第14話:錬金博覧会
「ルーブ、調子はだいぶ良さそうだな」
『ええ、あんなに具合が悪かったのが嘘みたいです』
水質の調査をした日から二週間後。
ルーブさんはすっかり元気が回復していた。
池の中をすいすいと泳いでいる。
その様子をアース様やアシステンさんはもちろん、ワーキンさんも嬉しそうに眺めていた。
「ルーブ様が元気になられて、私も毎日嬉しいです」
『まさか、水に溶け出す鉱石があるなんてなぁ。俺も初めて知ったぞ。フルオラの機転はすんげえな』
「特に<アルカリン鉱石>は溶けやすい性質があったようですね」
《ウォーター・アナリシス》で水質を調べた後、<アルカリン鉱石>についても文献を調べてみた。
頑強な鉱石だけど水に弱いらしく、濡れるとすぐに溶け出してしまうらしい。
今回はたまたまうまくいったけど、もっと色んな分野の勉強を積もうと決心した。
『フルオラさん、見てください。鱗の輝きが以前よりさらに強くなりましたよ』
「うわぁ……キレイ……<アクアドラゴン>って本当に美しいですね」
『こんなに輝けるのは、私も生まれて初めてです。これもフルオラさんのおかげですね』
ルーブさんが近くにきて、身体を見せてくれる。
最初に会ったときより青い光は濃さを増し、それでいて一段と澄んだ色合いになっていた。
鱗の一枚一枚が健康的な輝きを放つ。
キレイだなぁ……と見とれていたら、アース様に肩を叩かれた。
「フルオラ、君に渡したい物がある。中を開けてほしい」
そう言って、一枚の紙を差し出された。
丸められた羊皮紙だ。
静かにめくると、大変美しいカリグラフィーの文字が目に飛びこんできた。
「錬金博覧会の案内……ですか?」
「ああ、各地の錬金術師が互いに腕を競い合う博覧会の開催を考えている。場所は暗黒地底の洞窟前だ」
「そ、それは誠でございますかぁ! 各地の錬金術師が腕を競い合うぅ!? 錬・金・博・覧・会ですかぁ!?」
「だ、だからそう言っているだろうっ。と、とりあえず離れなさいっ」
気がついたら、アース様はエビみたいにのけ反っていた。
私の顔が目前まで迫っているからだ。
また興奮して周りが見えなくなってしまった。
意識に関係なく身体が動く。
溜まった悪癖による現象だと考えられた。
「……大変申し訳ございませんでした」
「い、いや、気にしなくていい。もう慣れたからな。そして、この錬金博覧会の開催は……君に対するお礼なんだ」
「……え?」
アース様は告げた。
私のお礼として錬金博覧会を開催すると。
あ、あれ? 何か感謝されるようなことはしたっけ?
《エアコン》とかルーブさんの一件はそうかもだけど、全部専属鍛冶師としての仕事だから当たり前だし……。
小さく混乱していると、アース様はお話しを続けてくれた。
「まだ短いが一緒に過ごしてきて、君は本当に錬金術が好きなんだなと実感した」
「アース様……ありがとうございます」
私の奇行を好意的に受け止めてくださって。
アース様のような心が広い方でないと、五分も持たずに追い出されていただろう。
「フルオラには本当に感謝している。地底は快適になったし、大事な仲間たちも守れた。そこで、どうにかして感謝の気持ちを伝えたいんだ」
「で、ですが、私はここで生活できるだけで幸せです」
本心を伝えた。
メルキュール家にいたときより、何倍も充実した暮らしを送らせてもらっている。
私なんかのためにアース様の手を煩わせるのは申し訳ない、という思いもあった。
「いや、どうか受け止ってほしい。何か返さないと私の気が済まないのだ。もちろん、嫌ならば断ってもらって構わないが……」
「いいえ! 嫌だなんてあり得ません! これ以上ないほど嬉しいです! はい、すみません!」
大慌てで参加表明した。
せっかくのご厚意もそうだし、何より色んな人の魔道具を見てみたい。
アース様は私の反応がおかしかったようで、少し苦笑していた。
「そうか、それならよかった。いつも君が作るのは、私が頼んだ魔道具ばかりだ。だから、博覧会では自分が作りたい魔道具を作ってほしい」
「はいっ! 存分に作らせていただきますっ!」
アース様と笑顔で見つめ合いながら、さっそく魔道具の設計を考える。
ああ、これほど楽しみなことはそうそうない。
どんな魔道具を作ろうかな。
というより、他の参加者が気になって眠れないかもぉ。
ワクワクしていると、にまにまにま……という謎の音が聞こえてきた。
な、なんだ?
後ろから聞こえるような……。
振り返るとアシステンさん、ワーキンさん、ルーブさんが、にまにまと笑っていた。
すかさずアース様が叱る。
「こ、こらっ! お前たち、何をにまにましている!」
「お言葉ですがしておりません」
『俺もそんな笑い方してないですぜ!』
『私もにまにまなどしてませんね』
「だから、生暖かい目をやめなさい!」
みんなを追いかけ回すアース様を見ながら、私はずっと魔道具の設計を考えていた。
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