第23話 索敵
春香たちを追ったアカリさんと雪也。
私――逢瀬翠――はひとり部屋に残されて、思惑する。
雪也の安全を確保するためにはすぐにも追うべきなんだけど……この事件の黒幕であるナイトメアの出方を伺い、正体を突き止め、その目的を知らなければならない。でなければ、ここから出て雪也とパートナーになることも敵わない。
物理室を出て、雪也の後を追う。
春香を襲った通りに、先輩が犯人のナイトメアなのだろうか?
でも仮にそうだとして、目的、意図がわからない。
私たちを閉じ込め、先生を殺し皆の面前で春香を襲って……。意味が解らない。
殺意があるのなら、個別に夜の道ででも襲撃すればいいのだ。正体を晒さずにそれが出来るのがナイトメアだ。
廊下の端にまできて階段を昇る。
三階に上がった。
教室が並んでいる廊下を、聴覚を研ぎ澄ましながら進む。と、廊下に椅子が転がっていて、「どがんっ」という音が響いて……その部屋を見やる。化学室だ。
扉に駆け寄り隙間から中を伺うと、雪也が先輩をねじ伏せている。その後、助けられた春香さんが雪也に駆け寄って胸に跳び込む。
正直、怪訝だと思った。イケメン先輩の能力が低すぎる。
イケメン先輩の能力はナイトメアとは到底言えない。
どういうことか?
わざとなのか?
それも理解不能だ。
春香と雪也の心の交流が始まった。当然の流れだろう。暴漢から助けられた春香は雪也に感謝してもしきれないはずだ。さらに春香と雪也は二年生開始時からの付き合いで積み上げてきた気持ちもある。
春香が雪也に告白した。少し心がちりちりして、ぎりっと奥歯を噛みしめた。
これが嫉妬だということは理解している。
割って入りたいという気持ちがはっきりとある。
でもそれが無粋だという判断もあるし、ここで介入しても邪魔ものにしかならないだろう。逆に、雪也と春香の繋がりを強固にしてしまいかねない、という計算もある。
我ながら嫌な女だと……思わざるを得ないが、込み上げてくる感情はどうしようもない。
ぎりぎりと刃を噛みしめながら、中を伺い続ける。
春香が雪也に迫る。――と、春香が唇を噛み切る。雪也に『パートナー』になる事を要求する。なるほど。そういうことだったのか、と腑に落ちる。
春香が雪也に求めているのは、ナイトメアの契約のキスだ。
春香こそが、ナイトメアだったのだ。
私は跳び込もうとしたが、雪也が最後の最後で拒んだので、踏みとどまった。
突入すれば、雪也を巻き込んでのナイトメア同士の肉弾戦闘になるだろう。そうなれば、私では格上だろう春香に勝てる可能性は、ほぼない。でも雪也が春香の手に落ちてしまったら元も子もない。
私は部屋内の様子をじっと注視しながら、身体をいつでも動ける様に態勢を整える。
私は、跳び込む機会を伺い続ける。
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