第94話 あ、そっか。やっぱりか。そっか・・・馬鹿。

明日からハードモードが始まります・・・がんばれわたしちょうがんばれ

皆さんいつも閲覧有難う御座います。

いつまで毎日投稿出来るか分かりませんが、行ける所まで頑張りますね。

今日は短め、幕間の様な感じになります。ご容赦を。

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 初めの頃は臆病だけどまだまともだった。


 いや、人としては何かがズレていたけれど、それでも私を大切にしてくれていた。


 だからお互い何度も愛しあったし、どんなことでもしてあげた。


 それで彼が喜んでくれるのが私にとっての幸せで、彼の為ならばどんな後ろ暗い事でも出来るって思えるほど、私は彼にやられていた。


 ソウルギアなのだからそれが普通なのだ。


 彼が私を愛してくれるのなら、それでよかった、それだけでよかったのだ。


 彼がどれだけ外道になろうとも、害悪になろうとも、比翼連理。お互いを愛し合えていたのなら私はどこまでも地獄に落ちる事ができた。


 他の女で遊ぶのは良い、ちゃんと戻ってきてくれるなら。


 最初は自分に溺れてくれた、それが嬉しくて何度も愛し合った。


 それなのに、彼の欲望はどこまでも膨れ上がっていく。


 見た目が良いと言うだけで、プレイヤーを罠に嵌め好き勝手弄んで殺した。


 目が気に食わないと言うだけで、一般人を攫って虐待して凌辱した後殺した。


 それだけならばまだよかった。


 いや、はっきり言えば狂人の域だが、それでもマスターである彼を愛していた私はそれを許容した。


 いつしか、彼は私より他の女を弄ぶようになる。





                 「お前は飽きた」




 比翼連理だと思っていたのは、私だけだったのだ。


 魂の片割れでもある私に向かって事も無げに彼はそう言ったのだ。


 ―これからも役に立てば抱いてやる


 ―お前程度の女探せば色々いるし、俺はそれを自由に出来る力がある。


 ―役に立てよ? お前は俺の【ソウルギア】なのだから


 ガラガラと崩れていく、積み上げてきたもの。


 だけどいつかは戻ってきてくれる、彼の魂の片割れなのだから・・・


 そんな淡い思いは打ち砕かれる。


 最後まで彼にとって私は【都合のいい道具】でしかなかった。 


 一度たりとも愛された事などなかったのだ。


 欲望の快楽の捌け口にしか私は使われる事が無かったのだ。


 精々使いやすく絶対に言う事を聞く道具。


 あぁ・・・私はどうして彼を愛していたのだろう?


 急激に冷めていく感情。


 彼の為ならば何でもできると思っていたのに、何もする気が無くなった。


 結局彼は自分以外大切な物はなかった。


 その中には自分の魂すら入っていなかったのだ。


 自分の自我、自分自身、それだけが彼にとって愛しいもの。


 それを理解してしまった時、私は全てどうでもよくなった―――













 全身から力が抜けていく、手のひらが少しずつ消えていくのが見えた。


 あぁ、そうか。 


 あいつ死んだんだ。


 マスターが死ねばソウルギアは消える。


 ソウルギアが死ねばマスターは廃人になる。


 今までずっと見てきた光景。


 それがまさか自分に降りかかるなんて思っても・・・いや、予想していた。


 私が居ないあの男なんて、虚勢張っているだけの雑魚でしかない。


 少しでも強いプレイヤーが居れば何もできずに殺される。


 難易度適性のミッションであろうとも、あいつ一人なら余裕で死ぬ可能性がある。


 なんだろう、清々しい気持ちに・・・ならなかった。


 でも、このまま消える事に後悔なんてなかった。


 私達はやりたい放題やってきたのだ、あいつはそのツケを払った。


 私はそれを手伝ってきたのだ。きっと他のプレイヤー達は喜ぶ事だろう。


 ゴミクズの様なプレイヤーキラーが一人消える。


 誰もが喜びこそすれ、悲しむ奴は居ないだろう。


 家族すら殺し、誰も信じず、たった一人で居続けた男に憐憫の感情を向ける存在なんて存在しない。


「ざまあみろ・・・かしらね」 


 意識はまだある。


 たった一人、私は結局あの男が居るミッション地点のすぐ近くにいた。


 助ける為ではない。助けようとも思わない。


 それなのに私はここに居る。


 心の何処かでは、私はまだあいつを好きでいるのだろうか?


