第49話 残り時間数分なのに長く感じるのは話の都合
今日も閲覧ありがとうございます。
ミッション終盤、果たしてどうなるでしょうか。
防衛対象は生き延びられるのか。現在の時点で考えてません、どうしましょうね。
ラスト前の数分を引き延ばす小説や漫画アニメ特有のあれです。
短いですがご容赦を。
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壊れた盾を入れ替えているプレイヤーが少し頭を抱えていた、主力級の盾が完全に壊れてしまい、防御力が弱まってしまったのだ。サブの盾はいくつかあるが、雑魚相手なら兎も角、次のモンスターがまたドラゴンだった場合、耐えきれないと感じている。
彼のソウルギア【アトリビュート】は小さなキューブ型タイプで、その効果は一定の物質を【強化】【強固】【緩和】【修復】等の性質を与える特殊な物だ。
分かりやすく言えば、防具を更に強化すると言う物。
普段彼自身が使っているように、盾等に付与すれば超重量級の盾であろうともお鍋の蓋を持っている程の重量しか感じなくなり、更に銃弾だろうが何だろうが全て無効化する防御性能も獲得できる。たとえある程度破壊されても修復もするというとんでも効果が付与される。
残念な事に武器に付与しても壊れにくくなるだけで攻撃力や切れ味などは何も変わらない為、主な使い方は全身の防具を強化し盾を強化してのタンク役。
周りに攻撃を任せて自分が攻撃を受け止めるのが彼の役目だ。
その為に盾を用いる事で周辺に結界を張るSレアスキル【城塞防御】もセットしてある。しかしこのスキルは【盾の防御性能】が結界に密接に関係してくる。故に彼が所持している中で最強の盾を用いていたのだが、流石に攻撃を受け続けた事で修復が間に合わずに完全に損壊してしまった。
こうなってしまえば流石に修復効果も役に立たない。1000ポイントで購入した上位の盾だったのも痛い。残りポイントでは同じ盾を購入出来ないのだ。
「300ポイントの予備の盾を使うしかないな」
取り出したのは巨大な大楯。完全に防御力だけを求めた結果、100キロを軽く超える重量と取り回しにくい分厚さが特徴の盾だ。これでも1000ポイントの盾より防御力は低いが、それでもその次位には高い防御力を誇る。
「だ、大丈夫か?」
「ん? あぁ。結構痛いがお前達が生きてたなら十分役に立ってくれたよ」
元々攻撃するよりは誰かを護る方が性分に合っている彼は、目の前で心配してくれているハルペー達を護れた事を誇りに思っている。
「私は【アトリ】お前さんは?」
「ハルペーだ。第3ウェーブでは本当に助かったよ」
「お互い様だ。私は攻撃力がほぼないからな、お前の様な高火力が居てくれて助かる」
全身を重厚な防具で身を固めている為、中身が見えないのでどういう表情をしているのか見えないアトリだが、見せる態度で分かりやすく思いを伝えている。
「にしてもよく見なくてもそれ、重くないのか?」
「全身で数百キロはあるな」
「なんで潰れねぇの?」
「そういうソウルギアだからな」
「色んなソウルギアがあるんだなぁ。俺なんてこれだぜ?」
そう言って自分のソウルギアであるハルペーを見せる。
彼のソウルギアはごてごてした装飾などなく、シンプルな持ち手と大きく彎曲し剣としてはとても扱いにくい武器だ。御堂辺りがこれを持ったらまともに扱えないだろう、ハルペーは湾曲した刃を相手に引っ掛けて力任せに引き斬るという鎌に似たような攻撃方法なので普通の武器として扱うのはとても難しい。
だがそれでも魂の武器ソウルギアである以上、ハルペー自身はこれを完璧に扱う事が出来る。どう使えば相手を断ち切れるか、攻撃時に魔力の刃をどうやって放つか、投げつけてブーメランの様に扱う事だって可能だ。
だが、やはり―
