第54話 死闘の裏側で水鳥みたいに足掻いて

祝40000万PVを達成しました。皆さん閲覧ありがとうございます。

少しでも楽しんでもらえるようにこれからも頑張っていきますね。

さて、今回は先日のネタバレ回? になりそうです。

短いですがどうかご容赦を

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「あそこに俺達が居る・・・すげぇなSSレアスキルって」


 スマホのズーム機能を使って奥で戦い始めた流川達の様子をハルペーが見ていた。ミッションフィールドのギリギリ内部に全員が揃っている。奥では流川と御堂をはじめ、羅漢やガーディアンに、バンカーやハルペー達が戦闘態勢を取っている。


 アトリは戦闘中にハルペー達を庇い続けた所為で戦闘不能になって倒れている。死んではいないが暫くは絶対安静だろう。というよりも大半のプレイヤーが満身創痍だった。彼等がこうして生きているのは奮戦していたアトリとバンカー達のおかげである。


 そして彼等がここに居るという事から分かるように、あそこに立っているプレイヤー達は全て【幻術】で作られた偽物である。あたかも本物であるかのように、あの場に存在しているのだ。


 これが流川の切り札の一つ【極大幻惑陣】


 彼が所持している中で最高の切り札の一つであり、1シーズン中1回しか使えないというとてつもない制限がある強力なスキルだ。


 その効果は【自身のレベルより4レベル上の相手でなければ看破出来ない幻惑効果】を発生させる事が出来るという、チートにも程があるスキルである。


 1シーズン中に1回しか使えないのも十分な制限だが、このスキルは更に面倒な起動条件があり、それを発動させるために流川は全員に指示ついでに頼み込んでいた。


 その頼み事は【プレイヤーから1秒に付き1ポイント】を徴収するという難しすぎる条件。極大幻惑陣は発動させる事自体はコストはかからないが、維持するためには毎秒15のポイントを消費してしまうのだ。


 勿論その効果に見合うほどの強力な効果がある。この幻惑に惑わされた存在にとっては、それが現実になるという恐ろしい効果がある。ダメージを受ければ実際にダメージを受けるし、死ねばその通りに死ぬ。所謂幻肢痛や錯覚による脳のバグを利用したものだ。


 ばれてしまった場合、それまでのダメージも無かった事になってしまうが、相手が高レベルではない限り、余程理不尽な幻術を発動させない限りはこれを幻術だと理解するのは難しく、術中に嵌ってしまえば流川の想いのままだ。


 だがそれでも基本的には相手の方が上位、幻術を維持したまま戦い続けほぼ対等に戦い続けられているのは、ひとえに流川自身の技量によるものだろう。


 そしてこのスキル。流川の所持しているポイントだけでは制限時間まで展開を維持出来ない。解除されてしまえば残った勝率も消えてしまう。


 故に流川は彼等プレイヤーと連携してスキルを展開し続けるためのポイントを徴収できないかと頭を下げて頼みこんだのだ。


 勿論彼等の答えは見てわかる通り、全員OKだった。このままではどうせ死ぬ事になる。それならばたったの秒間1ポイントを消費する事で生き残る可能性が出来るのならと、全員―リバティ含め流川にポイントを貸し続けることにしたのだった。 


「あー、レベル3目指す予定だったんだがなぁ・・・その前に死んでちゃしょうがねぇしな」 


 1秒ごとに1ポイント減っていく状況に精神がゴリゴリ削れているハルペー。早く終わってほしいと願っているが、流川が狙っているのはここからのタイムオーバー。

 

 つまりあと30分耐え忍ばなくてはならない。一人1ポイントなので1分60ポイントとして1800ポイント消える事になる。一応クリア報酬は6000なのと、雑魚を倒したポイントである程度賄えるが、それでもポイントが減っていくのは痛い。


「それにしても凄いわね。ここからでも声聞こえてきたけど、ジェミニがレベル5になったと思い込んでるみたい」


「それが極大幻惑陣の効果か・・・認知まで変えてしまうとは恐ろしいスキルだ」


 気が抜けたように座り込んでいるガーディアンと万が一のために結界を張り続けている羅漢が流川のスキルの恐ろしさを改めて感じている。

 

 プレイヤーキラーの男が流川に向かってレベル5になったのかと叫んでいたが、実際の所、流川のレベルは4のままだ。レベル5にあげるためにはポイントが足りなすぎた。これも極大幻惑陣の幻惑効果の一つである。


 流川がこのスキルを発動させた後、すぐに周りのアンデッドを倒し羅漢と協力してアンデッドが再生しない様に結界を張り終えた。直ぐに全員を回復させ、リバティたちと合流。アクセルの四肢切断はどうしようもなかったので応急手当の後にサイレーンに頼み込む手はずになっている。


 後は御堂を含めて、全員【アンデッド達と激戦を繰り広げている】という幻術を展開させ、このスキルを維持させるために全員に協力を申し出たのだ。相手はレベル6である以上。流川では相手を倒す方法がない。可能性のあるジェミニ達はソウルギア相手が限界で此方に協力は出来ない。


