第9話 1話で強くなれるなら苦労はしない
だから2話で強くする大作戦(マテ
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格闘技などは出来ない。
という事は我武者羅になって殴る蹴るしか出来ないという事なのだが、やはりというか何一つヒットしない。
ちなみにサイレーンの強化能力はまだ使ってはいない。まずは素の状態の俺で試す必要があるからだ。素とは言うが、これでも長い事土木作業員として働いてきた身。
喧嘩などはほとんどやった事は無いが、重いものを持ち運んだりなどは日常茶飯事だったので力にはそれなりに自信がある。伊達に見た目がいかついお兄さんとは呼ばれていない。
意識的に腰を捻った感じで蹴りを繰り出すも右手で軽く流された。
次は前蹴りを放つ。
漫画などでヤクザとかがよくやるあれだ。だが後ろにちょっと動かれるだけで避けられる。
思い切り蹴りをすかした所為でバランスを崩してたたらを踏んだ。
これが本気の戦闘中なら隙だらけで殺されてたかもしれん。直ぐに態勢を立て直して今度は隙の少なさそうなジャブを打ち込む。
しかし、今度はほんの数歩後ろに下がられるだけで当たらない。
駆け寄ってプロボクサーの様な1,2パンチを意識して立て続けに殴り掛かるが少女は笑みを浮かべたまま余裕の表情で全部避け切った。
そのまま1~2分ほど殴り続けるも、その全てが当たる事はなかった。
「はぁっ、はぁっ・・・!」
こっちの体力はどんどん尽きてきているのに相手は余裕しかない。
目の前の少女が自分以上の強大な存在である事を認識しているので遠慮なく顔面や胴体に攻撃を仕掛けるが、その全てが軽く避けられてしまう。
フェイントをかければと横から見ている奴等が居たら言うと思うがそのフェイントをかけられるだけの余裕も隙も無いし、そんな器用な真似ができるなら今頃俺は格闘家の道を歩んでいる。
とどのつまり――
「何一つ当たらねぇ・・・」
「おにーさん直接的過ぎるからねぇ~」
両手を上にあげ肩をすくめて笑う少女。
「あと単純に強化も何もないLv1の一般人相手だったら、そもそも相手にならないかな、と言うかプロ格闘家とかでも同じかも」
「ふぅ・・・はぁ・・・そうなのか? 流石にプロともなれば俺なんかよりはずっと強いと思うんだが」
「んー。おにーさんにも分かりやすく言えば。ダンゴムシが2センチくらい大きくなっても、所詮踏みつぶせば終わるよね?」
「俺とプロの差は2センチって事かい」
彼女にとっては素人もプロも雑魚には変わりないって事か。
というかダンゴムシって、そこまで言われるほどレベル1の俺達はソウルギアにとっては弱いんだろうな。
確かに「ソウルギアは人間なんか相手にならないほど強い」と言って――
「サイレーンって、普通の人間になら勝てるのか?」
「純支援だからどうかなぁ、でも流石に人間には負けないと思うかな? 心配ならレベル上げちゃえば安心よ?」
「少し指導しつつ休憩にしましょうか。二人とも飲み物持ってきましたよ」
「わーい♪ パパっ大好き!」
「ふぅ、悪いな」
貰ったペットボトルのスポーツドリンクを一瞬で飲み干す。あれだけ必死に動けば喉も渇く。
「まずは強化の無い状態で戦ってもらいましたがどうでした?」
「完敗だな、攻撃が当たる気がしねぇ」
「当然といえば当然でしょう。これでこの子のレベルが1ならもう少し可能性はあったかもしれませんが、レベル4ともなれば象と蟻みたいなものです」
流川の指導が始まる――
まずレベルはステータスなどが上がる他にゲームを攻略する上で必須な全体的な強化がされるらしい。レベル1とレベル2ではステータスに関係なくレベル2の方が圧倒的に有利という事だ。
例えとしてレベル1で人間のパワーが3あったとする。レベル2の人間のパワーが2だった場合。どちらが力負けするかと言うとパワー3のレベル1の方が力負けするそうだ。
これはレベルが関係していると言う。
ゲーム的に考えれば【ステータス×レベル=総合ステータス】みたいな感じなのだろう。
俺で言えば【パワー2×レベル1=2】って奴だ。
レベルが上がるだけでステータスが大きく強化されるのはいいな。
という事は流川はレベル4なので俺では何をどうあがいても勝てないって事だ。
そりゃPKも出てくるだろうな、レベルが高ければ負ける要素は大きく減るのだから。弱い相手を殺してポイントも何もかももらえるなら、性格が歪んでる奴は嬉々としてやるだろう。俺はやりたいとも思わんが。
あとレベルが上がれば【強度】みたいなものが上がる。
防御力とかそういうものらしい。今の俺なら銃弾の1発でも受けようものなら一撃で死亡するか大怪我だろう。
これがレベル2になるだけで低レベルから受ける銃弾ならそこまでのダメージにならないらしい。チートにも程があるな。
ガードのステータスが高ければ高いほどその軽減力は高くなり。レベル3でガードが5でもあれば、レベル1がミサイルぶっ放してきた所で「あ、痛い」で済むそうだ。
寧ろダメージにもならんらしい。どういうことだよ、ゲームだよマジで。
「てことは、銃とか使ってもレベルが低かったらダメージすら与えられない可能性があるのか」
「その通りです。なのでレベル上げは急務になりますね。ミッションでのモンスター討伐もやりやすくなりますし、ダメージも抑えられます。後はPKから狙われにくくもなりますからね」
「人間同士でも銃弾をはじいたりするとか、参加者って超人ばかりにならねぇか? 世間的にこれを利用したら――」
「ディザスターは【ゲーム】を楽しみたいのであって、その力で他の事で無双してもらいたいとは考えていないようです。実際にゲーム以外でこの力を利用しようとした人間は悉く死んでいます。日常で軽く無双する程度ならお目こぼしされるでしょうけどね。大っぴらにゲーム以外で使ってもいいのは、推奨しているプレイヤー同士のPK位でしょう」
