第14話 犯人

 今、家庭科室には五人いる。


 僕、翠、春香、先輩、アカリ……


 恐怖の図書室から逃げ出してきて。この家庭科室という城の中に逃げ込んできて、一時間ほど経つ。


 この中の誰かが……ばったりと出くわすかもしれない。


 学園内に隠れている、先生を殺した犯人と。


 この中の誰かが……狙われているのかもしれない。


 学園内に隠れている、先生を殺した犯人に。


 そしてもし誰かが狙われているとしたら、その誰かから離れた方がいいのではないだろうか? という嫌な考えも浮かんで、慌てて打ち消す。


 皆怖いのだ。泰然と感情を乱さない翠を除いて。だからみんな一緒の方がいい。そう思い直す。やっぱり僕らは二日ばかりだけど共に生活した仲間なんだと、互いを見つめ合う。


 校舎の探索は行った。外に出られないかと出口を探し、何か役に立つものはないかと物置を探った。その間、僕ら以外に人は見かけなかった。


 でも……校舎に隠れられそうな場所はいくつもある。そのどこかに潜んでいる殺人鬼――たぶん翠が言っていた『ナイトメア』――が……いるのだ。


 僕らは身を守らなくてはならない。だからこれからは一緒に行動して、互いを助け合い、身を寄せ合って行動するのだ。


 そしてこの結界から無事脱出する。たぶん、その為に僕ら五人は一緒になったんだ。今だからそう思えるし、一緒なのが心強くもある。


 みんなで脱出しよう。僕も翠も……そしてみんなも。そう強く強く心に念じた時に――不意にスマホの着信音が響いた。


 春香がスマホを取り出して耳に当てる。二、三、会話してから、「ちょっと待ってください」と言ってスマホをテーブルの上に置いて、音声モードをオンにする。


 スマホから声が響き出した。


「港南警察署の佐伯です。泉田さんが電話に出ないので芳野さんの方へおかけしました。みなさん、体調はどうですか?」


「「「「「…………」」」」」


 誰も説明しなかった。先生の身に起こったことを。


「それでですね。こちらもどうやって皆さんが閉じ込められているのか、未だに状況を把握できないのは申し訳ありません。全力を尽くしてはいます」


 またも、みんな答えなかった。


 電話の声があとに続く。


「それで……確認できたことがあるのでご報告を」


 いったん間が開く。部屋は水を打ったように静寂だ。


「学園関係者への安否確認は終わりました。皆さん以外の方はみな無事です。閉じ込められているのは、みなさんで全員です」


「……え?」


 春香の漏らした声だったが、僕も一瞬わからなかった。警察の人の言っている言葉の意味がわからない。


 春香が、警官に問いかけた。


「それって……」


「はい」


「校舎内には……私たちしかいないって……」


「はい、そうなります」


 返答の言葉に、みんな息を飲んだ。


 警察官の言っている意味がわからない。というか、そのままは理解できない。


 案の定、春香が警官を否定しにかかった。


「そんなことは……ないはずですっ! 私たち以外にも誰か、閉じ込められているはずです! だって……そんなこと……」


 警官の落ち着いた返答が返ってくる。


「学園周囲の防犯カメラの映像は全ての時間帯で確認しました。文教施設なのでカメラに死角はありません。他、スマホの位置情報やインフラ設備の使用状況等を総合的に勘案した上での警察署の結論です。閉じ込められたのはみなさんがた六人だと判断しています。他にはいないというのが、こちらの結論です」


「そ……んな……」


「すいません。みなさんにはもう少しだけお時間をいただきます。必ず助けますので、もうしばらく頑張ってください」


 そしてこちらが無言の時間がしばらく続き……


 電話は向こうから途切れた。

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