第81話 遠足前の夜って眠れませんよね。それと同じ原理

皆さんいつも閲覧ありがとうございます。

100話まであと少し、なんとかここまで1日1話書き切れてますが

そろそろ時間の都合で間に合わない可能性もありそうです。

出来る限り頑張っていこうと思います。

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 時間は昼過ぎ、アクセルからメールが来ていた。


 内容は3人のプレイヤーを連れてくることに成功したらしい。その内の一人はあのマキシマムバンカーの少年だ。後の二人は前回参戦していた羅漢って人とハルペーっていう人らしい。とりあえず仲間が増えるのは有難いな。


 俺は俺でセーフハウスの地下施設で簡単なトレーニングをしてる。

 

 組手の相手はクレアが受けてくれた。流川の所のジェミニを除いて、今ここに居るメンバーの中では一番白兵戦が得意だからな。


 スピネルは流川に指導を受けていてここにはいない。彼女の戦い方は魔法がメインなので白兵戦の練習よりは立ち回りや後列での戦い方などを流川から教えてもらった方が良いからだ。後邪魔しちゃいけないしな。


 リバティは現実逃避・・・はしておらず、俺達と一緒にここに居たりする。


 彼女は白兵戦も出来ないし、射撃も苦手なのでそこをショコラやテルクシノエーに教えてもらってる所だ。ソウルギアの性能的に後列の支援系だから二人に教えてもらえば少しはマシになるだろう。


 ここの地下施設はそこまで広くはなく、耐久性も高い訳ではないので全力とかを出す訳にはいかず、軽い練習や普通の組手がメインになる。


 俺は素手や手甲剣を使い、クレアはナイフや鞭などを使ってスキルなどを使わずに戦っているが、正直クレアは強い。


 流石にジェミニの二人よりは戦いやすいが、ナイフの投擲や軌道が読めない鞭の一撃ははっきりいって避けられない。ナイフの刃は潰しているらしいが、投擲時のスピードを考えれば潰した所で普通に突き刺さるので必死に避けている。


 クレアも致命傷になりそうな場所にはあえて狙わずに攻撃してるので、本当に簡単な組手の様なものだ。


 鞭はゲームではよく弱武器扱いされる種類だ。と言うよりも詳しい事や伝承もよくわからんが本来は武器ではなくて拷問用の器具だと聞いた事がある。それを戦闘中に巧みに使うってのがそもそも難しい種類だ。


 だが、俺達が知っている鞭は腕のしなりだけで先端が瞬間的に音速を超えて相手を引き裂くという物理的にふざけてる威力を誇る。但しそれは相手が防具を何も身に着けてない場合に限るらしいが。簡単な防具でも身に着けてるだけで鞭はほとんど無効化されるらしい。鞭を扱う戦闘のプロでもいれば話は違うのだろう、目の前にいるクレアの様に。


 そしてそんな彼女の振るった鞭が容赦なく俺の足を打ち据えた。


「いってええええ!?」


 足に直撃した瞬間凄まじい激痛にのたうち回る俺がそこにいた。


「わぁお、クリーンヒット。大丈夫ごしゅ?」  


「お、おぅ。泣きそうな程痛いが、大丈夫ではないぞ?」


「だめじゃん」


 痛いんですもの。大の大人だって痛いものは痛いんだよ。


 だが、痛いだけで動けないほどのダメージにはなってない。ちゃんとした防具を身に着けてたりトランスブーストの血騎士状態になってれば普通にダメージを無効化出来そうだ。


「革の鞭程度じゃこの辺が限界かぁ。もっといい鞭なら鎧ごと引き裂けそうだけど」


「あぁ、あったな鋼の鞭とか、モンスターテイルとか。その辺まで行けば実戦でも使えるんだろうな」


 とまぁ、普通に考えれば鞭はそこまで脅威にはならない・・・と言いたいのだが、これはディザスターが開始しているデスゲーム、そしてレベルが存在する俺達にとって、鞭は十分殺傷能力が高い攻撃武器になる。


 鋼で出来ている鞭などなら、相手の防御も貫通してダメージを与えられるだろう。1本1000ポイントもするモンスターテイルまで行けば下手な武器よりずっと強そうだ。いずれクレアに持たせてやりたいな。


 ヒリヒリする足をさすりながら休憩をとる俺達。既に30分は通しで戦っていたから丁度いい休憩時間だ。


「次のミッションでシーズン終了かぁ。ね、ごしゅ? オフ中は皆で旅行とかしない?」


「無事に終わるか分からないのに気が早いな」


「いいじゃん。そんな今を悩んでてもいい事ないよ?」


 あっけらかんと言うクレア。ニヤリと笑うその表情はとても彼女に似合っている。悪戯娘の様な、そのままギャルと言わんばかりの表情だ。


 とはいえクレアもショコラも俺が良く知っているような典型的なギャルって訳でもないんだよな。なんと言うか「俺が知っているギャル」に追加して「オタクやオジサンに優しい」って言うおまけパーツが付いたような感じだ。


 会話をしていて苛立つ事のない程度のトゲと言えばいいのだろうか? 会話していて時々疲れる時もあるが、基本的には楽しいのだ。


 本来の彼女達の気の良さというのがにじみ出ている感じだろうか。ギャルじゃあなかったらどんないい子になっていた事やら。いや、十分いい子達なんだがな。


「でも旅行か。いいかもしれねぇなぁ・・・」


 土木作業員として仕事をしていると、旅行に行く時間なんてものは取れなかった。盆休み辺りに数日休みが取れるが、そこまでして旅行に行きたいとも考えた事もないし、出かける時も流川と近場をドライブする程度だ。


