って訳でもないぞ? 男だからなぁ、ガキの頃は憧れたもんだ」


「私は平穏無事でゲームしてたい」


「お前はもう少し外に出ろ。そのうちキノコ生えてくるぞ?」


「うぐぐぐぐ」


 ここぞとばかりにニート生活を満喫したい片桐の言葉をスパッと両断する。ぐぬぬ顔をしてはいるが、そこまで本気ではないので普段のやり取りの一つだろう。なんだかんだとこの二人は仲が良い。どちらかと言えば片桐の方から、御堂に頼り切っている感じではあるが。


「さて、後は焼いてだな。その間にやれる事は全部やっておくか」


 ケーキ作りはこれから本番である。



―222話了


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まさかのダンジョン内でケーキを作り、その為に機材も持ち込んできている主人公。

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