「地味なんだよなぁ」
「下手に装飾が派手過ぎても使いにくいだろうさ、それはそういう武器だからこそ単純に使え、そして強いのだと思うぞ?」
「・・・そうだな、そうだよな。悪いなこんな時に愚痴っちまってよ。あんたなんて主力の盾が壊れたって言うのに」
「予備を用意できなかった此方の落ち度だ。気にしなくていい。だが先ほどの様な防御力は期待しないでくれ。ドラゴン相手なら紙より脆い」
「俺もまだまだ弱いんだよな、だからそっちもやばくなったら俺よりあっちの強い奴らを護ってやってくれ」
ハルペーも死にたくはない。死にたくはないが、自分を護るよりはジェミニや主力のソウルギア達を護ってもらった方が、まだ生き残る可能性があると考える。
強く握りしめている自分のソウルギアを見つめた。
シンプルな武器。だがこれが自分の魂の片割れだ。
レベルが3になれば、少しでも彼等の様に強くなれるのか。ジェミニみたいな圧倒的な戦闘力。御堂の様な多種多様なソウルギア達と本人の戦闘力。目の前のアトリの様な圧倒的な防御力、いぶし銀的な活躍をしている羅漢とそれを護っているガーディアン。
自分にはないキラキラしたものが見えた。
欲しいものをほしいままにポイントを消費して手に入れてきた。だからいまだにレベル2だ。簡単なミッションに参加して、危ないミッションは逃げ回ったりこそこそしていた。今回のミッションも防衛対象が来ないかすぐ死んで終わる事を期待していたのもある。
初めて、彼等を見て初めて、自分も強くなりたいと彼は思ったのだった。
「今回のこれをクリアすれば6000か、次のレベルの為に、最低限しか使わないようにしないとな」
「それが良い。レベル2とレベル3では戦力が大きく変わる。此方もレベル3を目指さなくてはな」
最後のウェーブ開始まで残り3分を切っていた。
※
目の前にはスピネルと佐伯、そして流川。
その横にはサイレーンとショコラ、そしてテルクシノエー。
それらに守られながらリバティは想いを馳せる。
これに生き残った後の事だ。この残りの小休止で漸く少しだけ頭が回ってきた。先ほどまでは帰ったらゲームをやろう、アニメを見よう、スレに報告をしよう程度しか考えていなかったが、実際にこれで助かった場合、この次はどうするかだ。
もうミッションに参加しないのは無理だ。
また自分が防衛ミッションの対象になった時、流川達が来てくれる保障など何もない。と言う事は二度と引き籠るという真似は出来ないのだ。
ならばこの後もミッションに参加し続けなければいけないが、彼女のソウルギアは自身に僅かなバフと機械へ強力な支援効果のみ。
レベルは3だが、彼女自身は戦闘力もほとんどないので雑魚相手にも勝てるか分からない、寧ろ複数体に襲われたら死ぬのは確定だ。あの熊型モンスターなんて下手すれば襲ってくるその姿だけで尊厳が漏れそうだった。
おむつを持ってくればよかったかなんて本気で思う位には自分自身が戦えるなんて微塵も考えていない。
ならばどうするか。
自分一人では戦えない、かと言ってガチヒキニート兼対人恐怖症を相当に拗らせたリバティに何が出来るか。
『と、取り入らなくちゃ。ジェミニか、あそこの怖い鎧マンのどっかに・・・!』
生き残る為に誰かに綴る事を考え始める。
その為の対象はこの中ではやはり目立つあの二人だろう。
スレでも有名人であり、この中で最強のプレイヤーである流川。人当たりも良く、リバティに対してもスキルの使用強制は怖かったが、それ以外では要所要所で護ってくれたり、色々カバーしてくれたりして優しい男性だ。
イケおじと言うのは正に流川の為にあるような言葉だろう。
彼に取り入る事が出来れば、少なくとも今回のシーズンは完璧に生き残れる可能性が高い。問題はどうやって取り入るかだ。
