第28話 恋慕①
私、渚アカリは、あてどもなくとぼとぼと廊下を歩いていました。
春香さんの辛い顔を見て、差し出がましいことを言ってその春香さんを苛立たせてしまいました。
いえ、辛かったのは私だ……と歩きながら自覚します。
春香さんの気持ちが雪也さんだけに向いているのが、たまらなく羨ましくて嫉妬したんです。
春香さんと初めて出会ったのは、体育教師の泉田に呼び出されて脅されている時でした。更衣室での着替えの動画をネットにばらまくと言われて気が動転して……もう逆らえないと思っていたところに、なんということもなく春香さんが日誌を持って入ってきて、私をその部屋から連れ出してくれました。
「別に助けようと思ってたわけじゃないわ。たまたまの偶然であなたがいただけ」
「先輩……」
「綺麗で大人しそうで逆らわなそうだから狙われたのね。動画の方は私が処理しておくから心配しなくていいわ。これも私の勝手」
「ありがとう……ございます……」
「あ。あと、あの善人面しているワイセツ教師が目障りだということはあるわね。ワイセツなのは私も同類なんだけど、人間風情と一緒にして欲しくないという気持ちもあるから」
先輩は、そうよくわからない事を言って、ニコッと微笑んでくれました。
私は感謝と感激で、ただただ先輩を見つめていました。
今、溢れる暖かさで心が満たされている。今まで生きてきたこんな想いを味わったことはない。そういう感情で心が溢れていました。
ごく普通の家庭、ごく普通の裕福度で育ちました。
内向的な私は小さい頃は目立たない少女で、大人しく教室の隅で縮こまっていました。
でも、たまたま目鼻立ちが整っていたからでしょうか。中学に上がってからは、男子に呼び出されて告白されることが多くなり……。いつの間にか『お嬢様』という扱いになってしまって、内気な私はそれをどうすることもできなくて。
ただただ生きづらいと思う学園生活にじっと耐えてきました。
でも、私はやっと巡り合えて、出逢ったんです。春香先輩と。
それはきっと絶対に、運命の出逢いだと思っていて、その時も今でもそう信じています。
この時を境に、春香さんから目が離せなくなりました。
休み時間や昼休みには、春香さんを見てその姿で癒される為にこっそりと二年二組に通いました。
下校は春香さんの時間に合わせる様にしました。
春香さんのマンション前に隠れて、春香さんが出入りするのをずっと待っている毎日になりました。
春香さんが、夜中に男子生徒と公園で……キスをして……そのままの流れで二人カラダを重ねて……というのを初めて見た時は、驚いてびっくりして、ただただ隠れてその様子を見つめながらも目を離せないで息を飲むことしかできませんでした。
春香さんが親友として付き合っている雪也先輩。春香さんの気持ちが雪也さんにあることは最初に二人が一緒にいるところを見た時に瞬時に理解しました。
春香さんは雪也さんだけを好意の対象として見ていました。
雪也さんだけを恋慕の対象として見ていました。
友人として振舞っていながら、心は雪也さんの愛情を求めていました。
だって……。雪也さんと一緒にいる時だけ春香さんは輝いていたから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます