第50話 本気の一撃
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結界の内側から二人の戦いを見つめていたマーリンは、蜜希が何をしたのか悟っていた。
「あいつ、地味に頭が回ると言うか、卑怯な手を思いつくなぁ!」
仕掛けとしては単純だ。先程最初にモルガンに肉薄した時、剣戟と同時に床に向けて設置型の罠の様な光弾を放っていたのだ。
後は戦いながらモルガンがその前に立つように誘導し、思考を制限したタイミングで背後から奇襲をかける。言葉にすれば簡単だが、それを実行に移す戦術の組み立てと、光弾の隠し方には舌を巻くしかない。
「まさか、結界が床と交差して光が濃くなっている部分に重なる様に置いておくとはね……」
光弾の直径は十センチほどだ、余程注意深く観察していれば気付けていたかもしれないが、自分もモルガンも、目まぐるしく位置を変える蜜希の動きに目を奪われていた。
その上、その一発以外の光弾は基本的に上から、それか左右からの曲射がメイン。後ろからの射撃は完全に自分とモルガンの意識から抜け落ちていた。
「くっそ、素直にやるなって感想が出るよ!」
とは言え感心してばかりも居られない。モルガンは背後からの衝撃に完全に体勢を崩しているし、未だ消えぬ水流の壁によって蜜希の居場所は分かっていないのだ。
だが、仰け反った姿勢のモルガンが、不意に水槍を多重に展開する。
「――――!!」
狙う先は水壁の上部。見れば、そこに蜜希の持つ神骸機装が最初に放った大技を放つ前段階である光球が見えていた。
左右と見せかけて上へと跳躍する。そうモルガンは判断しているのだろうが、背後から俯瞰的に観察する自分は、ふと、それが間違いだと気づく。
先程の様に、背後から背の中央に射撃すれば、モルガンの体は必然上を見上げる姿勢になるだろう。
だからこそモルガンは頭上の標的に気が付き、対応しようとしている訳だが、
――アレだけ正確に置き弾を当てた相手が、それに気づいていないわけがない!
故に自分はモルガンに否定の声を掛けようとして喉を開いた瞬間、見開いた視界は確かに蜜希の姿を捉えた。
しかし、それは左右のどちらでも、そして当然の如く上でもなく、
――正面!?
言葉通りの位置に、水壁を強引に抜けて現れた姿は、体の各所を浅く切り裂かれながらも、その右腕を大きく振りかぶっていた。
「――――モルガン!!」
●
「あああああああ!!」
フェイントとしてチャージ状態の『
左肘を起点に水壁をぶち破り、水流に肌を浅く切られながらも、突き抜け見据える視界の先には、自分が思い描いた通りバランスを崩しながら上へと攻撃を放つモルガンの姿。
視界の隅でマーリンが何かを叫び、モルガンがハッとしたようにこちらを見るが、此方の方が一手速い。
水壁はモルガンの至近に展開していた。ならば勢いそのままに突き抜けた自分は既に拳の届く距離にいる。
「――――!!」
「――――!?」
視線が、音を立ててかち合った。
加護によって引き延ばされた感覚の中、自分は聞こえているかも分からない言葉を放つ。
「さっき、言ったっすよね?」
左足の踏み込みで大広間の床を震わせ、反動で己の体を整え、
「――まずは、アンタからぶん殴るって!!」
震脚から伝わる力に合わせて、振りかぶった拳を、腰の捻りと共に前へと打ち出すと同時、右足を強く踏み込み、力の芯を通してインパクトの全てをモルガンへと叩きこむ。
狙いは鼻先、顔を殴る事に抵抗は微塵も存在し無い。渾身の力で直撃した拳は、人の身でありながら確かに神格の体へと威力を通した。
直撃。
「ぐッ―――――!!?」
衝撃に、モルガンの体が後方へと勢いよく吹き飛ばされる。
だが、その瞳は確かにこちらを睨みつけ、彼女の足が床と接して擦過の響きを上げる。
「――この程度で!」
流石は神格、顔から血を流しながらも結界の直前で踏み止まり、翳した手の振りに合わせて水流がこちらを飲み込まんばかりに迫りくる。
「――――」
対する自分は、ただ軽く右手を掲げた。
何も握られていない、開いた手指に落ちてくるのは、チャージ状態で上に放り投げていた己の武装。
既に限界まで力を溜め込んだ光球が、真っ直ぐにモルガンへと突き付けられる。
「まさか、そこまで読んで―――!?」
疑問に対する回答は、力を伴い吹き荒れる。
「拡散レーザー『女神の光翼』、全弾纏めて御馳走するっす!!」
銃口から放たれ広がる幾本もの光の柱が、うねりを帯びた水流へと衝突し、それを掻き消すように喰らい尽くしていく。
水流全てを飲み干して、なお勢いを衰えさせない光の奔流は、開かれた竜の顎が閉じる様に螺旋を描き、モルガンの体へと殺到。
モルガンが咄嗟に展開した水壁が僅かに光を押しとどめるも、一瞬で貫いた螺旋はモルガンの全身へと直撃した。
「―――――――!!」
神格の体が結界へと叩きつけられ、役目を終えた光の奔流が、弾けるように霧散する。
後に残るのは、結果を為した武装を構える蜜希と、結界に背中を預けたモルガンの姿。
モルガンの体がもたれ掛かったまま崩れ落ち、座り込んだ姿勢となって、ピクリとも動かない。
それを見届け、蜜希は一つ息を吐く。
排気を行う武装を手の中で回し、握りしめながら振り下ろす。
視線を上げれば、その先に映るは光の結界。
「さあ、押して行くっすよ!!」
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