 観光地に行こうなんて考えたこともなかったし、多分こんな状況にでもならなければ永遠に行く事も無かっただろう。


 今は次のシーズンが終わればほぼ半年の間、時間が出来る。


 その間はプレイヤーキラーにさえ注意すれば本当に何もする事がない自由時間だ。その間に鍛錬し続けてもいいし、短期の仕事を探してこなすのもいい。自堕落にのんびりするのもいいし、彼女の言う様に旅行に行くのだってありだろう。


「でしょ? あーしもあちこち行きたいしさ」 


「クレアは旅行が好きなんだな?」


「んー、どっちかと言うと。ごしゅやみんなと色んな所で遊ぶってのが好きってだけかな」


 人差し指を顎に当てて考えている感じで言うその仕草が可愛らしい。


「休憩中なら私を混ぜるべき、そうするべき」 


 やはりスススとどこからともなく現れるサイレーン。いつも思うが彼女は行動が独特だ。不思議ちゃんと言うには、普通の少女っぽいが、普通の少女と言うには行動が破天荒だったりエロかったりする。キャラが定まってない感じが逆に彼女を不思議な感じにしている、そういう雰囲気がする。


「お? サイレーン、鍛錬終わったん?」


「鍛錬と言うか歌の練習。私の力は基本歌だから」


 サイレーンのスキルは歌う事で発動するものが多い。どうやらスキルでのバフ以外にも【歌が上手ければ上手いほど】効果が上昇するらしい。


 即死を付与する【死へ誘う歌声】もそうだが【サイレーンヴォイド】は歌唱力が折威力や阻害効果を付与するのにかなりモノを言うらしい。なのでサイレーンは銃器や魔法は最低限、自分を護れる程度に使用できるようにして、メインは歌を極める方にシフトする事にした。これにも流川の指導が絡んでいる。


 本当に要るだけで便利というお助け枠だよな流川は・・・


 そういうキャラは序盤とか中盤に死んだり居なくなったりすることが多いので、全力でその辺りのフラグは踏みつぶそうと思う。そんなアホみたいなフラグで親友を失う訳にもいかんしな。


「で、何の話何の話? マスターの今日の下着がボクサーパンツって話??」


「全くそんな話はしてないっていうか・・・どうして知ってるんですかね?」


「私はマスターのソウルギア。つまり心の底で繋がっている、故にわかるのです」


「・・・・・・」


「すみません、朝覗いてますた」


 そういうのはさ? 男がやるもんじゃないですかねサイレーンよ。なんでこんなエキセントリックなんだろうねこの子は。


「まったく、その内襲われるぞ俺に?」


「大丈夫ご褒美だから」


「くそ、強すぎる・・・!」


「あーしも人の事言えないけど、サイレーンはその辺無敵だよね」


 下ネタが行けるっていうか、下ネタを繰り出しまくる美少女ってどこに需要あるんですかね? いや、そういう子も俺はいけるが。寧ろそんな子が実は初心とか可愛いを通り越して愛おしいが?


「シーズンが終わったら皆で旅行でも行かないかって話してたんだよ」 


「・・・マスター、それは死亡フラグだと思う」


「俺、この戦いが終わったら結婚するんだって、やかましいわ」


「♪ マスターはこういうのによく乗ってくれるから好き。旅行、皆で行くのはいいね。どこに行こう? 北海道??」 


 この時期に北海道行くのは勇気がいるぞ? あっちは冬は大雪でマイナス20度とかになるからな。何年か前に会社の旅行で北海道に行った事あるんだが、凄かったぞ? 前が見えないレベル吹雪で車が目の前がホワイトアウトしたからな。


 50メートル先所か1メートル先すら見えなくてマジで怖かった。その状態でも運転してたバスの運転手って何者だよって言いたくなるレベルだったからな。そんなすげぇ運転主でも流石に完全に真っ白になった時は停止したが。


 冬の北海道は確かにあそこの醍醐味だが、好き好んでいきたくはないな。出来れば春から夏にかけて、有名な観光地を見てみたいかもしれないって所か。


「ラスベガス行こうよ、ラスベガス♪ あーしカジノ行ってギャンブルやりたい」


「あぁいうのって、基本負けるようになってるみたいだし、私はそれならハリウッド行きたいな~」


「なんとも典型的な・・・でもまぁ、確かに。全員生き残って何処かに出かけるのは良いかもしれねぇな」


 旅行先はどこでもいい、全員生き残って楽しく打ち上げ旅行に行くのも楽しそうだ。その時は流川と相談してみるかね。


「何にせよ、その為には次のミッションを生き延びないとだな」


「ん。大丈夫、きっと生き残れるように頑張るから」


「だぁね。その為にあーしら鍛えてるんだし? てか寧ろこんな所で負けてらねーし?」


 二人とも次のミッションに気後れする事も無い。ならばマスターである俺がテンション低くしてる訳にもいかないよな。今回はプレイヤー防衛ミッションじゃあない、そこだけ考えれば気楽なものだ。何せボスを倒せばいいだけのミッション、出来る限り安全に戦って生き残ろう。


「さーて、もう少し休憩したら鍛錬再開するか。クレアは大丈夫か?」


「問題ないし? てかごしゅの方が大丈夫? 足まだ痛いでしょ?」


「うむ超絶痛い。サイレーン回復を頼みます」


「うむうむよかろう。ご褒美はマスターの膝枕を所望す」


「ははー」


 芝居かかった感じのやりとりをして誰ともなく笑い出す俺達だった。こういう緩い感じがなんと言うか俺達らしいな、そんな事を思いつつ鍛錬を再開するのだった。



―81話了

 


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スピネルは現在至福の時間を過ごしてる模様です。

がんばれスピネルちょうがんばれ。私は応援してますよ。

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