第53話 うざいを通り越すと気持ち悪い。
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そろそろ防衛ミッションもラストスパート。どうなるでしょうか。
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男は遊びつつも苛立っていた。
何度ぼこぼこにしても立ち上がってくる目の前の赤黒い鎧騎士が剣を構えながら突撃してくるのだ。
その度に何度も返り討ちにしていくが、それでも尚立ち上がる。4回目位で本気で苛立ったので本気でぶん殴ったのだが、吹き飛ぶだけで拳が貫通しなかった。どうやら伊達や酔狂で身に纏っている防具ではないのだろう。
戦闘系ではないがそれでもレベル6のステータスで攻撃したのに貫通出来なかったのだから。5000ポイントクラスの防具には匹敵していると思われる。一応あれがスキルで形成された防具なのは見ていたので知っているが、ここまで防御力が高いと流石に面倒だ。
衝撃自体は伝わっているようで、致命傷に近いダメージは与えている筈なのに立ち上がってくる、まるでゾンビか何かでないか。
ちなみに御堂が何度も立ち上がれる答えは遠距離発動させる事が出来る様になったサイレーンの回復スキルの効果だったりする。
気が付けば召喚したアンデッドの数も残り少ない、倒せたプレイヤーは一人だろうか。意外と雑魚の割りには連携して戦えているようだ。お陰で面倒がさらに増えた。
自分のソウルギアを呼び出して一気に片付けるかと考えたが、不思議な事にいまだにレベル4のソウルギア相手に戦っている。あいつも遊んでいるのだろう、邪魔をしたら後で面倒なので暫くはこうやって遊ぶしかないと嘆息する。
「そろそろ諦めて殺してくださいとか言わないんスか? 今なら優しく殺してやるッスよ?」
勿論嘘だ。彼の趣味は相手を甚振りつくして絶望させながら殺す事なのだから。というよりもそれを素直にお願いするような御堂ではないが。
「はぁ・・・はぁ・・・」
息も絶え絶えになりつつも、戦闘態勢を取る御堂。既に血反吐を巻き散らし鎧の内部は恐らく血まみれだろう。小便を漏らしてないだけ十分な状態だ。
疲労は回復してもダメージは回復しきれていない、こうやって今生きているのは男がいまだに遊んでいるお陰だ。本気ならとうに死んでいる。故に、まだこの男には遊んでいて貰わなければならない。
クレアとショコラは既に戦闘不能で消えている。死ぬ前に召喚解除したおかげで瀕死状態のままだ。時間を置けば回復するだろうが、この状況ではもう二人は呼び出せない。サイレーンとテルクシノエーは未だ無傷だが、二人を狙われたなら終わりだろう。
「いるんスよねぇ。無駄な足掻きってのをする奴が。無駄だってわかりません? あんたじゃ俺を抑える事すら出来ないんスよ? こうしてるのは俺があんたで遊んでいるお陰っス」
「はぁ・・・・はぁ・・・」
御堂は答える代わりに再び突撃した。
全力を振り絞っての連続攻撃だが、既に満身創痍の状態、それなりに早くても男にとってはスローモーションに等しい。
全ての攻撃を軽く避けられ攻撃していた腕を握られた。そのまま握りつぶそうとするが――
「は?」
握り潰せなかった。
鋼鉄だろうがファンタジー金属のアダマンタイトだろうが、アプリで買える最高品質の防具でもなければ粉砕できる筈なのに、スキルで作られただろう籠手が握り潰せなかったのだ。
変身系のメタルヒーローっぽい奴の防具を粉砕した事もあるのに、たかがレベル3の雑魚が形成した防具が粉砕できない。思えば先ほどから御堂にダメージこそ与えているものの、その防具は一切の破損が見られない。
「くそうぜぇ」
「あぐっ!?」
握った腕を苛立ちのまま投げつける。
その勢いで地面に叩きつけられ衝撃で息が詰まる御堂。
「何なんだよもう。俺を楽しく遊ばせろよ」
