第51話 そんな簡単に人生はうまくいかない
皆さん閲覧ありがとうございます。
今日も頑張っていきますね。
今日は体調不良のために少し短いですがご容赦の程を。
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プレイヤーキラーの男に振り下ろした手甲剣は軽く避けられた。すかさず次の一撃をと構えるが、その姿は既に範囲内から離れている。
直ぐに距離を取って攻撃を再開するが匠な回避技術で一切の攻撃が通らない。レベル差よりも技術力の差だろう。
「あー、吃驚した。ステータスが高いだけっスか」
一瞬激昂した男も目の前の御堂が単純なバフで押してくるだけの男と分かりいつもの調子を取り戻す。そしてそうなるといつもの悪い癖が出てくる。
「ほら、折角主役っぽく出てきたんスから、もう少し真面目にやってくれません?」
「ざっけんじゃねぇ!!」
御堂を煽り散らかし続ける男。
それでなくとも御堂と一緒に男を攻撃しているソウルギアが腹立たしい。どれもこれも全部目の前の男のソウルギアなのだろう。人型のソウルギアがジェミニのような特殊を除いて複数体出てくるなんて聞いた事などない。
それが全部異性タイプで4体も御堂を主人として戦っているのがとても腹立たしい。自分のソウルギアなんて珍しくこちらに好意などあまり持っているように見えないのに、この差は酷いだろうと。
一応彼の手持ちのソウルギアも命令には従うし、口調もきついだけでネコみたいなものかと思っているが、御堂のソウルギアの様に必死に彼の為に戦う健気な彼女達の存在が疎ましい。
一番疎ましいのは、目の前で必死に攻撃をし続けてくる御堂の存在だ。
何を勘違いしているのかと言いたい。まるで自分が主人公で、仲間のピンチに覚醒して戦って勝てるとでも思っているのだろうか? 確かにステータスは高い、あのステータスだけならばレベル5や6に近いものがある。
だからこそ一瞬驚いてしまったが、それ以外は全てが足りていない、戦闘の経験もないし、技術もスキルの拡張だって出来ていない。更に言えば、レベル3がレベル6に勝てるなんて考えている所が愚かしい。
時々飛んでくるソウルギアの歌は即死や魅了、発狂等だろうか? その程度の状態異常など低レベルなら兎も角レベル5以上になれば対策を積むのが当然だ。通じると考える方が可笑しい。
時々Sレア魔法も飛んでくるが、威力もそこまで高くないし、周囲で豆鉄砲やナイフを飛ばされた程度でどうにかなるほど男は弱くない。
「ほんと、こういう熱血系って嫌いなんスよね。頑張れば報われるとか、活路が見いだせるとか」
「余裕かよテメェ!?」
「みてわかんないっスか? 余裕なんスよ。ほらっ!」
御堂の連撃を全て捌き、一瞬の隙を狙い一番防御力が高そうな胸部に蹴りを放った。あまりのスピードで防ぐ事が出来ず御堂は直撃を喰らい面白いレベルで吹き飛び近くにあるコンクリートの壁に激突する。
「かはっ!?」
衝撃が御堂に深いダメージを与える。一瞬気が遠くなるが直ぐに気合だけで立ち上がった。その姿も男には気に食わない。
「レベルが一つ違うだけで色々違うって習わなかったんスか? 1程度なら相性やないかで勝てるかもしれないっスけど、2も離れれば基本的に無理、3離れれば天と地の差って奴っすよ」
今まで殺してきたプレイヤーも自分よりレベルが低かった、だからこそ安全に殺せた。中途半端に理性を残して相手を殺しては脅えているプレイヤーキラーもどきとは違う。この力を手に入れた時から、相手を貶める事に全力を掛けてきたのだ。
召喚型という本人はそこまで強くないデメリットを抱えながらも、これでレベル6まで上がってきた男が、目の前の勢いだけでなんとかなると信じている男に負ける訳が無い。
「知ってるっつの・・・」
「は?」
「レベルが高い相手の方が基本的に強いなんてゲームやってりゃ分かってるさ! この世界に巻き込まれた俺だってわかる」
「はぁ。また語りだした。ほんきでうぜぇ」
