第78話 説明と推察
蜜希としては、別に引き受けるのは構わないと思っていた。
……正直、災厄に興味はあるっすからね。
城塞都市では、蜜希自身は災厄に直接的に関わってはいない。いや、その影響があるらしいワイルドハントの死霊達を派手に掃除したりはしていたが、基本的には裏方……いや裏方違うっすね、モルガン一家相手にヒャッハーしてたし。
とはいえその中心たる先代アーサー王とは少し言葉を交わした程度で、災厄がどのような物なのかがイマイチ実感が無い。それは先代が殆ど影響を受けて居なかったのも理由の一つではあるのだろう。
どうもフィーネの話とか聞いてると、祖母ちゃんの縁とかで私はその災厄に反応されてるらしいし、もう少し知識は欲しい所っすねー。
だが、それはあくまでも好奇心ゆえだ。自分の本来の目的を犠牲にしてまで優先される事ではない。
自分の本来の目的、そうそれは――
「ギラファさんとイチャコラする事……!!」
「はい!?」
しまった、思考が言葉に漏れ出ていた様だ。
まあいい、いや良くないきもするが、とにかくいきなり拉致された時は焦ったが、折角だしギラファさんとの婚前旅行と思って楽しもうと思っていた所だ。上空から見るTOKYOの景色は自分の知る物に近く、だからこそそれ以外の異質さに胸を躍らせ、ギラファさんと一緒に各地の違いを回りながら観光しようと思っていたのだ。
だと言うのにこの巫女と来たら、
「さも『引き受けてくれるでしょう』って態度で言われたら、是非はともかく取り合えずなんか嫌っすよね」
「ああ分かりますわ、『どうせ暇でしょう?』見たいなノリで仕事振られると暇だとしても張り倒したくなりますわよね」
イエーイ! とパー子とハイタッチを交わし、改めて机の向かいの巫女に視線を向ける。
「で? 自分達は一体何をすればいいんすか?」
「え?」
「だから、災厄の調査と対応って言っても、具体的に何をやれと?」
自分の言葉に、相手は一瞬言葉に詰まり
「あの……断られたのでは?」
は? 何を勘違いしているのだろうか。
「嫌だとは言ったすけど、断るなんて一言も言って無いっすよね?」
「ですわねぇ……その後わざわざ解説までしましたのに」
「「ねーー!!」」
再び二人でハイタッチ、その上で巫女を見れば何やらフルフルと震えだし、その振動が一定のラインを越えた瞬間。
「うわあああああああん!!」
ちょっと煽り耐性低すぎないっすかね?
一時休憩
「あうううう……」
うつむき姿勢で呻く
「よしよし大丈夫ー? いやあ、ノゾミンも中々だったけど、孫も孫で切れ味高いねぇ……」
「失敬な、
『オイこら良い度胸さね?』
突然顔横に現れた術式陣から祖母の声が響いた瞬間、飛び込んで来たフィーネが術式陣を叩き潰す様に砕いて割った。
●
≪筆記設定通信≫
『ちょっと希様!? いきなり何やってるんですか!!』
『あーすまん、旦那絞り尽くして暇だったからそっちの会話聞いてたらつい、以後気を付けるさね』
『…………夫婦仲が良いのは良い事ですね……』
『ああ、最近流石に体力無くなって来たからアタシが動いてやるんだけど、これが反応とか結構面白くてね、結論言うと旦那は今横で気絶してる』
『要らん情報寄越さないでいいですからっ!!』
●
何やら術式陣を開いて打ち込んでいたフィーネが、はっとした様に此方へ言葉を飛ばす。
「あ、大丈夫です! ちょっと手違いあったと言うか、ええ、見なかったことにしていただいて!!」
それは無理な気もするが、結論から言うとうちの祖母がすみませんと言うしかない。
と、うつむきから復帰した巫さんが手を立て、自分達もそちらへ意識を向ける。
「取り乱して申し訳ありませんでした。――いや、私ミナカで理不尽には慣れてるつもりだったんですが」
「アレー? 私御刻を慰めたのにディスられてるんですけどー?」
