第43話 負けず嫌い




「だーもう! 遺骸の時の比じゃない数っすよこれ!!」


 多い、ひたすらに数が多い。地を覆う程のとかよく例えられるが、実際やられると正直引く。


 拡散誘導で上空の騎兵を穿ち、放射形態に切り替えて辺りを薙ぎ払う。開いた隙間に体を飛び込ませ、起き上がりざまに振り抜いて再度薙ぎ払いとか、無双ゲーやってんじゃないっすよ。


 まあ、現状は無双ゲーと言っても過言では無いのだが、自分の場合はワンミス=死に繋がり兼ねないオワコン仕様だ。必然集中力がガンガン削られる。


 だと言うのに――


『おーおー、すげぇ音してんな、ん? 何飲んでんのかって? ミルクマシマシの紅茶だぜ、チョコケーキにすげー合う。ウマーーーー!』


 先程から顔横に出現した術式陣がずっとこの調子である。


「うっわはらたつぅ! ククルゥちゃんそんなキャラでしたっけ!?」


『いやアタシも若干驚いてんだよ。こうして友達に自慢しながら食うのってスゲー美味く感じるのな、愉悦?』


 幼女に要らん概念が追加されている気がするのだが、おっと死霊が近い、しゃがんでスライディングで股下ぬけてー、すれ違い様に足払いしながら体を回してハイ薙ぎ払い!


「オッケークリア! これスコア表示あったら何連コンボ位っすかね?」


「あなたさっきからちょくちょく私に誤射してますから、その度にコンボ途切れてると思いますわよ?」


「何言ってんすかパー子、パー子に当てたらスコア加算っすよ?」


「薄々感づいてましたけれど、やっぱりわざと狙ってましたわねこの馬鹿!!」


 やっべ口が滑った。まあ狙ってるようで狙って無いと言うか、でも当たるとちょっとテンション上がるので少し狙ってる。食べるラー油かな?


『つーかこっから見てるとギラファのオッサンが見えねえんだが、別行動なのか?』


「いーや、さっきからバンバン映ってる筈っすよ?」


『あん? さっきから映ってるのってーと、蜜希とパーシヴァルと死霊と、後なんか黒い影みてぇな……』


『あ、おいまてまさか』


 そのまさかだ。


「いや、なんかギラファさんもテンション上がっちゃってて、さっきから黒い風にしか見えないんすよ。吹き抜けた後には死霊が消えて道が出来てるっす」


「アレ、間違いなく城壁の方のアグラヴェイン卿と討伐数で張り合ってますわよ。二人共仲がいいと言うか、何というか」




  ●



『こちらは今ので1500を超えたが、そちらはどうだギラファ?』


「こちら1600はいったな、二刀の分速くてすまない」


『おっと、貴様が話してる間に追加で500だ。すまんな、一刀のハンデでもこれでな、ん?』


「はっ、武具の加護頼りの割には抜かすじゃないか、アグラヴェイン」


『ふん、貴様とてアージェ殿の手製の翅が無ければ鈍足だろうが、なあギラファ?』


「なに、こちらはまだ本気の半分も出していないのでな」


『奇遇だな、こちらも三十パーセントと言ったところだ』

 

「そうか、こちらは二割程度だな」


『すまん、間違えた、十五パーセントだ』


「…………ならば」


『ここからは本気と言う事だ!』

 


  ●



「なんか、こっちも向こうも一気に死霊の浄化光が増えた気がするんすけど。」


 あとギラファさんの動きが更に激しくなった。なんか気付くと狙ってた死霊が搔き消えたりしている。


「……意外と負けず嫌いなんですわよねー、あの二人」


 パー子の呟きに、自分は周囲へと光弾の連射をばら撒きながら、


「意外と、っていうと、アグラヴェイン卿がここまで強いとは正直思ってなかったっす。見た感じ裏方よりかと」


 ギラファさんに当てないようにと言うのも難しいので、最早気にせず散発的に周囲と頭上の標的を狙いながらパー子に問いかけると、彼女は僅かに苦笑を零しながら、けれど放つ光槍の連射を止めずに言葉を放つ。


「速いと言う事は、それだけで強さに直結いたしますもの。円卓同士で戦った場合、だれも回避に専念したアグラヴェイン卿を捉えられませんわ」


 そのままパー子は身を回し、展開した光槍を花のように周囲に咲かせて投げ放ちながら、


「とはいえ本人曰く、『俺は長生きしている分有利なだけだ。純粋な武具の性能としてなら、明確な逸話を持つ者たちには及ばんだろう』とのことですけど、これ、武具の性能以外では負ける気は無いってことですわよねー」


 そうぼやきながらも、パー子の動きは先程よりも勢いを増している。


「おやおや、パー子も負けず劣らずの負けず嫌いじゃないっすか?」


「及ばずとも追い付こうと足掻くことは大切ですもの。蜜希だって、あんまりサボってると教官の横に立つなんて夢のまた夢ですわよ?」


「んな!? なんでそれを知ってるんすか!!」


 まだ誰にも言ってない筈なのに!?