 心と言うのは分からない。


 ふと、何の気なしにスマホを覗いてみる。ミッションはまだ続いているのだろう。


 手の感覚がなくなりかけているのに、まだスマホを動かせるのだから笑えてしまう。取りこぼさない様にアプリを開き、書かれていた文章を見て私は空を仰ぎ見た。


「・・・・自業自得ね。馬鹿な事してるから、そういう目にあうのよ」


 何から何まであの男の自業自得の結果だった。


 素直にディザスターの命令に従っていれば次のシーズンまでは生きていられただろうに。無駄に高すぎるプライドが結局全てをダメにしたのだろう。


 どうせ欲望で膨れ上がったあの男のことだ、老い先短い人生だっただろうが、これほどまでに早く逝くとは、やはりディザスターに関わるのは悪手だったのね。


 前回の防衛ミッションでケチがついた結果がこれ。


 今まで好き放題やっていたのだから、もう十分でしょう?


 後はレイドボスとしてきっちり殺されてきなさいな。


 どうせ生き残れる可能性なんてないのだから。


「ミッション外部は一切音も聞こえないのよね・・・」


 周りには人もいない。


 これもディザスターの力らしく、プレイヤーかプレイヤーになれる候補以外は基本的にミッション地点の周辺には来れない。


 逆に言えばミッション開始時や終了近くでもこの付近に紛れ込んでしまえば高確率でプレイヤーになる。


 そうやってプレイヤーになった女性を食い物にしてたわね、あいつは・・・


 何故だろう、もうすぐ消えるせいなのか、あれだけ見下げ果てていた男だったのに、残っている思い出はあいつとの日々ばかり。


 碌な思い出はないけれど、それでも最初の方の記憶だけは、それなりに悪くない物だった。


 私は消えたらどうなるのだろう? ソウルギア【リジェクション】として再び誰かのソウルギアになるのか、二度と戻らなくなるのか。


 知っている限りでは【同じソウルギア】は出てきたことは無い。だから私も多分これで終わりなんだろう。


 最後に見たかったドラマとかあったけど、仕方ないか。


「ソウルギアが死んだら地獄に行くのかしらね? あいつと一緒とか嫌なんだけど・・・」 


 口ではそう言うが、本当に見下げ果てて愛情も無い筈なのに――


 こんな終わり方であのアホが終わるのが、なんとなく嫌だった。


 プレイヤー達にポイントの為に、生き残る為に殺される。


 自業自得のはずなのに、それが嫌だと感じてしまった。


 せめて――


 そうせめて――


「私がぶちのめしてやりたかったわ。そして、言ってやるの。あんたは最高にいい女を捨てたのよ・・・ってね」


 他の誰でもない、私が殺して、止めてやりたいなんて―


 結局私はあいつのソウルギアだったのかしらね。


 でもまぁ、それはもう無理。


 持っていたスマホは手から零れ落ちて、消えた足のせいで既にたっていられなくて


 私は横たわりながら、最後に消えるのを待つ。


 先に私が消えるのが早いみたいね。


「あぁ・・・ほんと。馬鹿な男に捕まったわ」 


「ならば最後にビンタの一つでもくれてやるつもりはないかね??」


「っ・・・!?」


 消えゆく私の目の前に、同じく消えそうになっている何かが居た。


 頭に魚? イルカ? よくわからないけど【しゃち】と書かれた帽子を被っている10歳位の少女がそこに立っていた。


 ソウルギア・・・? プレイヤー?


