第10話 武器を持つと強くなれた気になる不思議

あさねこも木の棒を持つとなんとなく強くなって気がします。

ガリガリ君の当たり棒を持てばきっと無敵ですね。

何時も皆さん閲覧ありがとうございます。少しでも楽しんでもらえたら

とても嬉しいです。

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 剣を使ってみた。


 ろくに使えなかった。


 槍を使ってみた。

 

 まともに使えなかった。


 斧を使ってみた。


 上二つよりはある程度使えたが、当てる事さえ出来なかった。

 

 鈍器を使ってみた。


 寧ろ一番使いやすいまであったが、これなら素手の方が当てやすいと感じた。


 弓も使ってみた。


 真上に飛んで誰もが俺を白い目で見ていた。


 とまぁ、夕方日が暮れるまで色んな武器を使ってみたんだが、どれもこれも初めて使うもの、全然活かす事が出来なかった。一番ちゃんと使えたのが鈍器っていうか、ほぼこん棒だったのがお察しだ。


「あー、こりゃ素直に殴った方が良いのかもな」


「装備型のソウルギアだったら話は別だったんですけどね」


「そうなのか?」


 装備型、特に武器タイプのソウルギアには基本的に所持者にその武器に関する技術を付与してくれるらしい。


 今まで剣も振った事のない子供が剣のソウルギアを使う場合に限り達人など簡単に超える技量を得られるとかなんとか。


 そりゃ確かに強いだろうな。初めから武器を選ぶ必要はないし簡単に達人になれるならこんな訓練も必要はなさそうだ。典型的なチートって奴だろうか。


「素の状態では武器に慣れる所から始まりそうですね。時間もそこまである訳ではないですし、そろそろ強化を受けて鍛錬をしてみましょう」


「了解。サイレーン、そろそろ大丈夫かー?」


「あぅあー」


 ブルーシートで永遠に転がり続けてたサイレーンが手を上げて肯定する。


 ジェミニの少年の方に扱かれていたようだが、彼が言うにはサイレーンには驚くほど戦闘の才能がないらしい。本気で完全な純支援なんだな。下手すりゃ一般人にも負けるかもと、汗を垂らしながら言っていた。ソウルギアって基本的に人間の何倍も強いんじゃなかったのか?


「ここまでバフに振り切ってるソウルギアも早々居ないでしょうね」


「私的にはパパの回復とか出来るみたいだし大歓迎だけどね~。良い薬箱ゲット♪」


「何言ってんのさ、他人のソウルギアが無償で助けてくれる訳ないじゃん」


 マスター第一主義の意思を持つ人型ソウルギアが、マスター以外を助けるには報酬かちゃんとした理由がない限りは、そんなことありえないと言う。


 サイレーン自身も、他人なんてどうでもいいと言い放っていたからなぁ、こりゃ愛が重いって話じゃすまんな。浮気とかしたら殺されるんじゃねぇかな??


「銃を超至近距離で撃って全部避けられた瞬間に「あ、だめだこりゃ」ってなりますた。うぅ、今日帰ったら慰めてマスター」


 およよと涙目になりながらこれでもかといわんばかりにあざとくすり寄ってくるサイレーン。


 なんだよこれは、幸せかよ。全力で慰めるわ、これで慰めない男が居たら俺はそいつを男と認めねぇわ。


「こほん。そう言うのは終わってから家で沢山やってください」


「うぉっ!? わ、悪い」


「あ、あはは。えと、マスターにスキルを使えばいいのかな?」


「おう、バシっと頼む」


「ん、任せて。私のマスターに勝利の力を!! ―――――――!!」


 サイレーンが両手を胸の前で組み、高らかに声を上げる。


 ―ドクンッ


 同時に全身を全能感が覆う。


 まるで出来ない事がなくなったかのような、圧倒的な力。


 先ほどまでの疲れなどが一瞬で吹き飛び、自分でもわかるほど力や体力などが上昇していくのが分かる。


 これを掛けてもらうのは今回で2回目だが、油断すると慢心してしまいそうな程の力が沸き上がっていた。


 それだけではない。先ほどまで感じていた精神的な圧迫感なども全部吹き飛んだ。


 サイレーンのスキル【ブレイブシャウト】はステータスの強化の他に精神力の強化や苦痛耐性に加えて自然治癒力も上がるっていうとんでも仕様だ。


 もしかしたら今の俺ならば、さっきのジェミニの殺気をまともに受けても耐えきれるかもしれない。


「へぇ。今のおにーさんならちょっとは頑張れそうかなぁ」


 余裕の笑みを崩さない彼女。


 実際余裕なのだろうな、俺もバフを貰った程度で何とかなるなんて思っていない。


 もしかしたら先ほどの殺気を耐えきれるかもしれないな、程度は考えているが。


「ふむ、かなりの強化効果ですね、これなら小物のモンスターなら普通に倒せると思います」


「そうか?」


「えぇ。相手も無理難題を最初からは持ってきませんよ。ディザスター自身が楽しみたいのですから、開幕ムリゲーで全員全滅なんてやってきません。まぁそういうふざけたミッションもありますけどね」


「うっし! 改めて頼むぜジェミニの嬢ちゃん!」



 まず最初に手に取ったのはバトルアックス。


 先ほどまではそれなりに重かったが、今は片手で軽く振り回せるほどに軽い。これなら先ほどは出来なかった動きも出来る筈だ。


 この強化状態ならどんな武器なら上手く扱えるか試していかないとな。





◇◆◇◆◇◆◇◆





―【視点】サイレーン


 マスターがジェミニに凄い速さで斧を振り下ろす。


 ここからでも聞こえる程の轟音。


 あれに当たったら流石に死んでしまうかも。でも彼女はそんな一撃を軽く受け流してしまう。それも受け流しに使ったのって、小さな拳銃だった。


 あんなおもちゃみたいな銃でマスターの斧の一撃を簡単に捌いてしまう。


 そこから始まる連続攻撃。


 強化された身体をフルに使って斧を叩き降ろし、薙ぎ払い、振り上げていく。


 そのどれもが当たれば必殺の一撃なのに、そのどれもが当たらない。躱され、避けられ、受け流されていく。


「あー、くそっ! やっぱり当たらねぇのかよ!」


「ふふっ♪ でもさっきよりは十分速いよおにーさん。これならミッション序盤の雑魚なら簡単かなぁ~」


「そりゃありがとうよ!!」


 息を切らしながら攻撃の手を止めないマスターに、余裕綽々と言った感じの笑顔を見せる彼女が分かっていても憎たらしい。


 レベルの差があるのは分かる、でもここまで手玉に取られるのがとても悔しい。私が戦えたら、マスターがこんな苦労をしなくて済んだのに。


 どうして私は支援系なんてソウルギアとして誕生してしまったんだろう。


 私にとってマスターは全て。


 こうやって生み出された瞬間、私は最高の出会いをした。


 ―あぁ、私はこの人の傍に居られるんだ。そう思うだけで身体が喜びに震えた。


 マスターは優しくて、私を好きになってくれた。


 私はマスターが大好きで、そんなマスターでとても嬉しい。


 でも、嫌われてもきっと・・・道具扱いされても、きっと私は嬉しいと思う。


 ディザスターとかミッションとかはよく分からない。


 私が持っている知識はマスターと大体同程度、持っている記憶は生まれたその瞬間から。


 だから何も知らない私にマスターはがっかりしないかなって怖かった。


 更には自分で戦えないソウルギア。本当にソウルギアとして出来損ないなのが悔しい。


 今も必死に鍛錬を続けているマスターを観ながら私はぎゅっと拳を強く握る。


「今度はこいつだっ!」


「ひょいっと♪ がーんばれがーんばれ♪」


「気の抜ける応援やめてくれない!? 投擲もあっさり避けるしさぁ!?」


 マスターが持っていた斧を投擲した―!