ガンガンと頭部を踏みつけるが、フルフェイスヘルムが破損する事はない。傷つかないだけで衝撃は御堂にダメージを与え続けてはいるが、それが男を更に苛立たせる。このまま衝撃だけで殺してやろうかと考えた瞬間、急激な悪寒を感じてその場を飛び跳ねた。
轟音と共に漆黒の槍がその場を突き抜ける。
テルクシノエーが放ったSレア魔法【闇槍魔破】だ。命中すれば相手のレジストをある程度無視。稀に完全無視してダメージを与える魔法なので、冗談でも当たってやる訳にはいかない。
飛び跳ねた先にサイレーンが銃撃するが、そちらは無視。この程度の豆鉄砲ならばたとえ目に命中しようが口に命中しようが、ある程度痛いだけで済む。
しかし魔法を回避し飛び跳ねた事で御堂を回復する時間は出来た。直ぐに回復スキルを発動するが、何度も使い続けた所為なのか、それとも回復しきれないほどのダメージを受けているせいなのか、回復が遅い。
追加で言えばこうやって回復できる回数も残り3回しか残っておらず、それ以上は限界だった。テルクシノエーに使用回数を念話で伝え、万が一の場合は全てを捨てて転移のアイテムで逃げるつもりでいる。
流川を失うのは痛いし、ミッションは失敗、周りの人間も全員死ぬ事になるだろうが、御堂は生き残れる。テルクシノエーはその時は御堂が何を言おうと逃げるつもりでいた。たとえその後で恨まれようと憎まれようと、蔑まされようと・・・御堂が生きのこる事こそが、彼女達の願いだから。
「まーた回復っスか。【極大治癒】じゃあ重症は直らねぇんだけどなぁ。【神聖治癒】っスかね? レベル3の雑魚にゃあ手の届かない代物っスけど」
あれだけ痛めつけても立ち上がる御堂。数回は致命傷に近いダメージを負わせ、重症にもなっている筈なのに、何事もなく立ち上がってくる。勿論疲弊はしているが、戦闘が可能な状態まで回復している事が不思議だった。
一応Sレアスキルに致命傷でなければ生命力をほぼ全回復できる【極大治癒】がある。此方はマジックがある程度高ければ消費もある程度抑えられて便利だが、致命的な大怪我は回復できない。
重体や瀕死をも回復できるSSレアスキルの【神聖治癒】は使用回数が限定されるものの、四肢欠損すら容易に回復できる代物だが、レベル3程度のプレイヤーではガチャの幸運に期待するしかない。
どちらもかなりのマジックが無ければ手に入れても使えない代物ではあるが、あのソウルギアはそれを使えるだけのマジックがある様には見えない。となれば固有スキルでの回復能力だが、そんなトンチキ過ぎるスキルは早々ない筈だ。
「何にせよ、どうすっかなぁ。飽きてきたし終わらせるかね」
いい加減に痛めつけるのにも飽きてきた。目の前の美女が更に気に食わないのもある。あれほどマスターマスター言いながらすり寄ってくるソウルギアがとても気に食わない。自分のソウルギアはツンデレ拗らせているというのに。等と嫉み嫉みも含めてそろそろ本気で終わらせる事にした。
気が付けばウェーブの終わりまで後30分まで来ていた。
ここで遊んで防衛達成されましたとなれば、この後自分がどうなるかも分からない。その場で殺される事は無いだろうが、確実にペナルティはあるだろう。
面倒な事に、防衛ミッションが成功してしまった場合、自分が人間だからと言って関係なく殺しを続ける事が出来ないのだ。
これはゲームのルールとしてあらかじめ決まっている。失敗した場合でも成功した場合でも、ディザスター側に付いたプレイヤーは「死んでさえいなければ」あらかじめ決まっていた拠点に飛ばされる事になる。更に追加で【その時に相手をしたプレイヤー達に対しての次のシーズン開始まで接近禁止令】が発令される。
稼げそうなプレイヤーはこの場で殺しておかなくては、シーズンオフ中に殺しに行く事が出来ない。それを破ればディザスターとの約束を反故にしたと言う事で弁明すら出来ずに処分される。
大丈夫だろうとタカを括っていたプレイヤーキラーが処分されたなんて事はよく聞く話だ。