 私と同じく、それは消えかけているのがわかる。生命力がほぼ感じられない。


「手短に言おう。汝ソウルギアよ。汝が主を止めるつもりはあるかね?」


「・・・・貴女、何者・・・?」


「問答をしている暇は、お互いにあるまい? 我も出来れば彼の助けになりたくてな、その為ならば最後にもう一仕事、魚と言うのはしぶといのである、シャチは哺乳類だが」


 苦しそうな表情をしているけれど、その瞳はとても力強い。


 目の前の少女が何者なのかは分からない。


 何の目的で、何がしたくて、何者なのかもわからない。


 だが――


「私が生き残れるの・・・?」


「いいや、我が汝に施せるのは、汝が主を止める間まで時間。それも長くは持たぬ、それでも・・・汝が自らの主を哀れにと思うのならば、望みたまえ」


「・・・・結局は死ぬのね? ま、それはいいけれど・・・どちらにしても、これに答えてくれなければ受ける気はないわ」


「よかろう。我のスリーサイズは上から86」


「見栄張ってるんじゃないわよ幼女・・・あんたの目的は何?」


 目的が分からなければ受けるつもりはない。


 どうせ消えるのは確定しているのだから、せめて納得してから答えたいものだ。


 私は人形ではない、ソウルギアとはいえ一個人なのだから。


「汝の魂、その持ち主が腐り果てるか・・・ままならぬな。我の目的は一つ、絶やさぬ為に――」


「絶やさぬ為・・・?」


「受け継ぎし者の為に、我は出来る限りをするのみである。例えディザスターに省かれても、滅ぼされても、我は女神であるからにして」


 目を閉じて小さな手のひらを胸に当て何か大切な物を思い出しているように見える少女。ミッションの中に、彼女が大切に思う存在が居るのだろう。


 はっきり言ってうざい。


 私にはないそんな感情、それが羨ましくて、憎たらしくて、私にもそれがあればなんて――


「言っておくけど、私は他のプレイヤーの味方なんてしないわよ。私は私の為に、最後のけじめをつけにいく。それでもいいのなら、力・・・寄こしなさいよ」


 それは笑っていた。


 私を馬鹿にする笑みではない、柔和で子供が出せるような雰囲気ではない、まるで彼女の言う女神の様な包み込まれるような笑顔がそこにあった。


「それでよい、ソウルギアよ。思いのままにマスターの全てを叩きつけてくるがいい。このピコピコハンマーを今なら1時間5700ウォンで貸し出すのもやぶさかではないハヤブサでもない、しいていうならばあれだ、ウォンじゃなくてマルクでもよくないか? ゴールド辺りは怒られそうなのでやめておこうと思う。金貨銀貨銅貨って大体の転生系の貨幣としてスタンダードなのだが、異世界にも普通に金銀銅があるのかが不思議でならない、ミスリルとかアダマンタイトとかよくあったりするな」


 何なんだろう、この幼女。時々訳の分からない事を言うのは性格なんだろうか・・・?


「時間ないんじゃ・・・ないの?」


 私既に頭部も消えかえてるんだけど? 早くしないと終わるんですけど??


「あいすまぬ。我としたことがちょっとしたお茶目気分であるからにして。では・・・・我が力、女神ハトメヒトの力を汝に託そう――」


 ―止めてやるがいい、哀れな主を


 幼女が私に触れると、溶け込むように消えて行った。


 同時に全身に活力が戻ってくる。


 先ほどまでの全能感、消えかけていた肉体は元に戻っていた。


 レベル6ソウルギア、リジェクション。


 これならば30分位は全力で戦えると思う。そして・・・


「あんな阿呆・・・30分もあれば十分よ――」


 待ってなさい、馬鹿マスター。


 せめて私があんたを殺してあげるわ。 他の誰でもない、私が・・・ね。



―94話了


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ハトメヒト、どこまでやるきでしょうねハトメヒト。

ソウルギア:リジェクションが中立として参加するようです。

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