第49話 大広間の激突
モルガンに相対する蜜希は、一歩目から全速で踏み込んだ。
視線誘導で光弾を放つのに、正確に銃身を固定する必要はない。故に走りながら振り抜く腕の動きに合わせて射撃。
「行くっすよモルガンさん!」
狙いはモルガン、と見せかけて置いて後ろの結界だ。真っ直ぐモルガンに向けて飛翔する光弾の囲いを、やや手前で湾曲させて後ろへ通す、が、
「――そう来ると思っていましたよ!」
モルガンの展開した水流の壁が、下から光弾を遮る様に起立。激突した光弾はその場で弾け、光の粒子となって霧散した。
「――――!!」
流石にその程度はこちらも想定済みだ。故に第二射、三射と拡散誘導の光弾を鳥籠の様に湾曲させ、放つ。
対するモルガンも流石は神格。本人は微動だにしないまま、幾重にも展開する水流の壁が光弾を阻み霧散させていく光景は、幻想的な雰囲気すらも漂わせている。
「面倒です。余り傷つけたくはありませんが、少し眠っていてもらいましょう!!」
不意に走る寒気、何の確信も無い勘に身を任せ、迷わずに真横へと体を大きく跳躍させた。
直後、たった今自分が居たその空間に、下から間欠泉の如く水流が立ち昇った。勢いを止めぬ水流は天井へと至り、上階ごと突き抜けて吹き抜けを形成する。
と言うか最早その上の空が見えている大穴を見据え、
「ちょおい!? 眠るも何も、んなもん喰らったら永眠するっすよ!!」
「ご安心を、これでも回復は得意ですので。――死なない限りはどんな致命傷でも回復させて差し上げます」
ひどいマッチポンプがあったもんだ。
「そいつはお優しすぎて涙が出るっすね、ついでに水流で自分の頭を濯いで綺麗にし直した方が良いんじゃないっすか!?」
悪態を吐きつつも体は前に、少しでも光弾の出力をそのまま結界に届かせるべく接近、吹き上がる間欠泉を左右のステップで抜けて射撃を続行。
「随分と、嘗められたものですね!」
叫ぶモルガンの手の振りに合わせ、生み出された水流の槍が螺旋を描きながらこちらへと飛来する。
速い、けれど見えているなら対応は可能だ。身を屈め、こちらを追尾する槍が軌道を低くした瞬間、勢いよく体を起こす。
そのままでは腰のあたりに直撃するが、自分は床を蹴ってその身を上に跳ね上げる。
上体を起こした勢いに引かれ、その場で前に進みながらの後方宙返りを敢行すれば、槍は体の動きに沿う様に背後へ置き去られ、そのまま一回転して足が床に触れると同時、前へと体を弾き飛ばす。
「嘗め腐ってんのはどっちすか! 私を止めたきゃ、その五倍は密度を寄越せってんすよ!!」
再度左右に体を弾き、足元から発生する水流を躱す。前から迫る水槍は、躱せないものにだけ狙いを絞って光弾で穿ち相殺すれば、此方を殺す気の無い相手の攻撃は自分に届かない。
そうしながらも、常に結界を狙うのは忘れない様に射撃を連射。
こちらは攻め手、向こうは防ぎ手だ。こちらの有利は結界を攻撃することでモルガンの注意を逸らせることだ。
一発やそこら当たった所で結界はビクともしないが、数発を同じ個所に当てれば僅かに負荷を示す様に白く濁るのはこの短時間で証明済み、ならば――
「ゼロ距離で連射してから最初の一発をぶち込めばワンチャン行けるって事っすね!!」
叫び相手に自分の狙いを絞らせながら、拡散誘導の光弾を二度放つ。一射は直接正面に、二射目は上を狙って時間差を作る。
「――!!」
そのまま手を振り抜き、頭上に放った光弾に合わせる様に三射目を右に放ち、そちらにモルガンの意識が割かれた瞬間、形態を放射に切り替え、背後に放って身を加速、砲弾の様な勢いで自分はモルガンの懐へと肉薄した。
着地し、足裏が床を踏みしめると同時に、『
「形態変化、近接モード!!」
叫ぶ言葉に特に意味は無い。引き金を絞ると同時、銃口から放たれた光が銃身部を覆い、光の刃を形成する。
背後に流した希望の刃を下から脇を狙う様に切り上げる自分に対し、モルガンはその手に水流を直剣状に固定し、受け止めた。
「――っく!」
「まさか近接戦も行けるとは、意外とモルガンさんも武闘派なんすね!」
「それはこちらの台詞――です!!」
モルガンがこちらを振り払う様に剣を振り、自分はそれに押される様に後ろへ跳躍、銃形態に戻して放った光弾は、モルガンの生み出した水流に相殺された。
だが、
……仕込みは済ませた、後は何処で仕掛けるかっすかね!
