第10話 閉鎖空間

 翌日。全員が起きたのは九時を過ぎてからだった。


 僕が目を覚ました時、先輩はまだ寝ていたけど、代わりに翠と春香と先生はもう起きていて、春香と先生が分担をしてテキパキと朝食の準備をしている所だった。


 布団から抜け出して大きく伸びをする。


 春香が先輩を起こし、僕も顔を洗ってから食卓につく。


 トーストと紅茶だけのモーニング。でもこんな状況だから食べ物があるだけで十分だと思わなくちゃいけない。


 用意してくれた春香と先生に心から感謝してみんなで『いただきます』。


 朝食を終えて空腹を満たしてから、僕らは昨日の夜に続いて二手に分かれて校内の探索を始めた。


 昼過ぎに一同、基地というか根城にしている家庭科室に集まって各々の報告。そして昼食を挟んでまた今度は組替えをして校舎に出立する。


 夕暮れの六時になってみな再び家庭科室に戻ってきて、夕食時に一日の報告会を行った。





 結果、確認できたこと。


・今いる四階建ての第一校舎からは出られない。窓からも出入り口からも。


・屋上には出られるが、周囲はやはり壁に囲まれていて飛び降りることはできない。


・僕ら六人の他に校舎内に人気はない。現時点で他に人は見つかっていない。


・学園の周囲にはパトカー、救急車、消防車等が並んでいる。


・スマホで警察とは随時連絡を取っているが、警察も状況を把握しきれていない。


・食料は節約すれば一か月程は持つ。最後の方は米と具のないみそ汁だけになるだろうが。





 纏めると以上のような感じだろうか。


 指摘した通り、外部の様子はわかる。スマホは通じるし、電気ガス水道もそのまま。昼夜もわかるし、太陽の光や星の明かりは入ってきて息苦しいということもない。空気の出入りもあるということだ。


 つまり、人間だけを閉じ込める、いわゆる伝奇小説とか異能力漫画にあるようないわゆる『結界』そのものなのだろう。そう認識せざるを得ないし、それが一番しっくりくる。


 で、これが人間を閉じ込める結界だとして。犯人が翠の言うナイトメアだとして。翠はこの大規模な結界を維持するためにそのナイトメアがどこか校内に隠れていると確信しているんだけど……


 今日一日僕らが校内を隅々まで探索しても、他には誰も見つからなかった。たぶんその犯人のナイトメアは、僕らが見つけられない場所に隠れているということなのだろう。例えば隠し部屋、だとか。


 つまり、探索を詳細にしてゆく以外に僕らには状況を打破するためにできることがない。


 今すぐどうこうということはないんだけど、このまま時間が過ぎてゆくとおそらく体力精神力的に追い詰められてゆくのは避けられない。


 ちょっとどうしようもなくて、家庭科室に集まっている僕らは、鬱になってしまいそうだ。


 でも……。「大丈夫。なんとかなるから」という春香の明るく朗らかな音程でみんな癒される。「女の子の勘。信じて」と、にこっと笑う春香に僕もみんなも元気をもらう。


 こういう時にも落ち込まないで前向きなのが春香の一番のいいところだって、学園入学以来付き合ってきて改めてじんわりと再確認して感謝する。


 その晩も、二教室に別れて、みんな眠りについた。

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