第215話 ----------------------------------------------------------


 今現在絶賛夢の中。


 目の前には夢の中の俺命名、謎のもや【アイン】が居る。ぴぴぴと鳴いたり、片言っぽい話し方で、俺の脳内ではインコとか九官鳥とかその辺りがイメージされている。そもそもどういう姿なのか前々わからんしな。


 確実に夢の中だとは思うんだが、ここまで意識というか自我を保ててるのは何故だろうか? 夢の中の自分なんてのは基本的に自分でも制御出来ないもんだ。そもそも夢なんだから当たり前だろって話なんだが。


 後なんだったか? 夢ってのはリアルで見てきたものや記憶してきたものを脳が整理しているからおこる現象だったか? 科学的に証明されてるとかされてないとか。しかしそうなると予知夢とかそういう系はどんなものなんだろうな、そういうのは何方かと言えば魔法とか超能力の世界かもしれん。


「トモキ、トモキ。アイン、アイン。んー」


「元気だなお前」


「みー ぴぴぴぴ」


 声色的に喜んでる感じがするが、まったくわからん。流石に夢の中の俺もどう判断していいか迷ってるが、アインが俺の周囲をぐるぐる回りながら自分の名前を連呼しているので、多分気に入ったんだろうと思いたい。


 暫く回っては止まり、嬉しそうに近づいてきては俺の名前を呼び、また回っては自分につけられた名前を言う。それは鳥というよりはまだ幼い子供か何かのように思えた。


 気づけば俺の方も、アインに話しかけ、簡単なやり取りをしたり、俺について色々聞いてくるアインに律義に答えていく。


 相も変わらず目は覚めそうにない。周囲は真っ白の空間で、俺とアインだけがそこに取り残されたようにたたずんでいる。


「トモキ、おはなし たくさん たのしい」


「おぅ、そうかいそうかい。んじゃもっと色々話してやるよ」


「やったー」


 抑揚のない「やったー」ではあるが、言葉とは裏腹に嬉しいのかもやが上下に動いている。多分飛び跳ねている可能性大。ますます子供に見えてきたな。夢の中の俺もアインに対して既に謎の生物ではなく、小さな子供を相手にしている感じになっている。夢の中の俺ってのもなんか変なんだがな、実際に喋ってるのも俺なんだし。


 どうやらアインは色々と好奇心旺盛なようで、俺から色んな事を聞き出してくる。見知らぬことを覚えるたびに嬉しそうゆらゆらと揺れ、それ等の名前を噛みしめる様に呟いては覚えていく。


 本当に何も分からないようで、俺が教えるたびに喜ぶものだから俺としても色々と教えてしまう。じゃんけんのやり方や(もやで見えなくて出来なかった)かくれんぼのやり方や(前面真っ白空間なので勿論できなかった)にらめっこのやり方や(だからもやでわかんねぇんだって)等を色々と教えてやった。


 どれだけ時間が過ぎたか分からない。夢の中なのだから下手すればこれが1分にも満たない可能性もあるし、実はそろそろ目が醒めそうな感じになっているかもしれない。


 ただ、まだ夢は醒めそうにないようだ。たまにある程度自分の意識が残っている夢を見る時があるんだが、例えば「空を自由に飛ぶ」夢を何度か見た事がある。夢の中の俺はそれを当然の様に思い、よくわからないが何処かに力を入れる事で空を自由に飛び回れたのだが、意識が徐々に覚醒し、夢が醒めそうになると今まで自由に飛べていた筈なのに、徐々に高度が落ちて行き、最後には地面すれすれに浮かぶのが限界になってしまう。


 多分。夢の中の俺はそれが「当たり前の常識」として空を飛んでいるのに対し、現実の俺は「空を飛ぶなんてファンタジーな事がある訳がない」と認識しているために、飛ぶなんて事が出来なくなっていくんだろう。


 何行き成り語ってるんだと言われるかもしれないが、今の俺が正にそれだ。この状況を「当たり前」だと認識しているからこそ、目の前のもや、アインが居る事をが当たり前で、おかしいなんて思わない。もし俺が徐々に目が覚めて行けば、その認識が徐々におかしくなっていくだろう。


