第256話  気になることを聞きに行っちゃう、ぽっちゃり


 思わぬところで勃発したお給料問題。

 だけど最後のエミリーの一押しもあって、アリアちゃんとイリアちゃんも最終的にはわたしの提案を受け入れてくれた。

 これより十日間の勤務で、二人にそれぞれ金貨一枚ずつ。

 正直わたしとしては労働対価としては安すぎると思っちゃうけど、これでも王国内の見習いが受け取れるお給料としてはほぼMAXの金額らしい。

 まあアリアちゃんとイリアちゃんも喜んでくれているようだし、ここは異世界てある王国のルールに従おう。


 そのように話もまとまったところで、わたしたちは最上階のホテルを降りていき、店舗へと向かった。

 しばらく皆でわいわいと喋りながら歩いていると、やがて見慣れてきた木造建築の店が見えてきた。


「ってな訳で、やって来ました我が店舗! アリアちゃんとイリアちゃん、今日もよろしくね! サラとエミリーもついてきてくれてありがとう!」

「全然です! 私、今日もバリバリ全力でオベントー作っていきます!」

「わ、私も、ですっ! 」

「私は誇りあるコロネ様のメイドです。行動を共にし、主人のサポートをするのは当然のことです!」

「ぷるるんっ!」


 わたしのお礼に、皆は笑顔で応えてくれる。

 ちなみにナターリャちゃんとわいちゃんは今日は別行動をしている。

 具体的に言うなら、ホテルの部屋でお留守番もとい二度寝だそうな。

 今日までずっと全力でラグリージュの観光を楽しんでいた二人だったから、何だかんだ疲れが溜まっていたのかもしれないね。

 ナターリャちゃんとわいちゃんがいないと少し静かな気がするけど、今日はこれからひたすらお弁当を作っていくだけだから特に問題はないかな。


 わたしが、よしっ! と気合いを入れていると、隣に立つエミリーが周りを見回しながら呟いた。


「ただ、それにしても……」


 わたしはエミリーに首を傾げる。


「どうかしたのエミリー?」

「……いえ、それほど大したことではないのですが……何だか街の人々がざわついているような気がして」

「街の人がざわついてる?」


 言われてわたしも周りを確認してみると――たしかにちょっと騒がしいような気もする。

 別に特定の個人や集団がうるさく騒ぎ立てているというわけではないけど、なんだか街行く人々が忙しないというか、何だか嫌な感じがほんのりと漂っている感じだ。

 ところどころでは、冒険者らしき人物やご近所の主婦らしき人たちが道の端で集まって難しい顔をして何か話している。


「うーん、どこかで事件でもあったのかな? エミリー、なにか知ってる?」

「い、いえ、私は何も……申し訳ございません」 

「いいよいいよ。わたしも何にも知らないし。だけど、このまま店に入って厨房に籠り続けるっていうのも気になるよね。なんかもやもやするというか」


 事の真相が不明確なまま厨房でお弁当を作り続けるというのは、あまりよろしくない。

 わたしは一度気になるとそれが何なのか確かめないと気が済まない気質たちなのだ。


「ま、それなら誰か知ってそうな人に聞きに行けばいっか! じゃ、ちょっと行ってくるから待ってて!」

「え? あっ、ちょ、コロネ様!?」


 エミリーの制止の声を背中で受けながら、わたしは道の真ん中を困った顔で歩くおじさんに駆け寄った。

 おじさんはポリポリと頭を掻いている。


「あの、すみません! なんか皆せわしなく動いてるんですけど、何かあったんですか?」

「あん? なんだ嬢ちゃんは……ってもしかして、そこの店のオーナーか?」


 おじさんは怪しむような顔でわたしを眺めた。


 えっ!?

 なんでわたしがあの店のオーナーだってバレてるの!?



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