第48話 理不尽だけど、残念ながら当然。

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ミッションもそろそろ終盤、このまま無事で居られるでしょうか。

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 発光が収まると御堂の姿が著しく変化していた。


 佐伯の様なメタルヒーローにも見える漆黒のフルアーマー姿。両手には籠手が変化した深紅の手甲剣が黒いオーラを放ち続けている。マスクのバイザー部分からまるで泣いている様な黒い縦筋が伸びている。お世辞にもヒーローとは言えない姿だ。


 頭部と両肩をだらんと下げ、止まっているかのように動かない御堂を心配したクレアが近づいた瞬間、御堂はフルフェイスヘルムの中から雄たけびを上げた。


「がああああああああああああああああああああああああ!!」


 瞬間、御堂の姿が見えなくなった。


 同時に聞こえてくるモンスター達の絶叫と衝撃音。全員が驚いて振り向くとそこには羅刹が居た。


 大熊型のモンスター達が消し飛んでいく。


 御堂が両手の手甲剣を無造作に振るいながらモンスターに向かって突撃していた。障害にすらならないとばかりに御堂が手甲剣を振るう度に蹴散らされていく。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 


 切り裂き、薙ぎ払い、打ち払い、叩き潰し、ねじり切る。


 あらゆる方法を持って草の根をかき分けるようにモンスター達を皆殺しにしている。その殲滅速度はジェミニの二人に迫るものがあるほどだ。


 それを脅威と感じたのか御堂に向かってモンスター達が雪崩れ込んでいくが、何も変わらない。寧ろただモンスター達の死体が山の様に増えるだけだ。


 雄たけびしか上げないその姿はどうみても正気ではなかった。


「まーちゃん!? どうしたのまーちゃん!? だめだって! あぶない!」


「ごしゅ!? 戻ってこいって!」


 ミューズ達が追いかけるが、周囲のモンスターが多すぎて思うように近づけない。


 暴走している御堂にその言葉は届かない。


 サイレーンとテルクシノエーも同じく叫びかけたが、今サイレーンが歌を止めればモンスターが更に流れ込んでしまう。どれだけ歯がゆくても止める訳にはいかず、拳を血が滲むほどに握りしめ、歌い続けている。


 テルクシノエーの方も支援が精いっぱいで動く事が出来ない。


 その間も御堂はモンスターを蹴散らしコアの部分まで走り続けていく。コアを護るかのように更にモンスターが現れるが、それに向かって御堂は手甲剣を水平に保ちすさまじい勢いで回転し始めた。


 独楽の様に回転して突撃する御堂、巻き込まれたモンスター達は全てミキサーに掛けられた様に抉り殺されていく。その勢いのままに大量にコアが浮かんでいるまで突き進むと、そのままモンスターごとコアを破壊していった。


「なにあれ・・・」


 遠くで見ていたスピネルがドン引きしている。


 血の色の全身鎧の何かが独楽の様に回転しながらコアを破壊しているのだ。恐怖以外の何物でもないだろう。彼女の元にもミューズ達の叫び声は聞こえてきているので、あれは恐らくジェミニ様の友人の御堂という男だろうと確信はしたが、余りにも予想の斜め上の行動をやらかしている。


「・・・スキルの暴走。【一品物】引いた?」


 彼女は知っている。


 一部特殊なSSレアスキルはガチャでしか出てこない【一品物】が存在する。


 それらのスキルは通常でも強力なSSスキルを同レベル帯でありながら遥かに凌駕し、Lレアスキルに匹敵する可能性もあると言う代物ばかりだ。


 強力無比でありながら制限も少ないものが多く、とても使いやすい大当たりスキルに属されるものではあるが、一部、専用掲示板でこのような噂の書き込みもある。



―【一品物】には意識が宿っている。


―【一品物】のSSスキルはその昔、違うプレイヤーが使っていた特殊スキル。


―死んだプレイヤーのソウルギアがスキルそのものになった。


―それは異世界の誰かのスキルではないか?


