第62話 聖剣巨神カリバリオン
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アーサー王は、先代の抗議の叫びを聞いた。
「おい馬鹿弟子! なんだそれ、ズルいぞ!」
相変わらず自分に負けず劣らず子供っぽい人だと思いつつ、アーサーは巨大な鉄の腕となった己の両の人差し指を相手へと向けて、
『ふははははは! 羨ましかろう!!』
全力で煽りにいった。
この姿に至った切っ掛けは臨界形態の光槌である。
パーシヴァルから借りた書物に載っていた機構を訓練中に試しに組み込んでみた際、聖剣の光が物質化したものは、稼働が可能な造りでさえあれば自分の体の様に動かせる事が分かった。
思い返してみれは目の前の先代も解放形態で翼を生やして自在に空を飛んで居たわけで、この理屈なら全身を巨大な鎧とし、自身は胴体部で装着すればそのまま動きが適用できるのではないかと思った所、意外と簡単に実現できたのである。
もっとも訓練を数度行った程度で、実戦での運用はこれが初だ。
『まあ、思うままに動かせるのは分かっているがの!』
光を放つその身体が、巨体に見合わぬ身軽さを持って虚空を駆ける。
ここまで出力が上がって来ると、踏み込みだけで大地が弾け飛び足場としての反力を返せない。故に先代は翼を用いての航空機動を選択しているが、自分は格闘主体の為、スラスターによる浮遊だけでなく、踏み込みや踏ん張る為の足場が欲しい。
それ故、駆ける。
足裏に魔力で出来た足場を展開し、それを踏むことで虚空を駆け抜け空を征く。
「行くぞ!」
正面、突撃と共に振り下ろされた巨剣を、真正面から光槌と化した拳で迎撃する。
激音と共に光の飛沫が弾け、威力の拮抗した互いの一撃は勢いを相殺された。
「ぬ――ッ、流石は師匠! 聖剣の出力では負けるか!」
一見互角に見えるが実体は異なる。あちらは背の翼で加速を行って居るとはいえ、本質的には浮遊状態だ。対して足場を形成して踏ん張りを利かせている自分の方が遥かに一撃に芯が通る。
それだけ有利な状況にも関わらず此方の一撃が相殺されたと言う事は、聖剣自体の威力でこちらが負けていると言う事であり、それこそが彼女が歴代最強と言われた理由でもある。
「ははは! 安心したぞ、見た目倒しという訳では無い様だな馬鹿弟子!」
空中で翼の一振りで切り返し、左からの薙ぎ払いで放たれた剣閃を自分は回避。足裏に展開した足場を蹴り、側転に近い動きで巨剣の上を乗り越えた。
風と言うのも生温い、壁と形容すべき剣圧に体が押しのけられるが、装甲にダメージは無い。そのまま体が一回転するまで待たず、地面と平行になる姿勢で足場を展開、突撃と共に巨剣を振り抜き動きの一瞬止まった先代へと拳を振りかぶる。
『カリバリオン・パアァンチ!』
「技名を叫ぶなァ――!」
却下、その方が気分が高揚するのでな。
放たれた拳は円柱機構による加速を経て先代の体を捉えんと大気を押しのけ突き進み、対する先代は即座に光剣を解除、パワーアームで掴むには小さいナイフの様になった聖剣を迎撃に振りつつ、直撃の瞬間に光剣を再展開した。
軽さによる速度に一瞬で巨剣の質量が重なり、衝突したこちらの腕が逆に押し返されるほどの反力が返る。
異常とも言える衝撃を、展開した足場へと踏み込みの要領で逃がしていくが、余りの威力に耐え切れず砕け散って行く足場を多重に展開、一枚でこの巨体の打撃を支える足場が五枚目にしてようやく衝撃を逃がしきった。
『なんだ今のデタラメな一撃!? そんなの出来るなら最初から使わんか!!』
足場用の術式は、状況と効果対象を限定し、『体を支える』事のみに特化させる事で防護術式を遥かに超える耐久性を獲得している。
だというのに、それを多重に展開しなければ耐え切れない威力の一撃とは、無法にもほどがある。
対し、此方の拳へと聖剣を押し当てる様に力を籠めた先代は、
「阿呆、この巨腕で本来サイズの聖剣扱うのがどれだけキツイと思ってるんだ、常用してたら手からスッポ抜ける」
『――なるほど、な!』
拳を開き、受け止めた聖剣を右手でグラップ、一瞬押し込んでから急速に引き寄せる事で僅かに師の体制を崩し、その隙を狙って鳩尾狙いで繰り出したアッパーカットは、背の剣翼を用いた前転倒立の様な動きで躱された。
「――至近なら有利だと思うなよ、馬鹿弟子!」
巨剣を握る両手を軸に、カポエラの要領で放たれた回し蹴りが自分のこめかみに直撃。
衝撃に緩んだ右手から巨剣が離れ、独楽のように旋回した先代が動きそのままこちらの胴を両断せんと巨剣を振るう、が、
『カリバリオン・パーージ!』
「んなぁ――――!?」
自分の掛け声とともに鎧が一斉に周囲へと弾け飛び、その残滓を蹴って上空へ跳躍すれば巨剣は眼下を通過していく。
「装着!!」
再度の掛け声に合わせて体を反転。倒立姿勢を取りつつ再展開された鎧を纏い、そのまま虚空を蹴ってパワーダイブを敢行する。
『カリバリオン・ハンムゥァアアアアァァ!!』
「――ちぃッ!!」
師が防御に翳した巨剣へと、両の拳が着弾する。
重力+踏み込み+伸縮機構=破壊力だ。何より相手は踏み込みによる支えを持たない、背の剣翼の出力だけでこの一撃を受け止めるのは、流石の彼女でも不可能だ。
「――――ぐうぅっ!!」
その身体が吹き飛ばされる様に地面へと落下し、着弾。半径数十メートルをクレーターとして抉り飛ばし、衝撃波に遥か彼方の城壁が洗われ、その表面に溜まった土埃が吹き荒れる。
見下ろす視界から警戒は解かない、
『あの程度で倒れる程、楽な相手では無いからな』
●
爆心地の中央、残滓として立ち昇る土煙を吹き飛ばし、巨剣を携えた女剣士が空へと昇る。
風に土汚れを散らしつつ、アリスは頬に浮かぶ笑みを自覚し言葉を放った。
「いい打撃だ! 久しぶりに目が覚めた様な気分だぞ、アーサー!」
『今ので無傷な辺り本当に化物過ぎんかね師匠!?』
「――そうでもない」
告げる己の額、冠とヴェールに覆われた赤髪の下から、より鮮やかな紅の色彩が滴り落ちて風に巻かれて大気に散った。
「相手からの攻撃で傷を負うなんぞ新兵の頃以来だ、褒めてやるともアーサー!」
『だったらさっさと倒れてくれんかの―――!!』
それに関しては御免被る。――何よりやられっぱなしは性に合わん。
「さーて、本気で頭かち割に行くか!!」
何、お前ならその程度で死なんだろ? ん?
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