 ちなみに全員がここに居るのは最終手段で【ミッション失敗】として処理して撤退させる為だ。この状態になったらリバティは死ぬ事になるが、これ以上彼女を救う手立ては見つからないので仕方のない事ではある。


 一応万が一のために効果があるかは分からないが、テルクシノエーにも渡したミッション脱出のアイテム自体は預かっている。これで防衛対象が逃げられるかは分からないが、気休めにはなるだろうと渡されている。


「すげぇ・・・流石っスよ流川さん!!」


「うん・・・凄い」


 凄い凄いとしか言わなくなった佐伯とスピネルを他所にリバティが彼方に向かう前に流川に頼まれたことを考えていた。


『あの武器を強化してほしいって言われたけど、あれ・・・機械で出来た短剣、なんかやばそうだったなぁ』


 彼方に戻る直前に流川から頼まれた【マシン・ザ・リバティ】による武器の強化。短剣は機械じゃあないので無理だと断ったが、大丈夫だと言われて試した所、まさか本当に上手く行くとは思わなかった。


『もう無理だ、もう無理だって思ってたのに・・・あっちで戦ってた人も、ジェミニも一切諦めてなかった』


 みっともなく泣き喚いていた彼女に流川は怒鳴る事もなく、ただ頭を下げて彼女に頼み込んだのだ。「彼を護るためにその力を貸してほしい」と――


 何時以来だろうか、ここまで自分が頼りにされたのは。


 自分の様なヒキオタニートが誰かの役に立てたのは。


 頼まれたからとはいえ、佐伯が、スピネルが自分の命を守ってくれている。プレイヤー達が自分を見捨てずに傍に居てくれる。


『私にもまだ、出来る事・・・あるのか』


 少なくとも彼女の強化のお陰で、今流川は、あのレベル6の化け物と戦えている。命を張って戦っていた御堂と一緒にだ。善戦出来ているとは言えないが、相手は幻惑にはまっていて思うように攻撃が出来ておらず、対等に戦えているのがここから見える。


『いいな、私にも・・・あんな風な友人がいれば、違ったのかな』 


 今までの人生に後悔は、沢山あるがそれはそれで自分の人生だと諦めて生きてきた。今日生き残れる可能性を感じ、御堂と流川の様な親友同士の関係を見て、羨ましいと彼女は改めて感じる。


「・・・生き残れたら、頑張ってみようかな」


 ぽつりと彼女は零す。先ほどまでは流川か御堂に縋りついてこの先をどうしようかと考えていたが、自分のソウルギアが何かに役に立つかもしれないのなら、と縋るのではなく、協力関係とかを築ければいいなと、思い始めている。


 その全ては生き残れてからになるが。


「あと・・・14分23秒」


 プレイヤーの一人が時間を逐次確認している。意味はないが、ここで何もしないでいるよりは何かをしていたいのだろう。


「流川さん、そしておっさん・・・頑張ってくれよ・・!」 


「大丈夫・・・私は信じてる」


 スピネルは改めて今回のミッションを流川とこなせた事を喜んでいた。確かに激戦だったし、流川を超えるようなプレイヤーキラーも出てきたが、少なくない犠牲はでたものの、それでもこうやって生き残って、尚且つクリアの可能性がある事に喜びを隠せない。


 そして、御堂に対しても羨ましいという気持ちから、流石は流川の親友だとかなり見直していた。最初こそ腰巾着みたいな奴だと思っていたが、命を懸けて流川に逆転の一手を与えたり、今みたいに二人で戦い続けている姿に、つい尊さを感じている。


 掛け算はしなかったが。


 そして今回こそは流川との連絡手段を手に入れようと気合を入れていた。今までは運が悪く、流川の連絡先などを聞く事が出来なかったが、今回は「ポイントを貸し与えている」という立派に引き留める理由がある。


 一応流川は成功した場合、手に入れたクリアポイントで全員に出来る限りの補填をすると約束してくれていた。流石に全員に全ポイントを返還するだけのポイントは手に入らないが、6000ポイントを全て今回ポイントを供与してくれている全員に分割で返還してくれるのだ。


 ハルペーや他のプレイヤーが直ぐに渡すと判断したのもそこが関係している。


 佐伯に羅漢やバンカーは断るつもりでいるらしいが、スピネルは違う。これを交渉材料にして流川とこれからも連絡出来るようにするつもりだ。流川が無理の場合でも御堂とのコンタクトが取れれば、流川にまた出会える可能性は高くなるだろう。


「・・・私はこの後の方が大事」

 

 憧れのプレイヤーである流川。


 今回このミッションがクリアできた場合それは、彼女の中で完成する。彼女が知る限り最高のプレイヤーだと。レベル4がレベル6に作戦だけで勝利した男と。


 スマホを覗けば残り時間はあと8分を切っている。


 このまま無事に終わるように彼女は流川達の勝利を祈るのだった――






―54話了





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という訳で、レベル8まで誤魔化せる幻惑スキルで、色々と誤認させて対応してると言うのが答えでした。流石にレベル7だの8だの幻惑でやってもばれてしまうので、

その場合は無意味になるので、そこは匙加減ですね。

レベル4の流川ではダメージを与えるのも至難の業ですが、そこはリバティの

機械強化が効いている模様です。

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