金では流川は動かないだろう。寧ろジェミニの二人にブチ切れられて殺される可能性すらある。となれば身体だろうか。一応彼女はそれなり以上には見た目は良い。レベルが上がっているお陰か、若さも10代後半から20代前半を維持しているし、ちゃんと化粧すれば7~9割は彼女を美人と認識するだろう。
しかしその程度で彼が動いてくれるだろうかと冷静な部分が思い直す。ジェミニの片割れの少女、ポルクスは10代前半の少女にしか見えないが、それでも異性のソウルギアだ。それにどう見ても流川を溺愛しているのが見てわかる。
少年の方も子供らしく父親の様な彼を慕っている姿があるので、リバティの様な何もない彼女では門前払いされればいい方だろうか。
情に訴え帰る手段は多分通じないだろう。
『と、となれば・・・あぅぅぅ』
情に訴えれば何とかなりそうなのは、寧ろあそこでハーレムを形成しているダークヒーロー然とした姿に変身している御堂の方だろう。
女性の魅力は周りにいる彼女達の誰一人を相手にしても勝てる気がしない。サイレーンの不思議な雰囲気を感じる美貌もそうだが、絶対やばいのはテルクシノエーだ。女性である自分が少し見ているだけでもドキドキが止まらなくなるほどに彼女は美しい。
美の女神と言うのが居れば彼女だろうと言ってもいい位に魅了されそうになるほどの美しさだ。自分とは比べ物にならない所か、そう思う事すら烏滸がましさを感じる。
ミューズの二人も今時のギャルっぽい感じをしつつもその魅力はサイレーンに勝るとも劣らない。つまり魅力云々では勝負にすらならない。
お金についても無理だろう。話を聞いたり様子を見ている限り御堂は流川と深い仲に見える。腐女子特有の掛け算を思わず発動しかけるが流石に自重した。
『こ、怖い人だけど、あのジェミニが親友って言ってる人だし、見た目以外はまともだったし、ここは情に訴えかければ・・・!』
探せば助けてくれそうなプレイヤーはそこに沢山いるのだが、そこはどうしても強い存在などに助けてもらいたいと感じてしまうものだ。
羅漢辺りならば助けを求めれば確実に助けてくれるだろうが、リバティの中に羅漢は記憶にも残っていない、地味過ぎるので意識外の存在だった。バンカーは取り入りやすそうだが子供だし正直頼りないので除外、アクセルはもう色々と怖いので近づくのも無理だ。
ハルペー含む残っている複数人のプレイヤーに至っては此方を見ている目が白いのを感じているので無理だとは分かっている。自分に対してそのような瞳を向けておらず、確実に強いのが流川と御堂の二人だったのだ。
だからこそ彼等に助けを求めて保護してもらわなくてはと思考を巡らせる。あと数分で最後のミッションが始まってしまうのに、そこに注視する余力はなかった。
ちらちらと流川と御堂の方を見ているその姿は流石に流川も他のプレイヤーもサイレーン達も気づいている。気づいてないのは御堂とハルペー位だろうか。直ぐ近くにいるので流石に佐伯も気づいているし、スピネルに至っては目が白いを通り越して絶対零度になっている。友情はもう紡げそうにないだろう、流川がとりなしでもしなければ。
彼女が生き残る為にあれやこれや考えている間に、ソウルギアアプリの方ではタイムカウントが始まっていた。
最終ウェーブ開始まで、あと60秒――――
―49話了
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計算高く生き延びる術を探すも、生来のコミュ障と対人恐怖症のせいで
全く何もできないリバティさん。そして露骨に死亡フラグ建ててるハルペー君と
アトリさん。彼等は生き残る事が出来るんでしょうか?
その辺は明日のあさねこが多分考えるので、今日はこれでいいです。
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