 今の俺は目の前にアインに違和感を感じないので、まだまだ目覚める様子はないって事だ。何俺は夢の中で色々考えこんでいるのだろうか。


「トモキ アイン いっしょ たのしい?」


「ん? 詰まらなかったらここに居ないさ」


「みー?」


「楽しいって事だよ」


 そう笑いながらもやの多分頭の部分を子供の頭を撫でる様に触れてやる。感触はないが、もやを数回撫でる様に動かしてやると、アインは嬉しそうに鳴いていた。


「アイン たのしい トモキといっしょ たのしい こんなのはじめて アイン くわずぎらい はじめからこうしてればよかった」


「アイン・・・?」


「トモキ がんばれ アイン おうえんする アイン トモキを いっぱいみて いっぱいおうえんする あいつにも いいきかせる えらい? えらい?」


 何を言っているのか分からない。 ただ、先ほどまでの無邪気なアインとは違い、少しだけうすら寒いものを感じてしまう。


「トモキ もっと おはなし する! アイン いろいろ しりたい!」


「あ、あぁ。そうだなぁ、それじゃ俺の好きな物の話をしてやるか」


「トモキ すきなもの? ほしい? アイン トモキが ほしいなら あげるよ?」


「ん? あぁ、違うぞアイン? これは貰って嬉しいもんじゃあない。いや、確かに貰っても嬉しいし美味いが、俺の好きな物はな? ケーキだ!!」


 俺の好きな物と言えば皆同じ事を言うだろうケーキである。


 食べて美味い、作って楽しい、道中の苦難も出来上がった喜びに変わる、これほど楽しい物は俺の人生の中にはあまりないな。


 今まで以上にオーバーリアクションで身振り手振りを付け加えて、俺の知りうる限りのケーキの事を教えていく。このケーキは甘くて美味いとか、外国のケーキはつくのが大変だとか、ライスケーキはケーキじゃなくて餅ですよとか、失敗したときの悔しさとか、初めはよく失敗してばかりだったなぁ、と事細かにおしえてやる。


 するとアインの方もやはり俺の想った通りに子供か何かなのだろう、「おおおおおー!」と興奮したようにケーキについて聞いてきたり、食べたいとせがんでくる。

 

 俺も出来ればケーキを作ってやって食わせてやりたいが、残念ながら今回の夢は真っ白な空間でケーキのケを作る材料すらないので「また今度会って、その時に作れるものがあったら作ってやるよ」なんて約束してやった。


 アインは嬉しそうにはしゃぎながら「またつぎ! またつぎにあう!」と喜んで居る。まぁ、夢から覚めれば俺が覚えてるか同かもわからんし、アインと出会う夢をまた見れるかなんてわからないが、もし俺が覚えていて、アインにまた夢の中で再会出来て、夢の舞台が俺の家とかだったら、ケーキを作ってやるのもいいだろう。


 ケーキを喜ぶ奴に悪い奴はあまりいない、それが俺の信念の一つである。


 はしゃぐアインを見ていたら、ドクンと周囲が揺れ、視界がぶれていくのを感じた。あぁ、なんとなくわかる。そろそろ目が覚めるんだろう。夢の中とはいえ、面白い奴に出会えて楽しかったな。


「おっと・・そろそろ目が醒めそうだ。またなアイン」


「・・・・さみしい トモキ また みるだけ またあいたい また あってくれる?」


「おう。勿論だ。もしまた会えた時に俺が忘れてたらスリッパでどついてくれて構わんぞ」


「ん やる! トモキ アインわすれちゃ だめ ぜったい またあう これ やくそく トモキにあげる トモキ アイン ともだち」


 最後に一瞬・・・もやではなく、泣いている子供が見えた気がした―――







――― ------------------------------トモキ----------やくそく


――― --------しなせるな---------ぜったいに------------------


――― ----アインを----------たのしませるなら---------トモキを-----まもれ


――― -----------------また----------ここで--------けーき-------たのしみ






―スキル獲得【????の守護】非表示



―215話了


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来週からまた夜のお仕事が始まります。 投下できなくなる可能性が高いですが

また行ける所まで。

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