 憶測でしかない信憑性に乏しいものばかりだが、彼女はその中でそれらが真実である可能性が高い書き込みを見つけたのだ。他のスレ民は馬鹿にして信用すらしていなかったが。


―SSスキルの一品物を使う時は注意しろ。意識が一瞬乗っ取られる。


―それはディザスターからの干渉なのか、噂通りだれか他のプレイヤーの記憶なのかわからないが、俺は確かに一瞬乗っ取られた。


―何もない空間に誰かが居て、ずっと【憎い】って呟いててさ、怖くて逃げたらいつの間にか目が覚めてた。


―俺の手に入れた一品物は【憎しみの搾取】ってスキルだ。


―効果は「憎い相手に対し、スキルやステータスを一時的に簒奪できる」って奴。


―相手を憎めばいつでも使えて、相手のスキルやステを奪って有利になれるんだが、


―使うほどに頭がおかしくなってる気がする。


―みんな、一品物には気を付けろ。


 彼はスレに色々書き込んだ。


 誰も信じていなかったが、彼女はそう言うのが大好きだったので信じたかったのでその全てを見続けた。


 始めに使うと高確率で暴走するとの事も、それには書いてあった。


「・・・あの鎧が一品物・・・暴走してるとなれば」 


「なんだよありゃあ・・・おっさんだよな・・?」


 周辺に居たモンスター達の数が極端に減っている為、各自かなりの余裕が出来ている。何故ならそのモンスターは御堂に向かっているのだから。


 襲ってくる全てを蹴散らし続けているので何の問題にもならない様に見えるが、暴走が収まるか、御堂自身の体力が尽き果てればそれで終わりだ。


 余裕が出来たジェミニの二人が援護に回り始めている為、安全は確保出来ているだろうが、ここからでは暴走している御堂を見る事しか出来ない。


「スキルの暴走。沈静化させれば止まるはず」


「む、ならば私の出番だな」


 スピネルの言葉に反応する羅漢。


 彼の持つスキルは回復や治療系のスキル、防御系が多く揃っている。その中には沈静化の魔法もちゃんと入っていた。


 本来であるならばテルクシノエーのパッシブ強化効果で精神的な状態異常は無効化される筈なのだが、それを貫通して御堂は暴走している。これ以上暴れ続ければ体力以前に中身が持たないだろう。


「問題はあそこにどうやって行くか、だが」


「流石にあれにつっこむのはねぇ」


「ならば、そこまでは僕が何とかしましょう」


 ガーディアンも流石に無理だと言うが、代わりに流川が同行を申し出た。


「ジェミニ、殿」


「普通に呼んで下さっても構いませんよ。道中のモンスターは僕が何とかします、ですので」


 躊躇いがちに言葉を紡ぐ羅漢。


 それを気にせずに、今も尚暴走し暴れている御堂を流川は見つめながら答えた。


「彼にあとで説教しなくてはいけません、ソウルギアの彼女達もたくさん言いたい事もあるでしょうしね。付いてきてくれますか?」


「無論。だが、あまり怒らないでやってくれ。暴走かもしれんが、お陰でこのウェーブも何とか乗り切れそうなのだから」


「そうですね、結果論ではありますが」


 くすりと笑う流川。

 

 それを間近で見ていたスピネルが喜びの嵐で脳内が大変な事になっているが、それはどうでもいいとして、二人は御堂を救いに向かい走り出した―――






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「はっ!? レアチーズケーキに生まれ変わったら動けねぇじゃん!?」 


 よくわからない叫び声を上げて御堂が飛び起きた。


「マスタぁああああああ!」 


「ごふっ!?」


 が、同時にサイレーンに抱きつかれ地面に叩きつけられる。


 あの何もない空間で叫び続け走る事暫く、何をやっても戻れないので諦めて寝てしまったのだが、気が付けばこうやって現実世界に戻ってきていた。現実逃避とも言う。

 