ここで一番稼げるのはレベル4のジェミニとレベル3だろう。残り時間も少なくなってきたので本気で殺さなくては折角のポイントが貰えなくなる。
「つー訳で。そろそろ死んでもらうっス。おねーちゃん達に囲まれてハーレムやってたんだし、十分っしょ? 最後は血反吐巻き散らして死んでくれッス」
「る、せぇんだよ・・・!」
「あ?」
「俺はここを・・・任されたんだ・・・俺が、お前を・・・止めていれば、あいつならきっと」
「あのさぁ? あんたは止めきれてない訳? わかる? 俺が遊んでたから生きてるだけなんスよ?」
「ははっ・・・! ごふっ! だが、それでもテメェは・・・俺を相手にして、止まってただろう?」
「うぜぇ・・・うぜぇうぜぇ・・! うざ過ぎて気持ち悪いんだよ! この雑魚がぁ!」
全身が震えながらも手甲剣を突きつけて、煽ってくる御堂にうざさを通り越して気持ち悪さを感じ始めてきた。手加減し過ぎたかもしれないと反省し、もう付き合ってられないとばかりに言葉を突きつける。
「もういいっす死ね――」
これ以上この男の言葉を聞きたくないとばかりに男はスキルを発動させ――
横に吹き飛んだ。
「・・・は?」
此方を殺しに来たはずの男が急に壁に激突したのだ、混乱するのも仕方ないだろう。サイレーンもテルクシノエーも何が起きたのかわかっていない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
壁に吹き飛ばされた男が叫びながら立ち上がった。無傷だった男が頭から血を流している。先ほどの一撃でダメージを受けたのだろう。
「だ、誰だ!? って―――」
「お待たせしましたケーキ屋さん。よく、よく耐えてくれましたね」
「は、はは・・・なんとか、な」
汗だくになりながらもいつもの様に柔和な笑みをこぼす流川がそこに立っていた。
右手には見た事もない短剣が握られている。
「な、何が・・・? なんなんスか!? レベル4が俺に!? っていうかいつの間に!?」
男が現状を見て驚愕する。
周りには生き残っていたプレイヤーがそれぞれ武器を構えて立っていたのだ。この場に居ないのはリバティと佐伯、そしてスピネルだけ。
「おかしいだろ!? 俺のアンデッドが全滅した!? ってかさっきまで戦ってただろ!?」
男が吠える。そう直前までプレイヤー達は全員アンデッドに押されていた筈なのだ、誰もが必死に戦っていた筈なのに、周りには一体のアンデッドも残っていない。周りのプレイヤーも回復しているようで、何時でも戦える状態になっている。
「あ、やっぱりそう見えてたんだ・・・凄まじいわねぇ」
「は??」
意味が分からないと叫ぶ男にガーディアンが呆れたように呟いた。それを傍に居た羅漢が続ける。
「実は戦いは10分くらい前に終わっていたんだよ。その間準備を整えていたのだ。ケーキ屋さん、だったかな? 彼が危険な状態になるまではギリギリまで、と言う事でジェミニ殿が頑張っていたよ」
「どういう事だよ・・・なぁ!?」
「それを教えるつもりはありません。貴方には知らないままで十分でしょう?」
流川が一歩前に進む。
「っ!? れ、レベル4風情が何を―――!?」
「後30分ですか・・・。結構きついですが、なんとか耐えきれそうですね」
「な・・・なんで・・・!?」
男は震えた指を突きつける。
「何でお前・・・・!? レベル5になってやがるんスかあああああ!?」
スキル【エンサイクロペディア】を発動し調べた流川のレベルは―
4ではなく5に上がっていた―
―53話了
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プレイヤーキラーさん終始ハテナ顔。
恐らく皆さんもハテナ顔だと思います、どういうこっちゃのん?
ネタバレは多分明日ですね。流川さん何をしていたのでしょうか。
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