第214話 ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴpppppp


 夜―


 バカ騒ぎも終わり未だに飲めや歌えのの大騒ぎをしている者もいれば、引っ込んでゲーム対戦にしゃれ込んでいる者達も居る。


 俺はと言えば流川達と馬鹿話が終わった後、部屋に戻って折角手に入れたレジェンドスキルの使い方を~等と考えていたが、いい感じに睡魔が襲ってきてベッドの上で寝転んでいる所だ。


 昔から、と言うか仕事してた時から、仕事中とかは「帰ったらあれやろう」「帰ったらこれをやろう」なんて色々考えて、寧ろ段取りまで組んで頑張ろうと思うのだが、いざ家に帰ってくると全部億劫になって結局何もしないなんて事が多い。


 俺以外の奴でもそうなる事が多いのではなかろうか。片桐あたりは俺の同類だと信じる。流川や山崎は逆にきっちりやり通すタイプなのでそんな事はないのかもしれんがな。


 目を閉じながら今日起きた事を漠然と思い出す。


 まさか本当にレジェンドスキルが当たるなんてなぁ。そもそも頭の中から除外されてたわ、レジェンドスキル云々なんて。ガチャで期待もしてなかったときに最大レアを引いた時の気持ちってのはこういう感じなのかもしれんな。


 何にせよ便利なものだし、皆で使える時に使ってもらいたい。俺にはセット出来ない物だしな。最低でも4シーズンクリアしないとって事は、俺があれを装備するためには後2年は生き延びないとならないって事だ。勿論、全シーズンを参加しての最短になるが。途中は1シーズン位休んで1年まるまる休養するのも良いかもしれんが、どうするかね。


 どうせ今考えてもその時なってまた考えるんだし、今はいいか。


 次のミッションまではあと数日、それまでに出来る限りをやるつもりだ。切り札を手に入れたからと浮かれて死ぬような真似はするつもりはない。そんな典型的な馬鹿にはならないさ。


 徐々に意識が薄れていくのを感じる。


 何を考えているのかもわからなくなり、俺の意識は夢の中に消えていく。













 

「ぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴぴ」


「うぉあっ!? なんだ!? なんだ!?」


 寝ていた俺の耳に向かって、無機質に誰かが「ぴぴぴ」と言い続けていた。あまりの事で飛び起きてしまう。


 周囲を見渡すとそこには何もなかった。本気で何もなかった、気が付いたらベッドもないし見渡す限り真っ白で目が痛くなる空間が広がっている。


 何だこれは夢か? てか夢だよな?


「こんな意識がはっきり? してる夢も珍しいな・・・」


「ゆめ ゆめ ふわふわ」


「っとぉ!? な、なんだこりゃ・・・」


 誰かの声が聞こえたので横を振り向くとそこにはもやの様な何かが揺らめいていた。この真っ白な空間になんとなくだが人型の何かがゆらゆらと揺れている。


「ゆめ ここは ゆめ ふわふわ ゆめ」


「お、おぅ。あんたが俺を起こしたのか?」


 夢ってのは基本的に自分の自由になっている様で全く自由がない。本来ならばこんな怪しい状況、真っ先に逃げの一手な筈なのに、俺は何故かその「もや」に話し掛けてた。流石夢だな、とんきちかよ俺・・・


「ぴぴぴ ぴぴぴぴぴ おきた おきた?」


「あ、あぁ。行き成り耳元で喋られたら驚くから気を付けてくれよ?」


「ぴぴぴ ぴぴぴぴ ん きをつけ きをつける」 


「そうかい、そりゃありがたい」


 「もや」は理解したようにゆらゆら揺れた。あぁ、夢じゃなかったら正気を疑う様な光景だな、こいつは。だがまぁ、夢だしいいだろ。いつかは目が覚めると思えば。


「で、あんたは何者だ?」


「ぴぴぴぴぴぴぴ」


「よし、それが名前じゃないのは俺でもわかる。 名前、自分の名前分かるか?」


 何故俺は目の前のもやに向かって名前を聞こうとしているのだろう? 夢だから仕方ないと言えば仕方ないんだが、どこか冷静な俺が「なにしてんのお前」と言っているのが分かる。


 だが夢の中の俺となんだかふわふわしている俺が「これは危険ではない」なんて勝手に思っている。何だろうねこいつは。


「なまえ なまえ なまえ なまえ・・・・・・・・・・・・」


「あー、もしかして名前がないのか?」


「ぴぴぴぴぴ」


 「もや」がなんとなく頭を動かしているのがわかる。多分俺の問いに肯定したのだろう。つまりこいつは名前が無いという訳だ。まぁ、もやに名前なんてないわな。分かってるよ。


 だが、流石に夢の中で意思疎通が出来そうな存在にいつまでもあんたとかお前じゃあ格好つかないだろう。どうせ夢だし名前でも付けてやるか。


 俺のまったく進化する気がない名づけセンスをフル活用する時が来た。


 色々名前が思いつく


 モンブラン


 ロール(ケーキ)


 シフォン(ケ-キ)


 パン(ケーキ)


 バター(ケーキ)


 パウンド(ケーキ)


 フルーツ(ケーキ)


 バウムクーヘン


 エクレア


 サントノレ


 パリ・ブレスト


 あ、はい、そろそろやめます。仕方ないんだ、俺の頭の7割はケーキ関連なんだ。それ位しか思いつかないんだ。特に夢の中だから欲望だだもれなんだ、テルクシノエーの御胸様万歳、サイレーンの御腰様万歳。 うん、なかなかに暴走してるな俺ぁ。


 さて、まともに考えよう。流石に和名はないだろうし、となれば思いつくのは英名とかだろうか、ドイツとかの名前は何にもわからん、ケーキの名前は全部知ってるが。

 

 で、結局夢の中の俺は、思いついたままに割と適当に名前を名付ける事にしたようだ。いや、俺が名付けてるんだから、俺が考えてるんだが・・・うぅむ、思考が上手くまとまらない。やはり夢だなこいつは。


「あー・・・アインってのはどうだ?」


「ぴぴぴぴ あ い ん ???? あい ん  あいん  アイン??」


「おう、アインだ。確か何処かの国の言葉で【1】って意味だが、あー・・・ほらこの夢の中で1番目にあったからアインだ、安直で悪いな」


「ぴぴぴぴ あいん  あいん  わたしは アイン アイン アイン」


 目の前のもやはかみしめるようにアイン、アインと自分に名付けられた名前を呟いて行く。あまりよく思わなかったのだろうか、いやまぁ、わかる、俺も安直だなって思うし、寧ろ俺は何でそんな名前にしたんだろう。夢の俺とここに居る俺はもしかしたら別人なのかもしれん・・・いや、俺は何夢の中で考察してるんだ??


 かと思えばもやは左右に大きく揺れて、アインと言い続けていた。なんとなく声色が嬉しそうだったので、もしかしたら気に入ったのかもしれない。


「アイン。アイン 私はアイン。アイン ぴぴぴ・・・き みは?」


「ん?」


「わたし  アイン  うれしい  うれしい  なまえ はじめて  わたし だけのなまえ はじめて  うれしい  きみは?  なまえ なまえ きみは?」


「俺か? あー、俺は友樹だが」


「トモキダガ トモキダガ!!」


「いや違う!? ダガはいらない! 友樹、友樹!」


 ここで「友樹な!?」と付け加えようものならきっと「トモキナ」になってたのだろうと言葉を少し濁して、名前だけを教える俺。どうやら目の前のもやは純粋無垢の様だ。純粋無垢のもやってなんだよ?


 嬉しそうに友樹 友樹と俺の名前を呼ぶもやは、暫く自分の名前と俺の名前を連呼し続けていた。


―214話了


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トモキ

トモキナ

トモキダガ


まるで攻撃魔法ですね!

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