第21話 告白

「ずっと好きだったの」


「!」


 僕は驚いて春香を見つめる。


「親友というのは心地よい関係だったけど、でもずっとその先に進みたいと思ってて。私は雪也君のたった一人の恋人になりたくて」


「そう……だったんだ」


「うん。この状況で言うのズルいって思われるかもだけど、でも今言いたくて。本気も本気の大真面目」


 まだ少し驚きの中にいる僕に、春香が顔を近づけてきてその目をつむる。そして……ちょっと予期してなかったことだったんだけど、春香が自分で唇を噛んだ。血が滲んで、春香が自らの舌を使ってリップを薄紅色に染める。


 え? と少し思ったんだけど、春香の白く綺麗できめ細やかな肌はもう目の前にあって、その甘い息が僕の鼻から入り込んで脳髄をとろかせる。


「私と唯一無二のパートナーになって」


「春香……」


「私は雪也君のココロが欲しいの」


「心……」


「私のパートナーになって。ココロの底から同意して」


 春香の、その赤く綺麗な血に濡れた唇はもう触れそうな距離にある。


 頭がぼんやりしてくる。


 思考が溶けてゆく。


「雪也君……。同意して……」


 その僕の視界に赤く光った春香の瞳が映って……


 意識が霧に包まれ……


 もう……あまりはっきりとは考えられなかったけど……


 その瞬間に僕の脳裏にフラッシュバックした映像があった。


 月に照らされた長い漆黒の髪。黒真珠の瞳。綺麗な横顔。


『私は返事を聞きに雪也の前に戻ってきたの』


 そしてその翠の口から出た『パートナー』、『同意』という単語。それが『ナイトメア』という言葉に収れんしてゆく。


 僕はハッとして、思わず春香の肩を持って遠ざけた。


 とっさの判断というわけじゃなくて、脊髄で行うような反射だった。


 春香が驚いたという顔で見つめてきた。それから再び僕に顔を近づけてくる。


「雪也君。私のパートナーになって」


 今度は頭で考えて心で判断するだけの少しの余裕があった。


「ご……めん……」


「え……?」


「ごめん。その……春香に深い意味はないのかもしれないけど、その、パートナーってのには……なれない」


 春香が、僕の反応に納得がいかないという様子で押し黙る。


「いや、春香の事が嫌いだってわけじゃないんだ。春香の恋人ってすごく魅力的だと思う。けど……」


「けど……?」


「パートナーっていうのには……。僕と春香の一生の事だと思うし、パートナーになってと言われたもう一人の相手にもまだ返事をしてないし……。ごめん」


 僕は素直に謝った。


 深いことを考えていた、想像していたわけじゃない。でも、春香が自らの唇を赤く濡らした行為と、その『パートナー』という言葉が、どうしても心に引っかかったのだ。


 ――と、


「そう……」


 ゆらりと……春香の雰囲気が変わった。

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