再度接近するべく足を踏み込み、自分は光弾を連射、阻まれても構うものか、
「まずはモルガン、アンタからぶん殴るっすよ!!」
●
モルガンとしては、非常にやり難い展開となっていた。
……殺すわけにはいきませんし、何とか戦闘不能に追い込みませんと
相手は神話に連なる敵性存在でもない、本来であれば味方側の人間だ。その上敵対している理由が自分達の方に在ることもあり、出来る事なら無傷で無力化したい所である。
だが、それを許さない程に、この相手はやる。
「――――ッ!!」
背後の結界を守りながらというハンデがあるにしろ、こちらが常に後手に回る様に立ち回りを強いられているのがその証拠だ。
何せ、ありとあらゆる判断に迷いが無い。動いたその瞬間から、こちらの動作まで視野に入れて次の一手を思案してくるその途切れぬ動作は、竜皇の加護があるにせよ、今まで戦闘と無縁だった人間が行える動きとは思えない。
「そこッ!!」
「――させません!!」
結界へと放たれた光弾を水槍の群で相殺し、足元へと水柱を展開するも、相手は発生を見切った瞬間に回避に転じている。
そして再びこちらの懐に飛び込み、短剣と化した武装で放たれる剣戟に、こちらも水剣で応じ、数度切り結んで彼女の身体を後ろへ弾き、問う。
「――貴女、死への恐怖とか無いんですか!?」
返る答えは、即断の速さで叫び此方の耳へと届く。
「はっ! ――そんなもん、とっくの昔に蜥蜴の胃袋に捨ててきたっすよ!!」
嘘だ、と己は直感する。この相手は死を恐れていないわけでは無い、だとしたらもっと動作は荒み、こちらが付け入る隙も増えるという物だ。
故に、この相手は死を恐れていないのではなく、その恐怖を意識の支配下に置いているのだろう。
「―――!」
剣戟に合わせ、死角から水槍を放てば、即座に反応して距離をとる。その上水槍をギリギリで避けながら、こちらと背後に光弾を放ってくる徹底ぶりだ。精鋭の騎士でもここまでの反応をするものはそうは居ない。
下手をすれば、円卓の騎士にも匹敵しかねませんね……!
武装の性能や、加護による加圧も勿論あるが、それ以上に戦闘における勝負勘が優れている。
正直、自分は戦闘は得意では無いタイプの神格だ。湖の精にしろ、モルガンにしろ、直接戦場に出るタイプではないのだ。
それでも神格や、襲名者でもないただの人間に、ここまで苦戦するのは屈辱的である。
……いっそこの階層ごと吹き飛ばして――いえ、流石にそれでは死にますね。
それは最終手段だ、時間稼ぎをするだけでも充分。あと数時間は力の譲渡に掛かるとのことだが、持久戦なら疲労回復を自前で掛けれる自分の方に分があるという物。
そんな考えから、僅かに意識が防御寄りに移った一瞬を、この相手は見逃さなかった。
「――勝負!!」
真っ直ぐに身を低くし、光弾を放ちながら突き進んでくる姿に、自分は咄嗟に水流を壁の様に展開する。
数発の光弾が水流に激突し霧散するも、一瞬相手の姿を見失った自分の不覚を悟った。
水壁の左右、どちらから飛び込んでくるか、自分は一歩を下がりながら見極めようと――
「違う! 後ろだモルガン!!」
「えっ? ――ッ!!?」
突然のマーリンの叫びに疑問を抱いた瞬間、自分は、予期せぬ背後からの光弾の直撃を受けていた。
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