御堂が手甲剣を杖代わりにして立ち上がり吠える。本人たちにとっては格好いいシーンなのだろう。その証拠に周りのソウルギアが輝くような笑顔で御堂を見ているのだから。
男にとっては全く違う。「なにこの滑稽な芝居」雑魚が自分の力に酔って粋がっている姿にしか見えない。周りが見えず、現実が見えずに、根性論と希望論で何とかなるかもしれないなんて、謳っているだけだ。
これならさっきのレベル4のジェミニの方が現実をちゃんと見てただろう。
しかし男はうざいうざいと言いながらそれを黙って見ている。これもまた彼の悪癖だ。相手にやりたい放題やらせて、ワンチャン希望を持たせ、それを容赦なく打ち砕いて現実を見せる、それが最高に楽しいのだ。
聞いていて寒気が走る口上を続けている御堂に、さっさとかかってこいと思いながら白けている男。既に負ける気もしないし、事実装備やスキル的に負けることは無い。
「で? そろそろいいっスか?」
答えは御堂の突撃だった。
全力でタックルを仕掛けてくる。左右に逃げられない様にクレアとショコラが射撃と魔法で動きを妨げている。
「ま、こんなもんっスよね」
「っ!? マジかよ・・・」
突撃の衝撃が御堂にかかる。しかし彼の突撃は男に当たる前に見えない壁に阻まれた。よく見れば濃い緑色の風の奔流が御堂の目の前に展開されていた。
「風魔法の【
「なんで、テメェはこんなに――」
「あー、はいはい。説教とかいいんで」
何かを言いかける御堂にまたしても蹴りが飛ぶ。またしてもまともに防御する事すら出来ず、御堂は数メートル吹き飛び地面に倒れ込んだ。
たった二回攻撃されただけで、鎧を身に纏っているのに満身創痍である。
トランスブーストを使用していなければ、この2回目で致命傷になっていただろう。技も何もない簡単な一撃で既に御堂は倒されかけていた。
痛みを堪えながらも御堂は必死に立ち上がる。
彼自身レベル差云々等嫌でも知っている。レベルが1上のジェミニにすら手も足も出ないのにそのジェミニよりも2レベル高い時点で、勝てるなんて思っていない。彼方で善戦しているジェミニ達が恐らく男のソウルギアだろう少女を抑えていなければ、何もできずに死んでいるだろう。
見た所、どこにでもいそうなインドア派の陰キャオタクにしか見えないのに、それでも自分を軽く圧倒している。そこまで強いのにどうしてプレイヤーキラーになどなったのか。
いや、プレイヤーキラーをし続けてここまで強くなっただけかもしれないが、それがどうしても御堂は許せない。
小難しい理由等ない、ただそのような外道な行為を許す事が御堂には出来ないだけだ。震える足を気合を入れて震えを止め、刃を構える。
今御堂が出来るのは、目の前の男を倒す事ではない。流川が周りのプレイヤー達を助け、なんとか次に繋げる事だ。その為に勝てない相手に突撃したのだから。その役目は絶対にやり通すと決めている。
男は御堂が自分を倒せると勘違いしてくれている。つまり相手は御堂を侮ってくれている。だからこそ時間稼ぎをするには最高の条件なのだ。念
話でサイレーンとテルクシノエーには、此方を支援するふりをして流川の手伝いをしてほしいと頼んである。距離的に離れている二人だからこそ、後は男の目を自分に注視させておけばなんとかやれるはずだ。
手甲剣を腰だめに構え、呼吸を整える。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「いい加減にうぜぇんだわ。そろそろ飽きてきたっスよ」
長い時間は持たないだろう。
自分が死ぬか、流川が間に合わないか。可能性はとても低く逃げた方が確実だが、御堂はそれでも流川を信じ攻撃を再開するのだった。
※
「死ぬっ!? 私もう死ぬんだあああああああ!?」
リバティが絶望に泣き叫ぶ。佐伯に背負われながらただ泣き続けている。
「落ち着けって!?」
「落ち着ける訳ないじゃん!? どう見ても勝てないじゃん!? ムリゲー! ムリゲー乙!!」
必死の状況、ある程度抑えていた彼女の本性が露わになる。
