第13話:水質を分析する魔道具、《ウォーター・アナリシス》

 お屋敷の保管庫に戻った私は、いつにも増して真剣に素材を選んでいた。

 

「フルオラ、足りない素材があったら遠慮なく言ってくれ。すぐに用意する」

「ご要望があれば、私もすぐ街へ向かう準備はできております」

「ありがとうございます。でも、倉庫にある物だけで作れそうです。これだけ良い粗材が揃っているので……」


 頭の中で理論を組み立てながら厳選する。

 時間を少しも無駄にはできない。

 今度も高ランクの素材を重点的に選ばせていただいた。



<水軽石>

 ランク:A

 属性:水

 能力: 水に浮かぶくらい軽い石。海水より真水との相性が良い。



<リング鉱石>

 ランク:A

 属性:無

 能力:中央が削れ、リング状に形成された石。魔力の伝導率が高い。



<ムーン鉱石>

 ランク:A

 属性:無

 能力:月光を浴びたことにより、月の魔力を持つようになった石。



<抽出砂>

 ランク:A

 属性:光

 能力:水に溶け込んだ不純物を小さな塊にしてしまう砂。



 水質を分析すると同時に、鉱石の成分も調べられる魔道具にしよう。

 どうか、ルーブさんの体調不良の原因がわかりますように……。

 水中の成分を細かく取り込む方程式にするんだ。


「【錬成】!」


 願いを込めて錬成陣に魔力を注ぐ。

 いつもの青い光が素材を包む。

 次々と細かい粒子にまで分解され、新しい形を作る。



《ウォーター・アナリシス》

 ランク:A

 属性:無

 能力:水質を分析する。水中に溶け込んでいる鉱石の成分も調査できる。



 完成したのは、大きくて四角い箱型の魔道具。

 上部には板が取りつけられ、前面からは2本のケーブルが伸びている。

 先端を水につけると、自然に分析が始まるのだ。


「できたっ! できました! 水質を調べる魔道具です!」

「よし、さっそくルーブのところへ行こう!」

「フルオラ様、私も運ぶのを手伝います」


 《ウォーター・アナリシス》を持って、ルーブさんの元に向かう。

 池から出ているように伝えたので、地面に横たわって待っていた。


「お待たせしました、ルーブさん。今水質を調べてみますからね」

『ありがとうございます……フルオラさん』


 《ウォーター・アナリシス》の先っぽを池に差し込む。

 すぐに魔道具は作動し、池の水を調べ始めた。

 みな、固唾を飲んで見守っている。

 上部の四角い板に示されたのは……PH11。

 その数字を見て、強い衝撃を感じた。


「フルオラ、これはなんの数字だ?」

「それは水質の状態を示す値です。私たちが普段飲むような水は、だいたいPH7前後なのですが、酸性やアルカリ性に偏ると数字が7から離れていくんです。アルカリ性が最も強いと14を示します」

「だとすると、11はかなり強いという意味か」

『そんなに水質が変化していたんですか……』


 みんな、唖然とした様子で《ウォーター・アナリシス》の表示を見ている。

 まだ水質の変化が体調不良の原因と決まったわけではない。

 でも、可能性があるならば対策するべきだ。


「すぐルーブさんを違う場所に移しましょう」

「ああ、そうだな。ワーキンに<アルカリン鉱石>がない場所を探してもらおう」


 ルーブさんを連れてお屋敷へ上がる。

 狭いだけど、しばらくは水を溜めたたらいで過ごしてもらうことになった。



□□□



 5日後、ルーブさんの様子を見に、みんなで地底に向かう。

 ワーキンさんに頼んで、<アルカリン鉱石>が含まれていない空間を見つけてもらった。

 地下水が溜まっているけど、水質が問題ないことは調査済みだ。


「ルーブさん、身体の具合はいかがですか?」

『ええ、おかげさまで水を変えてからすっかりよくなりました。フルオラさんが<アルカリン鉱石>の存在を見つけてくれてなかったらと思うとぞっとしますね』

「私も君の健康が改善して安心した。本当にな」


 場所を変えて、ルーブさんの身体は少しずつよくなっている。

 やっぱり、水質の悪化が原因だったんだ。

 

『フルオラさん、この度はありがとうございました。あなたは命の恩人です』

「ルーブさん……元気になってくれて本当によかった……」


 青い鱗に覆われた長い体を撫でる。

 さらさらでとても触り心地がいい。

 この先もキレイな水で生活していれば問題ないだろう。

 無事、ルーブさんの健康を守ることができた。

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