 少しばかりぼうっとしていた御堂だがサイレーンを抱きしめたままがばりと起き上がる、今が戦闘中なのを思い出したのだ。


「あっ・・・♪」


「やばい!? 俺どれくらい気絶してた!? 直ぐに戦闘に―」


「第3ウェーブは先ほど終わりましたよ」


「え?? るか・・・・ヒェッ!?」


 声のした方を振り向いた瞬間、全身の血の気が引く御堂。そこにはいつも通りの笑顔に見えるが、凄まじい圧を感じる流川が立っていた。


 よくよく見れば周りのはテルクシノエーやミューズ達、他のプレイヤー達も次の準備などを整えている最中だ。たらりと汗が流れるのを感じる。


「も、もしかして俺、気絶して役に立たなかった・・・とか?」


「それだけだったら僕も仕方ないと言えるのですけどね」


「ごしゅ、大丈夫? どこもおかしくない?」


「うぅ、まーちゃぁぁぁん」


 サイレーンに真正面から抱きつかれつつ、ショコラとクレアが両面から腕を抱きしめている。テルクシノエーは何もしていないが、泣いていたのだろうか、目を赤くはれ散らかしていた。


「暴走していたのだよ、君は」


「あ、あんた・・・」


「あぁ、忙しい所悪いね。私は羅漢。君の暴走を回復させた者だよ」


「は? 暴走・・・??」


「あぁ、君はどうやらそのスキルを発動させた時にスキルを持て余して暴走してしまったようでね。ジェミニ殿のソウルギアレベルで周辺に暴威を巻き散らしてたよ」


「お、俺が・・・って!?」


 今更気が付いたが、自分の姿が変わって居る事に気づく。


 それはあの空間で見た、痛い・・・ではなく、中二・・・でもない、血の色の騎士姿だった。因みに暴走時に腕についていた手甲剣は今は消えている。


 スキル【トランスブースト】によって変身した御堂がそこにいた。


「僕も迂闊でした、こうなる可能性を考えて模擬戦闘の時に使ってもらっていれば。なので今回は強くしかる事は出来ませんが、このミッションの後は覚悟しておいてくださいね? 彼女達も、僕も心配してましたから」


「わ、悪い・・・」


 御堂にとってはよくわからない理由で怒られていたが、暴走したのは事実なので終わった後に彼等に絞られる事にする。


 彼自身は不思議な空間で元の世界に帰れないからと騒ぎまくっていた記憶しかないのだが。


「てか、第3ウェーブが終わったって事は、まだあるのか」


「ぐすっ。はい、そして次がラストになるそうです。アプリに表示されていました」


「マジか! なんとか無事に終われそうだな」


 テルクシノエーから朗報を聞き喜ぶ御堂。


 次の襲撃さえ生き残る事が出来て、防衛対象を護る事が出来ればミッションクリアだ。ポイントを6000も貰えるし、一応は人助けも出来るのは嬉しい事だ。


「所で、その防衛対象さんはどうしてる?」 


「・・・・あそこで生まれたての小鹿になってる」


 御堂の言葉にスピネルが指差すとそこには流川の指示で機械系のソウルギアや武器防具を使っているプレイヤー全てに【マシン・ザ・リバティ】を発動させ続け、肉体的にも精神的もグロッキーになって倒れ込んでいる彼女が居た。


「あばばばばばばば」 


「なぁ流川。俺より致命傷に見えるんだが??」


「致命傷ならまだ生きてますから大丈夫ですよ」


「お前時々酷いよな」


「ジェミニさ、んは普通に指示しただけ。メンタルよわよわなあれが悪い」


 ふんすとスピネルが流川を擁護する。


 事実、別に詰め寄って強制させて訳ではないので、脅してはいないのは確かだ。強制自体はさせているが。一応佐伯が慰めているが、それが逆に対人が苦手な彼女にとってダメージになっていたりする。


 そんなリバティだが、吐きそうでふらふらな状態ではあるが、次のウェーブを生き延びる事が出来れば、ミッションはクリアできる。ポイントは一切貰えないがそれでも生き残る事が出来るのだ。


