第22話 変化
「そう。ここまでやってもダメなのね」
つぶやいた春香の雰囲気が変わった。
目を細めて、唇の端をふふっと少し吊り上げる。
なんというか、邪な色が、その優しかった表情に混ざり込む。
まるで淫魔がこれからモノにしようとする獲物に向ける様な笑みを、その美麗な顔に浮かべる。
「なら……もともと搦め手は好みじゃなかったし、もっと好きにやらせてもらうわね」
「……え?」
「悠馬っ! アカリッ!」
春香が呼ぶと、今まで床に倒れ伏していた先輩がむくりと起き上がり幽霊の様に近づいてきた。
同時にアカリさんも寄ってきて、僕を両側から拘束する。
混乱している僕は椅子に座らされた。
どこにそんなものがあったのか、アカリさんが取り出した手縄によって、後ろ手に拘束される。
「悠馬。アカリ。もういいわ。下がって」
己を失って操られているという様子の先輩。対してアカリさんは、いつもの深窓の令嬢という感じじゃないんだけど、しっかりとした自我があるという感じ。
「行きましょう、先輩。春香さんの邪魔です」
そして二人、先輩はアカリさんに連れられて、隣の部屋、化学準備室へと下がっていった。
春香が、僕の対面に椅子を置いてそこに座る。
制服のスカートから伸びている白くて綺麗で色っぽい脚を見せつける様に、妖艶な仕草でそれを組む。
「イケメン先輩は私の『スレイブ』。チャームの能力で私の下僕にしているの。まあ、わかりやすく言うと、操り人形ね」
春香は少し可笑しいという調子でふふっと笑う。
「対してアカリはスレイブじゃないわ。その必要もないの。アカリは……私の愛人の一人」
「愛人……って……」
「特別な単語じゃないわ。本当に普通の意味での愛人」
「それって……」
「私を好いてくれているという意味。ココロとカラダの関係という意味。アカリは自らの意志で私の愛人になってくれたの。まだアカリのカラダは味わってないけど……」
僕は、その、淫魔に魂を売り渡して雰囲気が百八十度変わってしまった様な春香を見て……。口内に溜まった唾液を飲み込む。
ゴクリとした音が鳴って、春香は満足気にその僕を見つめてくる。
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