第79話 楽な所に味方は居ないからどうしようか悩み中
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◆修正、ご指摘のお陰でハルペー君の名前が可笑しいのを修正しました。
本当に有難い事です。
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とぼとぼと街中を歩くまだあどけなさを残す青年。
ため息をつきながらスマホを見ては再び溜息をついている。
彼の名は【山田雄太】19歳。高校を卒業した後、直ぐに社会に出てフリーターとして生きている。高校に居た頃はあまり目立たない学生の一人で苛めなどは受けたこともなく、最低限の友人知人は居るのでそれなりに高校生活を謳歌していた。
スクールカーストの底辺をぎりぎり上で泳いでいるようなそんなどこにでも居る平凡な少年ではあった彼だが、高校2年になった時に親にも友人にも言えない秘密ができた。
それは人間を使ったデスゲーム【ソウルギア】のプレイヤーの一人になってしまった事。彼自身なりたくてなったプレイヤーではないが、非日常に憧れ、リアルを楽しめていなかった彼にとって、それは刺激的な物だった。
ソウルギアと呼ばれる特殊な武器などを用いて現実に発生するミッションを攻略すれば高校生では、いや大人ですら手に入らないような莫大な大金、そしてスポーツマンを遥かに凌駕する、超人の様なステータスを手に入れる事が出来る。
漫画やアニメで見たような主人公みたいな存在になれる。初めは手放しで喜んで居た。何度かミッションをクリアして手に入れたポイントを使って、手あたり次第に欲しいものを手に入れたり、自分のレベルを上げて悦に入ったり、まるで自分が世界の主人公になった、そんな感じだった。
だが、現実はそこまで甘くない。プレイヤーと言う以上、他のプレイヤーは沢山いて、自分より強い奴ばかりだった。ミッションも命がけで涙と鼻水を流しながら必死に生き残り、気が付けば英雄願望など消えて、ほそぼそと参加してはポイントを使って自由に遊ぶ。そんなどこにでも居る底辺プレイヤーになっていた。
いつしか彼は高校で真面目に勉強する事もなく、大学に行く理由も見いだせず適当に高校生活を過ごし、高校を卒業した後は逃げるように実家を離れ一人暮らしをするようになった。
一応今も最低限のバイトなどはしているが、それ以外は何もせず遊びまわっている。金ならばポイントを使えばどうにでもできるので、気楽なこの生活を刹那的に楽しんでいた。
そんな彼の心境を変えたのが前回のミッション。
プレイヤー防衛ミッションという半ばクリアは不可能なミッションだ、非参加者を狙い撃ちにして防衛対象として据えるという、悪辣なミッション。通常の防衛ミッションとは違い、難易度がけた違いに高く、クリア率は10%を切るとも言われていた高難度というより不可能なミッション。
彼も正直最初は「どうせ対象が逃げて自動的失敗か直ぐ死ぬだろう」と気楽に道中の雑魚を倒してポイントを少し稼いで帰ろうと思っていた。
しかしそんな不可能なミッションを彼等はクリアしてしまったのだ。
確かに複数人のプレイヤーは死んでしまった、このゲームは油断すれば直ぐに死ぬ、物理的に殺されるかソウルギアを破壊されて精神的に死亡するか、だからこそ彼も無理はしない程度に狩る方にシフトしたのだ。
だが、自分達を導き指示を飛ばしていたジェミニ、あの凶悪な数のモンスターや最後のボスであるプレイヤーキラーに対して一人で時間を稼いだケーキ屋。他にも共に戦ったバンカーや羅漢、ガーディアン、命を助けてくれたアトリと、誰もが必死に戦い、勝利を勝ち取ったのだ。
その時自分は命が助かった以上に、「こんな世界に来ても俺はちっぽけなのか」と自分の事を情けなく感じてしまった。
そして同時に諦めていた自分が強くなるという気持ちも思い出したのだ。
次のレベル3に上がるまでにはあと2000ポイント弱。レベル3になれば今以上に強くなれるだろう。その時は自分も他のプレイヤー達と一緒に最前線で、と。
そんな悩みをしていた所にやってきたのが、今頭を悩ませているミッションの事だ。難易度選択式のミッション。自分はレベル2なので、行くならば1~2レベルの簡単なミッションに参加するのが安定なのだが、レベル3~4のミッションならば、あの時一緒に参加したこの地区に居るプレイヤーの大多数が来ていると考えたのだ。
