ありがとう

鳥海 摩耶

ありがとう

 携帯の通知が鳴る。


 母からの通知。


「昼ごはん、いつものチャーハンで良い?」


 私はいつもの返事を打つ。


「うん」


「ありがとう」


 軽いな、と思う。


 画面を縦にスクロールする。


 母との会話に並ぶ、五文字。


 今日のありがとうは、昨日から数えて三回目。


 昨日のやり取りを見る。


「迎え行こうか」


「大丈夫。ありがとう」


「雨らしいよ。傘持った?」


「ある。ありがとう」 


 ありがとうありがとうって、何がそんなにありがたいのだろう。


 機械的に打つ五文字には、何の感情も込められてはいない。


 ありがとうは、『有難う』と書くのかな。たぶんそうだったはず。


 『有る』が難しいだから、存在することがまれな現象。とでもまとめておこうか。


 まれな割には頻繁に登場する。まれじゃないな。


 そんな「ありがとう」じゃなくて、本当にまれな「ありがとう」を言ってみたい。


 その時、私は人生で一番幸せなのだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ありがとう 鳥海 摩耶 @tyoukaimaya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