◆5-15:メラン トラム駅構内
車両が減速を始めるとすぐに扉が開き、メランたちは気詰まりな空間からようやく開放された。
連盟の科学力をもってすれば、乗客に全く加減速を感じさせない作りにもできるのだが、これは認知的サジェストの一環として敢えて残されている不便である。
探査船団社会にはこの手の懐古趣味が意外なほど多い。理由は探査船団の生い立ちや理念を考えれば多少は想像できるだろう。
メランたちが降り立った場所は、大昔、
ただし、一般客が利用する場所ではないので広告や装飾の類はまるでなく、殺風景そのもの。
停車するトラム車両のサイズに比べ、随分と余裕を持たせたホームの長さは50メートルほどあった。同時に30台は横付けできそうな広さではあるが、大型の輸送機が利用することも想定しての広さなのだろう。そのスペースに今は2台のモビールだけが停まっていた。
メランたちの姿を認めると、先着していた三人の中からドッドフが四つ足を駆ってやってくる。
「遅ーい、イザベル。待ちくたびれたよ」
「えー? すぐ前を走ってたんじゃないの?」
自分の背丈とそう変わらない巨大犬の頭を撫でながらイザベルが訊ねる。
「安心しろ。ほんの30秒ほどだ。辛抱がなさ過ぎるんだ。コイツは」
男子組三人の中で、現在シトロフロロと連絡を取れる状態なのはこのアキラだけである。
本来は適性上位者のテストであるため、最下位のアキラはお呼びではないのだが、男子の中には彼の他に事情を知る者がいないのだから仕方がない。
子供たちに公表された成績表では下駄を履かせてあり、そのことが分からないようにされていた。
「ねえねえ聞いた? 僕たちが乗る予定のロボットは4機しかないんだって」
「ホント? じゃあ私も頑張らないと危ないわね。私の成績は4番目だから」
「へへっ、僕1番」
「納得いかねー。実技はともかく、ドッドフは筆記の成績、下から数えたほうが断然早いだろ」
子供たちが和やかに話していると、遠くから彼らを呼び寄せる者があった。
上階へと伸びる階段の前に研究職らしき出で立ちの男女二人が手招いている。
集まって話を聞くと、実験場は思念の干渉を防ぐため一人ずつ入場する必要があり、事前に行う身体検査の都合上、二組に分かれて一組はここで待機するよう説明された。
本当の理由は、個人間の思念干渉というよりも、アンチMフィールドによってケネスの周囲を常時覆い続けるためである。
ケネスが実験機に乗り込むときだけはテストはフェイクで、実験機の回りは別のアンチMフィールドで覆っておく必要がある。その切り替えの為に設けられたインターバルであった。
「えー、ずるいよ。先に着いたのは僕たちなのにー」
「レディファーストよ」
予めシトロフロロから今日の手順を聞いていたイザベルは、さも当然にように先立って歩き出す。
「ほら、ドッドフ。あっちに軽食スタンドがある。あそこで待とうぜ。ケネス、お前も」
ドッドフの世話をしながらケネスのことも警戒しなければならないアキラの負担は大きそうだ。
多少の同情心を抱きながら、メランもイザベルの後ろに続いて階段を上った。
とはいえ、連盟政府としても子供のアキラに何かを期待するものではなかった。
強いていうなら、彼の緊張によってケネスに不自然を気取られないようにと願うだけだ。
ケネス用の包囲網は当然別に用意されている。
訓練宿舎と同様、内外に向けて警戒を続ける守備部隊は、今も彼らから見えない位置に配置され、ケネスは常に無数のセンサー類によってモニタリングされている。
対象周辺には直接人を配置せず、無防備を装っているのは、ケネスの警戒心を緩めるためであった。
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