 アレは直撃コースと思ったのに、それも簡単に避けてしまう。


 でもその間にマスターが次の武器として剣を持って突撃した。


 そのままジェミニの後ろに回り込んで剣を薙ぎ払う、あれならきっと――


「っ!?」


 思わず息を呑んだ。


 マスターも驚いて止まっている。


 マスターの一撃は――――


「嘘だろ。剣の方が・・・折れるのかよ」


「ちょっと油断しちゃったかぁ、おめでとうおにーさん。初ヒットだね」


 命中した剣の一撃は彼女の胴体を断ち切る所か、剣の方がぽっきりと折れていた。


 これがレベルの差。


 今の私達じゃどれだけ戦えたとしても、あの二人には絶対に勝てないって事なんだ。


「おにーさんのレベルが3位まで上がってたら、その武器でも私を吹き飛ばせたかなぁ。今のレベルとステータスだったら武器が余裕で負けちゃうの」


 からからと笑いながら言うジェミニ。


 私もレベルが上がれば、マスターを護れるようになるのかな。


 男の方のジェミニが相手をしてくれて、一生懸命頑張ったけど、何もできなかった。


 全部避けられるし、いっそ殴りに行こうって殴りに行ったらずっこけたし。結局私じゃ戦闘の役に立てない。


 こんな情けないソウルギア・・・本当はマスターも呆れてるんじゃないかって、考えるだけで怖い。


 もし見捨てられたら、私は―――


「それはないと思うなぁ」


「っ!? ジェ、ジェミニ?」


 いつの間にか男性の方のジェミニが私の横にいた。


 基本無表情な男の方だけど、それが私を笑っているように見えた。


「僕達はマスターに望まれたからここにいる。マスターが願ったからここにいるんだ。そんな軽い気持ちで捨てるようなら僕達は出てきてない。それとも君のマスターはその程度の人間って事かい?」


「っ! 私のマスターを悪く言わないで・・・!」


 この一週間の間、マスターは色々私に良くしてくれた。


 色々な事も教えてくれたし、一緒にご飯を食べたり、一緒に寝たりした。


 一緒にお風呂は断固として断られたけど。


 でも、あの1日1日がとても楽しくて幸せで、マスターも日々に彩があって嬉しいって言ってくれた。私の事を彩りがあるって言ってくれた。


 そんなマスターをそんな風に言ってほしく―――


「あ・・・」


 違う、そうか・・・

 

 私がそう無意識に考えてしまったんだ。


 いつかマスターが私を捨てるかもしれないなんて、そんな事を―それこそマスターに対する侮辱に他ならないのに。


「異性タイプってのはほんと厄介だね。自分の心も上手く扱えなさそうだ。僕はマスターと同性でよかったなぁ。更に言えば最高のマスターだし、息子みたいに可愛がってくれるしね。時々厳しいけど」


 そう言いながらジェミニは今もマスターと鍛錬を続けているもう一人のジェミニを見ている。


「そう、なんだ」


「まぁね。それに君のマスターは当たりだと思うよ? なんせ君が戦えないからって腐る事無く自分で戦うとか言っちゃうほどだ。僕達のマスターが入れ込むのも少しは分かるかな。ま、これはマスターの友人だからっていうひいき目入ってるけど」


「だって、私のマスターだもん。きっと最高にかっこいいマスターになるよ。そして私はマスターにとっての最高のソウルギアになる。ゲームをクリアして、幸せの為に」


「そりゃ壮大な夢だ。大きな夢を持つのもいいけど、夢につぶされないようにね?」


「ご忠告どうも。きっと叶えてみせるよ。その時ついでにマスターの友達だから、貴方達のマスターも助けてあげる」


 今はまだ、弱くて何もできない私だけど。


 心だけは強く持って、マスターの為に頑張ろう。


 この先もずっと、マスターの傍に居たいから。


 マスター、私頑張るね。


 だから、一緒に頑張っていこ―――






―10話了

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