第63話 聖剣激突
先代アーサー王であるアリスは歓喜した。
称賛の向く先は己の弟子である今代のアーサー王。よくぞこの五百年で、自分に傷をつける程に成長した物だ、と。
「五百年前は超越の威力に小便ちびってたお前がなあ!」
「いま叫ぶことでは無かろう!?」
それに関してはすまん。まあテンションと言う奴だ。
「何より事実だからな!」
下からすれ違う軌道で光剣を振りかぶる。下段から正中線を狙った斬撃は、弟子の直角にも似た強引なステップで空を切るが、構いはしない。そのまま上空で体を下に回し、背の翼を全開に吹かして跳ね返る様に切り返せば、今度は大上段からの斬撃になった。
「――――!」
弟子が迎撃のために肘の機構を展開し拳を振りかぶるが、アレは意外と厄介だ。衝撃を叩き込むだけかと思えば、肘の隙間から圧縮空気の様に魔力を噴出して打撃の速度も底上げされている。
しかも今回は先の反省からか、事前に足場術式を多重展開している徹底ぶりだ。いくら勢いの乗った斬り下ろしとは言え、踏み込みが利かない此方はやや分が悪いが、
「ふむ、こうか?」
「なに!?」
見よう見まねで足裏に足場を仮想展開、踏み込みの感覚を確かめれば、なるほどこれは確かに勝手が良い。
「はははは! 流石に面白機能までは再現できんが、この程度なら十分わかるとも!」
振り下ろしに合わせて足場を展開。芯の通った斬撃に弟子は対応を迎撃から回避へと変えるが、遅い。
斬り下ろしが弟子の横をすり抜ける瞬間、足場を支点にしつつ翼を全開、身を回転させるように強引に捩じれば、剣の腹を利用した振り抜きが相手の全身を打撃。
攻撃の軌道を途中で変えるなど、王たる剣士としては本来するべきことでは無いが、自分の剣技は基本我流だ。美しさや洗練された型よりもその場その場での必要性のみを考える。
つまるところ、面白ければ良いの気持ちで己は弟子を打ち抜いた。
「かっ飛ばせ――!!」
流石に剣の腹の打撃で砕ける程甘い装甲では無いだろうが、衝撃の手応えは確かだ。そのまま抉り込むように腕を大きくスイングさせ、弟子の体を派手に吹っ飛ばす。
『ホームラー―ン!!』
「――いやお前が言うんかい!」
だが、当然相手もただで吹き飛ばされはしなかった。
「こちらの聖剣を打撃することで、直撃を避けると同時に自ら飛んで威力を弱めたか」
元々こちらを迎撃する構えであったこともあり、弟子の腕の機構は打撃の準備を終えていた。それを両手同時に剣の腹へと叩きつけつつ発動し、こちらのスイングに合わせて上手く乗る様に身を飛ばしたと言った所だろう。
見据える視線の先、弟子の全身鎧に目立った損傷はない。何やらこちらを指さして叫んでいるが大した事では無いだろう、無視だ無視。
『このクソババアァ――――!!』
「よしぶち殺す!! そこを動くなよクソ弟子!!」
言って良い事と悪いことがあると言うか、見た目年齢お前の方が上だろうが貴様!!
●
『相変わらず挑発に簡単に乗って来るのう……』
とはいえ状況はとてもよろしくない。まさかこの短時間で足場を用いた踏み込みを模倣してくるとは思って居なかった。
「死に晒せェぇぇぇぇ!!」
踏み込み、翼で身を弾き、強引な身の捻りでそれを制御する。
もはや動きは激しく跳弾する銃弾のそれだ。突き込まれる光剣に身を左にステップ、腕を左右に開く動きに合わせて打撃し弾けば、その勢いすら利用して高速のターンからの薙ぎ払いが首狙いで飛んでくる。
『それでもこの国の先王か貴様――――!!』
下から振り上げた拳で強引に薙ぎ払いの軌道をずらす。同時に身を屈めつつ前へと身を飛ばし、そのまま足場へ付いた両手を軸に先代の腰を刈り取る様に踵を回した。
「喰らうか間抜け!」
先代は前転の様な倒立による回避、更には身を捻って返した刃がこちらへ向かう徹底ぶりだが、
『その動きは既に見た!!』
足場へ付いた両手を握る。拳となったそれで殴り付けつつ肘の機構を発動すれば、剣閃が到達するより先にこちらの体が上空に射出された。
『オオオオオオ!!』
剣閃を飛び越え、右腕を強引に振り回せば、その裏拳は先代の胴を横薙ぎに打撃する。
「――かっ!?」
拳に返るのは着弾の手応え。姿勢が強引な事もあり決定打には程遠いが、確かに先代の体は衝撃に体勢を崩す。
間髪入れずに手の平の先に足場を展開、叩きつけて姿勢を回せば、倒立姿勢で身をくの字に曲げつつこちらを睨む師の姿。その姿勢でも剣の軌道を修正して上下逆さの一刀を繰り出してくる執念には戦慄すら覚えるが、
『今はこちらの方が、速い!!』
背後に足場を展開。先程使った腕の機構は既に再使用の準備を終えている、右半身を前に、半身となりつつ左拳を足場へ叩きつければ、その身は真っ直ぐ突き進む。
『貰った!!』
打撃した左腕を後ろへ回し、体を一度回転させれば、それは右の拳を振りかぶった姿勢に変わる。
「――――――」
体感時間が鈍化する高速戦闘の中で、先代の笑みが視界に映り、その口が何かを告げる前ぶりとして開くのを確認した瞬間、自分は速度を優先した。
右腕の機構を展開。使うのは着弾と同時に衝撃を叩き込む為ではなく、伸縮機構で圧縮された魔力を噴出することによって拳速を上げる加速機構。本来であれば伸縮の衝撃を逃さず相手に送り込む為の補助機能だが、タイミングを調節すれば純粋な加速として転用できる。
「間に合え―――!!」
足場を追加で足裏に展開し、僅かでも身を弾き、前へ。拳が水蒸気爆発の白霧を纏い、音を置き去りにして先代へと直撃する。
衝撃、そして破砕音。
胸部へと着弾した音速超過の拳は鎧を砕き、先代の体を遥か彼方へ吹き飛ばした。
決して少なくない量のダメージが入ったはずだが、己の思考を満たすのは目的を果たせなかった憤りだ。
『――――浅い、そして遅かったか!』
直撃の瞬間、先代が紡いだ言葉は聞こえなかったが、自分の視界は確かにその言葉を放つ唇の動きを読んだ。
――――聖剣、超越。
閃光、一瞬の間を置いて轟音と共に飛来した衝撃波がこちらを吹き飛ばさんばかりに吹き荒れる。
見据える視線の先、先代が吹き飛んでいった辺りから、光の柱が天へと伸びていた。
否、それは柱では無い。
聖剣だ。
その幅は優に百メートルを超え、長さに至っては暗雲に阻まれ計測すらできはしない。
一キロ以上は離れているだろうに、地脈を揺らす先代の声がこちらへ届く。
『さあ、クライマックスだアーサー。かつて遍く障害を祓ったこの一太刀、越えねば貴様らの明日は無いと知れ!』
――その言葉に一切の嘘偽りなどは無いのだと、周囲に広がる一面の荒野が、500年の時を超えて証明しているのだった。
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