バンカーやアクセル、アトリや羅漢、そしてケーキ屋とジェミニ。彼等は挙ってレベル3~4と言う高レベル。そして自分に同レベル帯の知り合いなんておらず、1~2のミッションに向かえば周りに頼れる知人も誰も居ない所で戦う事になる。
安定を考えるならいつも通りに適当に戦って低レベルをクリアしレベルアップしてから高レベルに挑戦すればいいと考えるが、その場合周りに誰も居ないほぼソロとして戦わねばならない。今までは一人で適当にやっていたからよかったが、これから強くなることを考えるなら、上位陣とのつながりも必要になるだろう。
寧ろ彼等ならレベルキャリーの手伝いだってしてくれるかもしれない。後は自分が強くなった時に何かしら手助けをすればいいし、シーズンオフ中に知り合いにでもなってお土産とか渡して仲良くなればいいと考える。
やはりここは無理してでもレベル3~4のミッションに向かうか、それとも低レベルで安定を考えるか・・・ずっと彼は悩み続けている。
バトルネーム【ハルペー】ここ一年で一番悩んでいる時間だった。
※
結局何も思いつかず、ハンバーガーショップで適当に昼食を取る事にしたハルペー。好物のダブルチーズバーガーを食べながら至福の時間を過ごしていた。
彼は基本的にハンバーガーに好き嫌いはないのだがどうやらシンプルな味わいの方が好みでテリヤキやら和風やらはそこまで食べることは無い。美味い事は美味いのだが、何か違うんだなぁと手を付ける事がなくなった。
基本的に好物と言う物は初めに食べたものがなりやすいという。そこで彼が初めに食べたのがチーズバーガー、その次にシンプルなハンバーガーだった。飲み物はシェイクのバニラが大好きだ。プレイヤーになる前の常に金欠の頃、知人に奢ってもらって初めて飲んだシェイクの味が今でも忘れらず、シェイクがある店に行ったならなにはともあれ必ずシェイクを頼むようにしている。
冒険はしない。チョコシェイクや苺シェイクなどもあるが、やはりここはスタンダードに濃厚で美味いバニラシェイクだろう。いつも思うがSサイズとMサイズはあるのにどうしてLサイズがないのだろうか。自分なら余裕でLサイズも簡単に飲み切れるのにと、箸休め代わりにシェイクを呑む。
冷たく濃厚な甘みが喉を癒し、ともすれば濃いハンバーガーの味を綺麗に流してくれる。それだけならあ手元にあるコーラでもいいが、そこはそれ、色々試すのもまた楽しいのだ。
続いてフライドポテトをぱくりと一口。
塩味が効いてとてもうまい。コンビニで売ってるようなフライドポテトでは出せないカリカリさとホクホクさが幸せを運ぶ。此方はコーラで流し込むのが一番だ。
ゴクゴクと飲み干す事でより一層食べている感じがする。
目の前にはまだまだ沢山あるハンバーガーとチーズバーガー。Lサイズポテトも2個と一人で食べるのは無理がないかと思われる量だが、まだまだ若い彼にとっては軽い間食とそう変わらない。それに普段は強くなるためにハルペーを使っての鍛錬もしているので、家で食べるだけでは全然足りないのだ。
幸い自由に使えるポイントは結構残っているので、この程度の食べ物なら好き放題買って食べる事が出来る。こればかりはこのデスゲームに参加してよかったと思える瞬間だろう。
既にミッションの悩みの事など頭の片隅にすら残っていないが、ここで考えていてもしょうがない、今はたらふく食べて夕飯も沢山食べようと、太る前準備の様な事を考えていた。
幸いにも彼は太りにくい体質であり、レベルも上がっているお陰か平均的な男性の体格よりずっと立派だ。腹筋も綺麗なシックスパックになっているし、着やせする体質なのか服を着ている限りではそこまでわからないが、脱ぐと見惚れるような細マッチョである。
顔もそこまで悪くないので、そのぼさぼさの髪型を何とかすれば普通にモテそうなのだが、そこが出来る様な人間が学校で底辺近くをさまよう陰キャなどやっていないので、宝の持ち腐れである。
つまりは腹が出る云々を気にしないで好き放題食べられるのだ。この時点で女性の大半を敵に回すような話だが、安心してほしい、大半の男性も敵に回している。
次々と消えるハンバーガーを周りの客がふらっと見ては驚いてはいるが、そこまでで誰もそれ以上に干渉はしない。たった一人を除いては。
「少しいいか?」
「!? ぅぐ!? ごほっ!?」
いきなり話し掛けられ驚いて食べ物をのどに詰まらせてしまう。直ぐにコーラを飲んで無理やり押し込んで一息つくと、話し掛けてきた相手に向かって非難の目を浴びせ・・・ようとして止まった。
「あ、あんた・・・」
「覚えてくれていた様で何よりだ。この時間はまだ学校の筈だが、サボリか?」
「いや、俺こう見えて社会人なんで・・・一応」
