第44話 急変
蜜希は、状況の深刻さとは別に、ちょっとギラファの言葉に赤面を隠せずにいた。
……いやいやいや、流石に啖呵切りながらのさっきの発言は破壊力高すぎっすよ!
文字通りに顔から火が出そうな昂りを、手近な死霊共にぶつけて発散する。
はいそこー、邪魔っすからちょっと成仏してくださいねー? んー、君は騎兵かー。よーしよしこっち来ーいこっち来い、はい並んで纏めて貫通レーザー入りまーす! ありがとうございましたーっす!
『―――――!』
おっと剣持ちの死霊が近い。はい君、足払いするから膝付いてー、ハイ背中借りるっすよー。
飛び上がり際に首に蹴り入れて浄化して、空中で身を捻って眼下の死霊に拡散放射。スプレーみたいに見えるけど要は衝撃波で砕いてる感じっすよねこれ。
「ふいー、大分落ち着いて来たっすねー」
「蜜希、貴女いま滅茶苦茶変態的な機動で死霊一掃してましたわよ?」
自覚はある。何気に普通に蹴りで一体処理していたし、これも竜の加護のおかげかそれとも女神の欠片によるものか。
「あー、テンション上がると加護も調子いいっすからね。はいそこの死霊さん方、こんにちはそしてクタバレ!」
我ながら頭どうかしてるんじゃないだろうか。挨拶されながら頭を撃ち抜かれた死霊君には同情を禁じ得ない。はいそこ、一緒に仲良く浄化されましょうねー、逃げんな!
「まあ討伐速度が上がるのは喜ばしいですけれど、教官がキャスパリューグに掛かり切りなのが痛いですわね」
確かにそうだ、あのヤンキー化猫、口調のカマセ臭に反して滅茶苦茶強いっすよ。
死霊へと光弾を放ちながら視線を向けた先、黒と白の軌跡が混ざり合うほどの密度で目まぐるしく戦場を駆け巡っている。
「――――!!」
ぶつかり、交差し、斬り結んではまた弾かれる。
二刀の大剣で吹き荒ぶように斬撃を放つギラファに対し、キャスパリューグの得物はその四肢に生えた鋭い爪刃だ。
「―――ッ!」
獣の如く襲い掛かるだけかと思いきや、巧みな足捌きやフェイントの数々、時には幻影の様な物まで使った搦手を用いて戦う姿は、何処か美しさを感じるほどに洗練されている。
そうして思わず見惚れてしまっていた自分に対し、パー子が周囲の死霊を牽制する様に光槍を放って浄化の光を連続させて、
「キャスパリューグは、五十年ほど前に私の先代のパーシヴァル卿を撤退に追い込んだこともあるそうですわ。他にも何人もの円卓の騎士と戦いながら、千年以上の時を生き抜いてきている精霊種。決して楽な相手ではありませんのよ?」
精霊種と言うと、敵性存在の中でも上位に位置する、疑似神格とでも言うべき不滅系種族だったか。
たしかこの前のトゥルッフ・トゥルウィスもそうだった筈だが、死ぬとある程度の記憶を引き継いで蘇ると言うトンデモ種族だ。
一応強さはリセットされるらしいが、記憶を受け継いでる時点で戦闘経験などは蓄積されるわけで、なるほど、あの洗練された動作も納得というもの。
「まあ、向こうはギラファさんに任せるしかない訳っすから、私達は少しでも多く死霊を片付けるっすよパー子!!」
「言われなくともそのつもりですわ! 援護しなさい、蜜希!!」
そう言って走り出したパー子の動きが変わる。どちらかと言うと動きを抑え、端から死霊を減らして行くような動きをしていた今までに対し、今度は両手に光槍を携え、直接死霊を切り裂きながら、辺りに展開した無数の光槍に指先だけを触れさせ投射していく。
「援護って、そういう事っすか!!」
当然、今までの様に狙いすました投擲という訳にはいかない。変わらぬ数を射出し続けながら、直接の体捌きも交えて死霊に斬り込んでいるのだ、撃ち漏らしや狙いの甘い物が多くなる。
それを自分がカバーする、今まで通りに死霊へ誘導弾を送るのも忘れずに、パー子の対応し難い位置にいる死霊や、視線から外れているだろう位置へ援護の射撃を送り、時には光槍に当てて軌道を調整する。
竜の加護を現在の限界まで高めてなお、頭が焼け付くような速度で思考を巡らせながら、自分は光弾の誘導座標を設定していった。
……一から八まで魔力誘導、九と十は光槍の軌道を先読みして微調整しつつ跳弾で死霊へ。残りの十はパーシヴァルの死角から回り込んで来てる騎兵へ視線誘導、それが終わったら放射に切り替えて自分の周りの安全確保!
流石に負荷が高すぎると判断したと同時、不意に顔の横にククルゥちゃんを映した術式陣が展開した。
『蜜希! 索敵術式と照準術式の制御を寄越せ。アタシとフィーネで死霊の動きを予測して重点目標にマーキングする。騎兵の進路予測もするから多少は楽になる筈だ!』
ありがたい、即座に許可のアイコンを押せば、通信を介した情報が一斉に表示される。
少し表示が多くて見難くなったが、それを補うには十分なほど有用だ。死霊への座標指定はそちらからの情報に任せ、こちらはパー子の光槍の軌道修正に思考を多く割けるようになる。
「――おおおおォ!!」
それを察したのだろう、パー子の光槍が更に多重に展開する。無論狙いは不正確になるが、当たれば大抵の死霊は片が付くのだ、当たらない物だけを自分が軌道修正してやれば、死霊の殲滅速度は目に見えて上がっていく。
「このまま押し切れれば、親玉も出てくるってもんっすか!」
そう思いかけた瞬間、通信の向こうでフィーネの声が響いた。
『緊急です! マーリンとモルガン、モードレッド卿が突然造反、アーサー王を拘束したとのことです!!』
「はあああ!?」
この局面で叛逆とか、一体何考えてるんすかあの馬鹿どもは!!
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