 少しだけほんの少しだけ未来が見えてきた、そんな気がしていた。


 ジェミニが来てくれたおかげなのだろう。最初から最後まで彼が尽力してくれたお陰で死者もほぼ居ないし、自分も生き残っている。


 ソウルギアの発動強制は結構辛かったが、生き残る為には仕方のない事だと彼女自身も理解しているので久しぶりに全力で【マシン・ザ・リバティ】を発動させた。これで後3時間は問題なく強化されるだろう。


 特に銃器を得意とするポルクスの強化が驚異的だ。


 銃も「機械」として認識させる事できるので彼女にとってリバティの付与はかなりの恩恵がある。一応メタルヒーローなソウルギアの佐伯も何故か機械判定を受けたので戦闘力が大きく上昇していた。


 御堂の騎士鎧姿は佐伯に似てはいるがダメらしい。と言うか変身前も変身後も怖いので出来る限り近づきたくないと思っていたりする。

 

『次、次頑張れば、また明日からアニメ見れる、ゲーム出来る。生き残って自由を謳歌できる・・・その後のミッションも怖いけど何とか参加して生き残れば・・・』 


 恐怖と吐き気を抑える為に生き残った後の楽しみを思い出しながら呼吸を整えるリバティの姿を残りのプレイヤー達は「こいつほんとに大丈夫か?」的な表情で見ていた。


「次のウェーブはいつ始まるんだ?」


「後10分という所ですね。恐らく今まで以上の激戦になるでしょう」


「だろうな。そのために切り札切ったんだし、次は俺もちゃんと戦うぞ」


 暴走していた記憶はないが、この鎧の使い方はなぜか理解できる。それがスキルの効果なのか、それともあの影からの手助けのお陰なのかはわからないが。


 両腕から自由に生み出すことが出来る手甲剣。見た目的にはカタールやジャマダハルの様なタイプの武器だろうか。斬るというよりは突く事を得意とする武器種だろう。御堂にしてみれば使いづらいショートソードを使うよりは、殴りの延長線で斬撃を行えるこの武器はとても使いやすい。


 どうやら刃先念じれはある程度自由に動かせるらしく、真っすぐに刃を伸ばしたり拳の部分から真横に曲げて殴ると同時に切り裂くというトリッキーな使い方も出来そうだ。問題は御堂がそんな戦い方が出来るかだが。


「あー、こほん。まーちゃん?」


「ん? どうしたショコラ。悪いな心配かけちまってよ」


「それはそれで後で怒るからいいけどね。あのさ、いつまで抱きしめてんの?」


「は?」


 ショコラに指摘され今初めて自分がサイレーンをずっと抱きしめたままな事に気づいた。既にサイレーンは幸せに絶頂で天に召されている。鎧越しとはいえ愛するマスターである御堂にずっと抱きしめられたままと言うのは幸せが過ぎた。


 よく見ればテルクシノエーは羨ましそうに見つめ、クレアはちょっと青筋立てているのが見える。直ぐにサイレーンを開放する御堂。


「ち、違う! これはだな!?」


「テルクシノエーの姐さん。これは終わったらあーしらもやってもらうしかないね」


「えっ!? そ、それは・・・」


 まんざらでもなさそうなテルクシノエーの姐さん。


 そんなイチャラブを見ていた周りのプレイヤーの皆さんの心はその時、リバティを含めて一つになった。


【もげろ、もげくされ】 


 アクセルやバンカーに至るまで、そんなお気持ちでいっぱいだった。


 ハルペーに至っては血の涙を流しそうな勢いだ。リバティに至っては生まれてこの方彼氏なんて出来た事も無いので恨み嫉み骨髄である、とは言っても現実では何かする勇気がないので心の中で藁人形にくぎ打つ程度しか出来ないが。


 流川とスピネルだけが、そんな彼等を呆れた様子で見つめている。


 最後の戦い迄の間の緩い時間が続いていた。



―48話了



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はた目には4人の美女に縋りつかれている状態ですからね。仕方ないですね

やはり皆さんケーキが足りないんですよ。ケーキを食べればきっと落ち着くと思います。けーきたべたい。

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