「あら図星でした? ちょっとカマを掛けて見ただけでしたのに。」


 拡散誘導の全弾をパーシヴァルの顔面に誘導してぶつけてやった。


「へぶっ!? 顔は止めなさいな顔は!!」


「無い乳に当ててないだけ感謝するっすよー!」


「張っ倒しますわよこの馬鹿!!」


 おっと、これ以上は流石に逆鱗に触れてしまいそうだ。という訳で思考を切り替え、銃口を天に向けて叫ぶ。


「パー子、五秒!!」


「世話が焼けますわね!!」


 自分の意図を読んだパー子が横へと並び、光槍を多重に展開。掃射することで自分達の周りに安全地帯を形成する。


 それだけの時間を持って形成するのは、魔力を限界まで溜めた特大の一撃。


「ぶちかますっすよォッ!!」


 引き金を引き絞れば、直径一メートルを超えた光弾は上空へと昇り、まるで弾けるように篭められた力を発揮する。


 それは数百本にも及ぶ光の柱。敵を追尾し、刺し貫きながら衰えることなく次なる標的を追尾するその光景は、まるで天より遣わされた御使いの裁きの様な印象を抱かせる。


「名付けて、『女神の光翼』。蓄積した余剰出力を一気に放出する所謂ゲージ技っすから連発はできないっすけど、その効果は一目瞭然ってやつっすね!」


 放熱の排気を行う『希望』を軽く回し、即座に通常の光弾を発射する。


「これだけやれば、そろそろ親玉が来てもよさそうですけれど――」


 見える範囲にそうした予兆は感じられない。それは通信で伝わる城壁側でも同様の様だ。


「これだけやってもダメとなると、何等かのルールがあるのか、それとも純粋に数が多すぎるんすかね……」


「前者はまだしも、後者は勘弁してほしいですわ、ね!!」


 パー子が軽く跳躍しながら槍を掃射する。自分は彼女の動きを予測し、その着地場所に群がる死霊へと光弾を放ち、


「ったく、いい加減何か動きを――」


 そう呟いた瞬間、自分の体を庇う黒い影が出現した。


「――――ッ!!」


 ギラファさんだ。彼の構えた大剣に何か硬い物が高速でぶつかり、激しい火花と衝撃の硬音を響かせた。


「ギラファさん!?」


 注意を払いつつ覗き見た彼の体の向こう側、そこに居たのは、純白の体毛を靡かせ、金色の光を瞳に宿した巨大な獣。


「なんだなんだ、ワイルドハントに乗じてカチコミ掛けようと来てみれば、随分と懐かしいツラがいたもんだ」


 その姿を一言で表すなら、三メートルを超えた巨大な白猫だ。ライオンやトラと言うよりも、ヒョウやジャガーの様な細身でしなやかな筋肉をした怪猫へと、ギラファさんが明らかな殺意を籠めた視線を送る。


「キャスパリューグか、五百年前に逃げ帰った臆病者が、今更になって仕返しに来たのかね?」


「けっ、忘れたなぁ、んな昔の事なんざよ!!」


 腕に力を籠めたギラファが、キャスパリューグの巨体を物ともせずに跳ね返せば、キャスパリューグは後方への宙返りで身を回し、着地。


「さて、いきなりだがキャスパリューグ。貴様は1つ、決定的なミスを犯した」


 そのまま静かな動作で両の大剣を構えるギラファの姿が、不意に霞んだ。


「アァ? ――!?」


 咄嗟に飛び退いたキャスパリューグの居た空間が双の斬撃に切り裂かれ、その白い毛並みの首筋に浅い断裂と赤い液体の筋が浮かぶ。


「蜜希を不意打ちで屠ろうとしただろう、貴様」


「蜜希? ああ、そこの変な女か、雑魚から減らすのが戦いの基本だろうが」


「そうだな、確かにその通りだ。だが、」


 告げる。


「貴様は、私の最も大切な存在を失わせようとした。――楽に死ねると思うなよ、化け猫風情が」


 ――え? なにこれご褒美タイムっすか?

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