「そうか、それはすまなかった。高校生か大学生位に見えてな」
ハルペーに話し掛けてきたのは、この前共闘していたプレイヤーの一人。高速移動と斬撃を得意とするプレイヤー、アクセルだった。
あのミッション途中で両手両足を切断されたはずなのだが、彼は五体満足で立っている。回復魔法の存在や回復アイテムの事は彼も知っているので、そこまで驚いてはいないが、そんな彼が急に話しかけてきたのはなぜなのかと少し挙動不審になっていた。
「この席、いいか?」
「あ、ど、どうぞっす」
ミッション中ならばともかく、普段はどう見ても自分よりずっと年上に見えるアクセルだ。つい敬語モドキになってしまう。
「無事で何よりだ」
「そ、そっちも大丈夫、だったんですね」
「あぁ、なんとかな。別に敬語はいらんぞ?」
「い、いやぁ、そういう訳にも」
漫画やアニメの主人公なら兎も角、普通の陰キャがいきなり敬語からタメ口で話していいぞと言われて、即座に変えられるなら苦労はしない。そんな事を簡単に出来るのはコミュ強に与えられた必須スキルなのだ。
相手が良いと言っていても、直ぐに変えられるほどの度量なんて基本的にない。
「え、えーと・・・それで、俺になんか用、ですか?」
「あぁ。ここなら喧噪で聞こえないし、簡潔に言わせてもらうが」
アクセルは一応周りに誰も居ない事を確認すると、ハルペーに提案を持ち込んできた。
「次のミッション。お前さえよければ一緒にやらないか?」
「・・・!?」
それはハルペー自身が先ほど考えていた悩みだ。誰かと一緒にやれるのなら成功率も安全性もかなり確保できる。それも目の前に居るアクセルはレベル3、自分以上に強い強者から引き込みが来るなんて思っても居なかった。
「そ、それは助かるんですが、えと・・・どのレベルのを・・・」
「俺達はレベル3~4を攻略する」
「お、俺・・・その、レベル2なんですけど、良いんでしょうか」
「そう、だったのか。十分強かったんだが。いや無理にとは言わない、出来ればでいいんだが」
アクセルはハルペーがレベル2だと申告すると少しだけ驚いていたが、彼の活躍は直接見て覚えている。攻撃力も支援力も十分なソウルギア使いだ、まさかここで簡単に見つかるとは思っていなかったので、出来ればパーティはともかく今回のミッションには参加させたいと、彼の意思を問う。
「お、俺が参加してもいいんですか?」
「今は一人でも、信用できる戦士が欲しい。その点お前は合格だ」
「っ・・・!?」
アクセルの言葉がハルペーの心に突き刺さる。
彼は家でも学校でも認められることは無かった。どれもこれも中途半端で、出来ない事が多い。いつしか親も彼に期待する事はなくなり、高校を卒業して社会に出てもバイトではあまり役に立たず、影口をきいたこともある。
学校生活でもどれだけ頑張ってもそれ以上に凄い奴等は沢山居て、結局自分は何もできないと諦めた。ステータスの高さを使って体育では頑張ったが、多少驚かれた程度で後は何の騒ぎにもならなかった。
結局自分はどこでも中途半端なんだと、諦めていた自分に目の前のアクセルは、信用できる戦士が欲しいと、自分を戦士だと認めてくれたのが心の琴線に触れる。
今の自分でも強くなれるのだろうか、そんな思いは今でも漠然とあった。
そんな中途半端な自分を彼は欲してくれたのだ。
なら答えなんてものは決まっている。
「や、やります! やらせてください!」
「そうか。とても助かる、ありがとう」
「こ、此方こそ、俺なんかを誘ってくれて・・・」
「違う。お前なんかではない。強いお前だから誘ったんだ」
「っ・・・! はい!」
アクセルとしては、頼りになる仲間が一人でも欲しかっただけなのだが、殊の外それがハルペーには響いたらしい。交渉されたり報酬の話でも聞かされると思っていたのだが、すんなり同行してくれることになったようで一安心だと安堵する。
これで先ずは一人、アクセルは目の前ではしゃいでいるハルペーを他所に、次のメンバーを探すために行動を起こすのだった。
―79話了
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御堂君に忘れられていたハルペー君参戦!!
そしてチョロいハルペー君!!
大丈夫かハルペー君!!
あさねこも忘れてて、社会人なのを忘れて学生にしてしまったハルペー君!
急遽直しましたが、その内自己紹介欄とか作るべきかなと考えました!
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