後日譚①「ギフトのつもり?」

吉野晃という人間は、なかなかに掴みどころがない。

「クレープ買って帰ろう。」

 なんの脈略もない提案。やけに高いテンション。底抜けに明るいわけでもないからこそ、時たま見せるそのわんぱくさが目立つ。クラスの一部女子にとってはミステリアスらしい。

「……物は言いようって、本当なのね。」

「え?」

 いつもより口数の少ないゆーふぉーが、食い気味に反応した。キッチンカーを眺めてぽわぽわしてる晃は、全然あたしの言葉を気にも留めていない様子。これがクラスデイチバンモテルダンシってんだから、笑える。

「でも、僕も食べたいかも。クレープ。」

 もごもごと言うゆーふぉー。ほんとに言ってる?

「マジで?よし、じゃあ買ってくる。三人分。」

 クレープという言葉に反応した晃、キッチンカーへ即ダッシュ。三人?もしかしてあたしも入ってる?

「なんか、いつもより楽しそうだよね。」

 微笑ましくその光景を見詰めながら、か細い声を転がすゆーふぉー。いつもより楽しそう。まあ、文脈的に晃のことだろうけど。自分にも心当たりがあって、一瞬ドキリとした。ゆーふぉーは変に勘が良い。繊細な性格のせいなのだろう。難儀なヤツだ。

「買ってきたぞー。」

 目を輝かせ、よちよちと駆け寄る晃。ひよこみたいで、なんか可愛い。

「あ、ありがと……。」

 クレープを受け取るだけで、もじもじし始めるゆーふぉー。頭のユーフォーも時折触りながら、気にしている。やっぱり、ゆーふぉーも晃を。

「ほら、これやよいの分。」

 ひょいっ、とそれを手渡しされる。頬が熱で痛むのを感じて。

「払わないからね。勝手に買ってきたんだから。」

 軽口叩いて、それを誤魔化す。こういうことしてしまう自分のことは、別に嫌いじゃない。晃はきらきら笑う。ゆーふぉーは大切そうにクレープを見詰めながら、まだもじもじしてやがる。

「なんかいいねっ、こういうの。」

 久しぶりに聞いた、ゆーふぉーのただひたすら楽しそうな声。笑顔で返事する、晃。

「……。」

 クレープは、あたしには甘すぎた。

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ギフト ソブリテン @arcenciel169

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