日頃の行いじゃないっすかねぇ……。
「日頃の行いですよ、ミナカ。――失礼、それで、結局の所引き受けてはいただけるのでしょうか?」
それは――、と口を開きかけた自分を遮る様に、横に座るギラファさんが手を挙げる。こじんまりと、座ると言うよりは自分の体躯を畳むようにして佇む彼は、軽く上げた爪を降ろしつつ、
「災厄の調査と対応とのことだが、その程度なら我々に頼らずとも神州側で対応可能だろう? わざわざ私達を連れて来た理由は何かね?」
「――なるほど、確かにその疑問はもっともですね」
ギラファさんの質問に頷いた巫さんは、一度膝を浮かせて正座を正す。
「結論から言いましょう。先日のブリテンでの事件を踏まえ、私達も独自で災厄の調査を開始いたしました。これはアージェ様とそちらのフィーネ様が構築した探知術式を用いたもので、それを拡大適用した上で神州全てを調査しました」
一息、
「ですが、その結果、
その言葉に対する反応は、二つに分かれていた。
疑問と、緊張。
前者は自分やパー子、ククルゥちゃんで、後者はギラファさんとフィーネ。その二者を分ける要因が何かと言えば、それはおそらく、災厄への理解度だ。
だが、理解の薄い側である自分としては、こう尋ねるしかない。
「検知されなかったんだとしたら、何か問題あるんすか? ただ災厄が神州には存在しないってだけでは?」
自分の疑問に、しかしフィーネが首を横に振って否定した。
「いいえ、蜜希様。その規模の大小こそあれ、一国の領土全てにおいて災厄の残滓が存在しないと言うのは異常なのです」
「そうだな、五百年前の戦乱で世界中に広がり、しかし払われた災厄だが、当然その残滓は世界中に散らばった。それは地脈や空間に沁み込み、時には異なる界に入り込むことで存在を隠すが、だからこそ、必ずどこかにそれは在るわけだ」
ギラファさんの言葉に頷き、フィーネが眉を立てた表情を見せる。
「私とアージェ様の構築した災厄の探知術式ですが、これは探知範囲内の地脈を通じて、範囲内の空間に作用します。ですので、それこそ地球側との次元の狭間や、この世界においても何らかの異界に潜んでいない限り、検出できないと言う事はありません。――ああ、ワイルドハントはそうした異界に潜り込むタイプですね」
「でしたら、神州上の災厄が全て異界に隠れていると、そういう事では?」
パー子の言葉はもっともだ。そして、それが正しいと言う様にフィーネは首を縦に振る。
「ええ、確かにそれならば理屈は通ります。ですが、災厄が一斉に同じ行動をするという、それこそが問題なのです」
いいですか? と前置きを挟み、
「災厄の残滓は基本、明確な自我を持ちません。ある種の方向性と言うか、共通の本能はありますが、どちらかと言うと場当たり的で、明確な目的を持って行動すると言う事はありません。ある程度の規模に集まらない限りは存在しているだけなので無害ですし、そう簡単に集まるものでもありません。――それが一斉に、これだけの範囲で例外なく姿を隠す。それも私達の術式が探知できない異界へとなれば、これは何らかの意思が介在していると疑わざるを得ません」
一呼吸をいれ、フィーネが続ける。
「先日のワイルドハント、アレも相当な規模の災厄が集結していましたが、私やアージェ様の掛けた探知の結果を見る限り、ブリテン全ての災厄の残滓が集結して居た訳ではありませんでした」
それはつまり、
「――今回は、あれ以上の何かが生じる可能性がある、ってことっすか」
自分の言葉に、専門家であるフィーネが頷きを返した。
――うん。
「聞かなかったことにしていいっすかね?」
巫さんにトンデモナイ顔で睨まれたっすけど、いやまあ気分気分。
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