第8話 夕食①
始めは落ち込んでいたみんなだけど、一緒に料理しながらの会話をするにつれ、気分も和らいでくる。
少しずつ会話が弾むようになり……
最後にはみんなでワイワイ言いながら……
一緒に作ったのはチキンカレーライスだった。
ついでにツナサラダとお新香もある(お新香はカレーに合ってないかもだけど、冷蔵庫に入ってたからついでに)。
料理部が数日内に使うつもりだっただろう足の早い食品なんだけど、もったいないので先に消費しようという意見があったのと、春香に「今日くらい楽しくやろうよ」と押し切られたのが主な理由。
なんというか、キャンプとか泊りがけの外泊での食事の定番。それも、結構豪華な夕食。
テーブルに六人一緒に座って『いただきます』。
わいわいとにぎやかな夕食が始まった。
「このじゃがいも、ほくほくしてて美味しいね、雪也君」
「味付けは春香だったっけ。おいしいね」
「確かにうまいけど……俺はニンジン入れるの反対したジャン……」
「えー。人参、いるじゃないですか、先輩?」
「いらないから、ニンジン。この世からなくなっていいから」
「えー。酷くないですか、それ?」
ニンジンを嫌った先輩に、春香が笑いながら頬を膨らませる。
「サラダは翠さんと雪也君の当番だっけ? 和風醤油ドレッシングがいい感じ」
「いや、それは僕らが作ったんじゃなくて冷蔵庫にあった出来合いのものだから」
「そうなんだ。でもサラダ美味しいよ。ねえ、翠さん」
「…………」
翠は会話を振った春香にありがとうというわけでもなく、無表情な素振りで何も答えない。春香の言葉を当然だという様子で受けながしている風。
なぜかって、翠はサラダ造りに一切タッチしていないから。
僕と翠がサラダ当番に決まった際、「私、結構長い事このセカイにいるけど家事とか料理は一切してこなかった、というかできないから」と私はぜんぜん悪くなくて問題もないからとそっぽを向いて、「えー」と驚いたのが少し前。
「なら今までどうやって暮らしてきたの?」という言葉が喉まで出かかったけど、それを抑え込んで「まあ人には向き不向きがあるよね」と、僕一人でツナサラダを作ったのが本当の所。
なのに、翠は春香に真実を告げるでもなく、泰然と悠然と振舞っているのが興味ないのかプライドが高いのか。そこのところはどうなんですか、翠さん? と僕がじっと見つめると、目を細くして睨んできたのが完璧美少女にしては弱点を隠し切れてなくて、魅力的にさえ思えて、翠には悪いんだけど上から目線になってしまうのだけど正直可愛いなって思えたりして……。言わないけど。
「でも、雪也君と翠さんが一緒なの、正直よかったって思ってるんだ」
春香がサラダを食べ終えた後、僕と翠に会話を振ってきた。
「一緒に閉じ込められたのがよかったとか、ごめんだけど……」
「いや。ぜんぜん謝らなくていいから」
「でも知り合いというか親友が、それも雪也君と翠さんと二人も一緒なの、安心してるんだ」
ふふっと、春香は落ち着くんだ、という笑み。
「そうね」
翠が、無言で口に運んでいたスプーンを止めて、その春香に返した。
「この状況は……正直迂闊だったと思ってるけど、全く知らない人と一緒だったら私と言えどもストレスになるのを否定する自信はないわね」
「ちょっと、翠さんの言い方、難しい……」
「春香と一緒で嬉しいって言ってるの」
「やっぱり。えへっ」
落ち着いた表情を少し和らげた翠と笑った春香が、二人で笑みを交わす。
そこにイケメン先輩が割って入ってきた。
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