「それを一番禁止してくれよ・・・」
ゲームのミッション以外は平穏とかだったら、俺もサイレーンも普段の生活をもう少し余裕を持って生きられるんだがな。
「楽しみたいだけの愉快犯、それもどこに居るかもわからない主催者に言っても仕方ないですよ。問い合わせフォームとかありますけどね」
「そんなのあるのかよ!? ある意味ユーザーフレンドリーなのか?」
「どうでしょうね、馬鹿にしてるだけな気もしますが。さて、続けます。低レベルで上位のモンスターや対PKから生き残る、もしくは撃破する方法は【スキル】などを用いて一時的にステータスなどを相手より上げて勝つ、罠に嵌めて倒すとかでしょうか」
「ステータスはサイレーンの強化バフがいいが、スキルは俺は持ってないんだよなぁ。おすすめなのはあるか?」
アプリのスキル購入欄には多種多様なスキルが売られていた。
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【生命力向上】
【瀕死時攻撃力上昇】
【防御力上昇】
【判断力強化】
等の所持するだけで効果がある、所謂【パッシヴ】系
【フルスイング】
【デスペラード】
【飛燕斬撃】
【極大防御】
等の使うと効果のある、【アクション】系
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どれもこれも高いので買えなかったが、俺もサイレーンも出来ればいくつか覚えておいた方が良いと思う。特に死にたくないなら【生命力向上】位は持っておきたい所だ。
「そうですね、【生命力向上】は取らない方が良いですよ?」
「は? HP増える感じだろ??」
「おにーさん。このゲーム、殺される時って大体一瞬で殺されるの。それがちょっとHP増えた程度で耐えきれると思う?」
「確かにあれば生き残る可能性は増えるかもしれませんが、寧ろそれより必須なのは切り札的なアクション系を一つ二つ、戦闘時に必要なパッシブをいくつか、速さの補正が出来るものを取る事をお勧めします。何せスキルは無限に付けられる訳ではないので」
流川が続ける―
「スキルは自分のレベル×2個までをセットする事が出来ます。御堂君なら今は2個、僕なら8個ですね。これは特別なミッションなどをクリアして特殊な報酬でも貰えない限りは全員同じ条件です」
「あ、それとね♪ 私達ソウルギアにもスキルはセットできるのよ? だから変身型とか装備型は単純にスキルセット数は2倍って所なのかな?」
「ますますゲームだな、いや。そうしないとポイントがあればスキル無制限になるのか」
PK達がますます捗りそうだな。スキル無双でやりたい放題とかやってきそうだ。
セットに制限があるとなれば、俺は常時発動系とアクション系を半々で覚えておくのが良いだろう、どちらも近接系になるだろうな。レベルが上がって余裕が出来たら遠距離も考えてもいい。
サイレーンは防御系と逃走系になるだろうか。元々ない攻撃力をスキルで補ってもたかが知れている。それならば支援効果を上げたり、俺が戦闘中に危険にならない所で退避してもらいたいし、そういう時に便利なスキルを手に入れるのが良いだろう。
問題があるとすれば――
「高いんだよなぁ」
「はじめのうちはそうなりますね。特にレベル2までは最速で上げないといけません。レベル1と2では生存力に倍以上の差が生まれますから」
「レベル2に1000ポイントか、1千万、おっそろしい世界だわ」
「そのうち慣れたくなくても慣れますよ。所で素手での戦いはどうでした?」
「当てられる気がしないんで分からないな、次は色々武器を持ってやってみるわ」
もしかしたら剣や槍が上手く扱えるかもしれない。
スキルには技術向上とかそういうのもあるらしいし、素手に拘りも特にないからな。生き残れるなら何でも使うのが一番だろう。
時間はまだまだあるからとりあえずは色んな武器を試させてもらう事にする。
「斧や槍、剣に鞭、所で流川? 武器欄に等身大美少女フィギュアが売られてるんだが、これは何かの嫌がらせか?」
【お買い得!!】と20%OFFで売られているアニメの美少女フィギュアが打撃武器欄に載っていた。
それも1個だけじゃなくて多種多様に載っていた。
「ディザスターがアニメでも見たんじゃないですかね・・・」
「この前のミッションにアニメの服着てフィギュア装備してたプレイヤーいたね♪」
「色物かよ!? 生死かかってるんだが!?」
「レベル3で、一番貢献してましたよ。泣きながら「ごめんね〇〇ちゃん」とか言いながらフィギュアでモンスターを叩き潰してました」
「泣く位なら違う武器使えよ・・・!?」
こんな世界でもそんな変人が居るのか。どこにでも湧いて出るな俺達みたいな奴らはいや、俺は流石にそこまでディープじゃあないけどな?
「俺、この世界に巻き込まれて今心底後悔してる」
「だ、大丈夫ですそこまで奇特な方はたまにしかいませんから」
「でもこの辺りで行動してるから結構な頻度で見るのよね~」
「やだもう、おかしいだろ世界」
どっと疲れが出てきたが、いつまでも腐ってもいられない。
用意しておいた武器を担いで、改めて彼女に鍛錬を付けてもらう事にした。
「所でサイレーンはどうなって――」
「あっちで面白ポーズで倒れてるよ?」
「サイレーンさん!? どうやったらそんなポーズで倒れられる!?」
そこにはよくわからないポーズで器用に目を回して倒れているサイレーンが居たのであった。今度は俺が介抱しに行ったのは言うまでもない―
―9話了
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