最終話 ブラック・マギカ・コレクション
あれから1週間が過ぎた。
わたしはもう『かちゃ。』という音で目を覚まさない。
眠っている――そのはずだった。
「なに、してるんですか……?」
「ん? よく聞こえないのだけれど、なんて言ったの?」
「だ~か~ら~、何してるんですかって聞いてるんです! てか、イヤホン取ってください!」
「え~。ちょうど今、サビに来たところだったのに……。しょうがないわね」
ここは自宅からまあまあ離れた場所にある商店街。その一画にある呪いの館『
働く、と言っても実質的に支払われるのは交通費だけ。名目上はボランティアということになっている。わたしの学校がバイト禁止じゃなきゃ、こんなトコでゼッタイに働いたりしない。
「もっかい聞きますけど、なんで聴いてるんですか、ソレ」
「なんでって。そりゃ、聴きたいからに決まっているでしょう。これ、ミホシの言う通り本当にいい曲ね。店内BGMにしちゃおうかしら」
「お客さんを呪うつもりですか」
「もちろん流すのはオリジナルの『†
「いえ、マギカならガチでやりかねないと思って」
「そんなことしたら本当に『
「どうして怒られてるの、わたし……」
「分かったのならさっそく着替えてもらいましょうか。ここの制服に」
「ほんとに、着なきゃダメ……ですか? わたしが着たらゼッタイ変だと思うんですけど……」
「なーに言ってるのよ、ミホシ。
「はい……」
わたしは重い足取りで店の奥、カウンターの向こうにあるバックヤードに入る。
1時間働けば30万からマイナス1,000円。だから、少なくとも300時間はこの制服――いわゆるゴスロリ服を着なければならない。こんなにフリフリでロリロリな服、わたしに似合うわけがない。人を呪わば穴ふたつ。どんな穴でもいいから、あったら今すぐ入りたい。
「き、着替え……ました」
「あら、可愛い。とっても可愛いわ!」
「恥ずか死ぬ……」
「記念に写真を撮りに行きましょう」
「ひとりで行ってください。わたし、ゼッタイに店から出ませんから!」
「恥ずかしがらなくても大丈夫よ。撮るのはすぐそこの、タバコ屋のわきにある証明写真機でだから」
「あなたはアレをプリクラとでも勘違いしているんですか?」
「1,000円」
「え?」
「1,000円で買い取ったげる」
「うぐ……」
「1,500円」
「うぎぎ……」
「2,000円」
「し、仕方ありませんね」
「それじゃ、行ってらっしゃい」
「え!? わたしひとりで行くんですか?」
「ついでにタバコも買ってきて頂戴。銘柄は『ブラック・シューティングスター』ね。タバコ屋のおばあちゃんに、マギカに頼まれたって言えば分かるから」
「いやいやいや。わたし、17なんですけど。タバコ買っちゃダメなんですけど。てか、そもそもマギカって、タバコ吸ってもいい年なんですか?」
「私、何歳に見える?」
「女子高生くらい」
「
「皮って……」
「この際だから教えたげる。私、呪いのせいで年を取らないの。俗にいう永遠の17歳ってやつ」
「へ?」
「実年齢は――忘れちゃったわ。フフフ……。驚いた?」
「冗談、ですよね?」
「そう思うのなら、タバコ屋で昔の写真を見せてもらうといいわ。服装は違うけれど、見た目は今と変わっていないから」
「そんなことって、本当に……」
「あら。つい最近まであなたも呪われてたじゃない」
「そうですけど……」
これは話が違う。話というか次元が違い過ぎる。
呪いのレベルが高過ぎて、理解が追いつかない。
「まさか、呪物を集めてるわけって……」
最凶の呪いを生み出すために呪物を蒐集している、とマギカは言っていた。じゃあ、最凶の呪いを生みだす理由はなんなのだろう?
呪いには呪いを――もしかして、彼女の目的は……
「死ぬため?」
「どうしてそうなるの。フツーは呪いを解くため、でしょうが。ミホシって、案外ロマンチスト?」
「なぁ!」
「呪物蒐集は私の趣味でありライフワークであり収入源。たしかに突き詰めると死ぬためかもしれないけれど、別に私は死にたいわけじゃない。この呪いを解きたいのよ」
「なるほど……」
「そのためにミホシには頑張って働いてもらわなくちゃね」
「そう言えば、わたしは何をすればいいんですか? お店の掃除とか、接客とか?」
「呪物蒐集の手伝い」
「……。SNSの更新とか、品出しとか?」
「だから、呪物蒐集の手伝い」
「……、」
「ミホシは今日から私の助手。呪物蒐集家の助手になったからには蒐集の手伝いをしてもらわなくちゃ」
「聞いてない。そんなの聞いてない……」
「言ってないもの。だって、聞かれなかったから」
「サイアクだ……」
「大丈夫。そうそう死にゃしないわ」
「呪物蒐集の手伝いで時給1,000円って……。ブラック過ぎる……」
「ふふ。フフフ……」
わたしにかかった新たな呪い。その名は
呪いには呪いを、悪魔には天使を。なら、マギカには……? とりあえず、五寸釘7本セットを買ってから考えよう、とわたしは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます