第79話 無償労働回避
「しっかし、引き受ける事は確定として、実際どーしたもんすかねー?」
予想よりも面倒な事になった、と言うのが蜜希の感想だ。
「おや、引き受けていただけるのは確定なのですか?」
「他の皆がどうかは別として、私としては引き受けるつもりっすよ?」
「まあ、こうした未知の事態に対して、君が心躍らないわけが無いだろうからな」
嘆息しつつ言葉を放ち、ギラファさんが一つ頷いた。
「いいだろう、災厄の残滓であるなら私にとっても他人事ではない。何より蜜希がこう言っているのだから、異論など元より無いがね」
「おうおうギラファちん、かかあ天下だねぇ!」
「夫婦円満の秘訣は妻の言う事をよく聞くことだと言うからな」
「んぐひゅ!!?」
ちょっと喉の底から変な音が出た。
「だ、大丈夫ですか!?」
咳き込む様に身を折った自分に対して巫さんが心配した様に声を掛けるが、大丈夫大丈夫、ちょっと心臓が裏返るかと思っただけっすから。
「それ大丈夫じゃないんじゃありませんの?」
心読むの止めるっすよパー子。それはさておき、呼吸を整え姿勢を正す。
「あー、悶死するかと思ったっす。――それで? 私とギラファさんはそんな感じっすけど、パー子たちはどうするんすか?」
その問いに対して、視線を向けた先の三人は一度顔を見合わせる様にしてから笑みを作った。
「当然参加しますわ、アグラヴェイン卿には見分を広げてこいと言われていますし、何より蜜希だけに良い格好はさせませんわよ?」
「アタシは戦力にはなれねぇけど、術式関係の補助程度なら何とかなんだろ」
「私としましては、依頼が無くとも参加させて頂きたい案件ですので、ええ」
それなら決まりだ。
自分は一度皆に頷き、それから横に座るギラファさんの手を握って言葉を放つ。
「
自分の宣言に、相対する彼女が大きく息を吐いた。それは肩の荷が下りたと言う様な、安堵の雰囲気を漂わせるものであり、その上で彼女はこちらへ深く頭を下げる。
「――ありがとうございます」
誰が見ても一目でわかる、含みの無い、心からの感謝だった。
その言葉一つで、まあ引き受けた理由の足しにはなるだろう。そもそも自分は楽しければいいと言うか、この世界の未知を知る為に残ったのだから。
ただまあそれはそれとして、
「ぶっちゃけ、調査って何すればいいんすか?」
そう尋ねると、巫さんの表情が固まり、やや俯いてから顔を上げ。
「……非常に申し上げ辛いのですが、此方としては現状打てる手がありませんので……ええ、その辺りの方法も含めてそちらの力を借りられないかと……」
ふむ、なるほど。
「つまりは神州側は役に立たないって事っすね?」
「いった! 言いましたね!! 自分達でも内心そう思ってましたよ、ええ!!」
声を荒らげつつも否定や反論が無い辺り、神州側でも打てる手は打って居るのだろう。
何よりこの間の先代アーサー王の警告騒動から日も浅い、国として大きく動こうにも難しいだろうし、それ故先の事件の当事者であり、災厄の専門家たるフィーネが居る自分達に声を掛けたのだろう。
しかしそうなると、最初の調査の段階から面倒な事になりそうであり、自分は良いとして、実作業を行うであろうフィーネの苦労を考えると、
「流石に、いい感じの報酬は欲しい所っすよねぇ……」
「え?」
自分の言葉に、御刻が疑問に満ちた声を上げた。
「なんすか?」
「……報酬無しで引き受けるつもりだったんですか?」
言われて気が付いた。そうだ、仮にもこれは国としての依頼。ミナカさんに拉致されてきたので半ば強制の様な気もしていたが、パー子に関しては元々アグラヴェイン卿と交渉して暫く自分達と共に行動することになっていたし、神州への派遣は急遽と言う事ではあったが、一応は神州側から正式な依頼が通達されたとのことだ。
「あ―――?」
なお、自分やギラファさん、フィーネに関しては何処の所属と言う事も無く、身分としてはアージェさん預かりで、そのアージェさんはミナカさんに対して「好きに連れてって良いわよ?」とのことだった。
自分は前にアージェさんとギラファさんに宣言した通り、この世界をもっと見て回りたい。未知を求めると言えば聞こえはいいが、ようは物見遊山気分だ。
遺骸の一件以来ギラファさんといちゃつくという至上命題が加わったが、つまるところこうして神州まで無料で来れてる段階で内心結構得したなーとか考えていた所だったわけで、
「ぶっちゃけ、私としては此処での生活費と観光費辺りを工面してくれればそれでいいかなーって」
「はあ!?」
思いっきり呆れた顔をされた。ええ、そうっすよねー、国家規模の事業頼んだ相手が、「あ、飯代と宿代でいいっすよ」とか言ったら信用できないっすよね、うん、私も信用できない。
「いやまあ、うん。基本的には詳しい事はフィーネに丸投げするつもりなんで、報酬関係も全部フィーネにおねがいするっす。私はそれ眺めて酒が美味いって感じで」
「え!?」
「流石にその丸投げ宣言はどうなんですの?」
「いやいや、考えてみるっすよパー子、普通の方法で探知できない災厄探せって言われて、自分達に何か思いつくっすか?」
「…………」
僅かな逡巡のあと、パー子は此方の頷きを返し、
「それもそうですわねぇ……」
「え!? そこで引き下がるんですかパーシヴァル卿!?」
フィーネの抗議に、しかしパー子は落ち着いた表情を返す。
「いえ、流石に悪いとは思いますけれど、だからと言って何が出来るでもありませんし、面倒ですからフィーネにお任せしようかと」
「最後! 最後が本音ですね!! でも実際問題私やアージェ様じゃないと対応できない問題ですよこれ!!」
やる気があるようで何よりっすね。と、そう思いながら自分は出された茶をすするのだった。
うん、流石に温い、何で急須で淹れた緑茶って冷めると渋み増すんすかねー? まあこれはこれで好きなんすけど。
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