第255話  エミリーに助けられちゃう、ぽっちゃり


 アリアちゃんとイリアちゃんのお給料問題に終止符を打つ一言を発した。

 この国ではどうやら『見習い』という位置にいる人には適正なお給料が渡されないらしい。

 まああくまでも見習いである以上、本職のプロと比べたらどうしても技術や能力面に差が出てしまうから、ある程度の賃金格差は仕方ないかとも思うけど……。

 まだこの世界に転移してきてから一ヶ月も経過していない。

 そのためわたしの中には日本の労働観が根強く残っているため、『見習い』の人を一日働かせて銀貨一枚、日本円で約千円くらいの賃金しか渡さないというのは違和感が凄まじい。

 だからわたしはアリアちゃんとイリアちゃんに一万円相当の価値がある金貨を手渡したんだけど、どうしても受け取ってくれないので、このように提案した。


「わたしが手渡したその金貨は先払いってことにしといてよ。とりあえず十日間くらいお店を手伝ってもらうから。それなら相場通りだから問題ないでしょ?」


 これなら万事解決かと思ったんだけど、一拍置いてアリアちゃんがおずおずと答えた。


「コ、コロネさん。でもそれは……」

「大丈夫だって! 見習いの人が貰うお給料は日給で銀貨一枚なんでしょ? それなら十日働いてもらったら金貨一枚にグレードアップされるのは当たり前じゃない!」


 わたしの説得に、隣のエミリーが補足してくれる。


「えっと、コロネ様。一応お伝えしておきたいのですが、見習いの方に日給で銀貨一枚というのは、いわばMAXの金額のお話です。雇用主の中にはそれくらい太っ腹な方もいらっしゃるという程度の意味合いであって、より一般的かと言われると人によっては受け入れられない部分もあるかと思います。見習いの方々の平均日給は銅貨三~五枚くらいになると思いますし……」

「平均そんなに低いの!?」


 銅貨は一枚あたり百円程度。

 つまり銅貨五枚であっても五百円でしかない。

 時給ならまだしも、日給でこの額はもはや小学生のお小遣いレベルじゃん!?

 仮に一ヶ月間毎日休まず働いてもたった一万五千円にしかならないよ!?


 しかも、今エミリーが言ったのはあくまでも『平均』だ。

 つまり、銅貨五枚よりももっと少ない金額、何なら無給で見習いの人を働かせている職場もままあるということを意味する。

 すっごいなこの王国。

 いや、さすがは異世界というべきかな。


 何だかわたしの旗色が悪そうなので再度奮起しようと思ったら、それより先にエミリーが続けた。


「――ただ、今回はコロネ様のお気持ちを素直に受け取っていただいても良いのではないかと思いますよ。アリア様、イリア様」

「「エ、エミリーさん……」」


 エミリーの言葉に、アリアちゃんとイリアちゃんは同時に答えた。


「エミリー、わたしの味方を……!?」

「はい。そもそも、これは味方とか敵とかのお話ではありませんから。コロネ様のお気持ちをありのまま相手に受け取っていただけるかどうかの問題です。私はそのお手伝いを少ししただけで」


 エミリーはニコリと笑った。

 そんなエミリーの姿を見て、アリアちゃんとイリアちゃんは意を決したように顔を上げ、わたしに駆け寄ってくる。


「あの、コロネさん! コロネさんのお気持ちは分かりました! 私、この金貨一枚、慎んでいただきます!」

「コ、コロネさんのことを疑ってしまってすみませんでした……! 私もありがたくお受け取りします……!」


 アリアちゃんとイリアちゃんは、ぱあっと花が咲くような笑顔で見上げてくれた。

 どうやら、二人にわたしの思いは伝わったみたいだ。


 これで、心置きなく皆で働くことができるね!



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