「やっぱり無理だったんだ! スレを信じた私がばかだった!!」
生き残れる可能性を信じてここまで来たのに、結局は無理難題を用意されて死ぬしかない状況。ディザスターはクリアさせる気なんて毛頭なかったのだろうと、吐き散らす。
レベル6、レベル6だ。
そんな高レベル、スレでも噂になっている【攻略組】しか知らない。全員が最低でもレベル4、最高レベルのリーダーはレベル8だと噂されている。それがどこまで真実か知らないが、今回のボスがレベル6のプレイヤーキラーである以上、信憑性は高まっただろう。彼女の命の危機には全く意味の無い情報だが。
「レベル4なんか信じちゃったから!! あー! ゲームやりながら死ねばよかった! 最後に期待させておいてこれとかクソゲーにも程があ――」
最後まで言い切る前にスピネルに頬を思い切り張られた。
「な、何すんだよぉ!?」
「・・・・自分の自業自得を、他人に押し付けないで」
「うぐっ・・!?」
辛辣な事実をスピネルは突きつける。
「こうなったのは貴女の怠慢。ミッションの為とはいえそれでも来てくれたジェミニ様やみんなに吐いていい言葉じゃない」
「う、うぅぅぅ・・・でも、どうすりゃいいんだよぉ・・・」
「・・・・」
リバティの言葉にスピネルは答えられない。クリア出来なければ逃げるしかない以上、その場合は彼女を見殺しにするしかない。
自分たちは結界外に逃げれば助かるだろう。ミッション放棄になるので何度も出来る行動ではないが、出来ない訳ではない。彼女も死にたい訳ではないので最悪は撤退も視野に入れている。ボスがプレイヤーキラーというのは予想外だったが、相手もリバティを無視してミッションを無視して他の逃げだしたプレイヤーを倒しには来れないだろう。
リバティが殺されてミッションが終わった後ならば分からないが、その間に逃げ切れば問題ない。
「大丈夫だ・・・!」
彼女を背負っている佐伯が力強く叫ぶ。
「流川さんが居るんだぞ! 相手がレベルなんちゃらだろうがなんとかなる!!」
「レベル4じゃレベル6には勝てないんだよぉ!?」
「そんなもの誰が決めた!!」
「根性論でどうにかできるもんじゃな――」
「相手のレベルが高かったら諦めるのか!?」
「・・・・っ!」
佐伯の言葉にリバティもスピネルも反論が出来ない。
「相手のレベルが高かったら諦めて死ぬってのか!? そうじゃねぇ、そうじゃねぇだろ!!」
彼の想いは止まらない。
「俺は信じてる! 絶対に流川さんが何とかしてくれるってよぉ! だから俺は言われた通りにあんたを護る!」
流川のお陰で今の自分が居る。だからこそ佐伯は流川を信頼し、信用している。たとえ絶望の状況であろうとも、彼はそれを覆してきたのだから。
そして彼は知っている。流川は自分より高レベルのモンスターを倒しミッションをクリアした実績がある事も。可能性はある、生き残る可能性は。
ミッションのクリアは出来なくとも、防衛対象のリバティ含め残った全員が生き残れる可能性を。
「なんで・・・」
「ぁん?」
「なんでそんなに、信じられるの??」
「逆に聞くけど、信じても居ないのに助かるとか考えてたのか?」
「うぐっ」
真顔で言い返されて詰まるリバティ。誰かを信じる気持ちなんて彼女にはとうに失われていたものだ。ずっと一人でネットの世界だけで生きてきた。
この世界でも結局は一人だった。佐伯の様に心の底から誰かを信じられるそんな存在がいれば、自分はこんな風にならなかったのではないか。こんな心の底から誰かを信用、信頼できる佐伯が、とても羨ましいと感じてしまう。
『皆さん聞いてください――』
「流川さん!!」
流川の念話が各プレイヤーに届いた―――
―51話了
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御堂君頑張ってますが勝率は0%の模様です。
ここからどうなるか・・・どうしましょうね??(汗
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