第253話  最低賃金に驚愕しちゃう、ぽっちゃり


 アリアちゃんとイリアちゃんにお給料を支払ってみた。

 とりあえず相場も分からなかったし、日本でのバイト換算で考えて金貨一枚ずつを手渡す。

 喜んでくれるかと思ったけど、二人の反応はわたしの予想していたものとは違っていた。


「こんな大金いただけないです!」

「わ、私もこの額はちょっと申し訳ないです……!!」


 アリアちゃんとイリアちゃんはまるで恐ろしいものでも見るような目で金貨とわたしを見比べている。


 金貨一枚は日本円換算で一万円くらいだ。

 たしかに時給としてはちょっと割高な感じかもしれないけど、二人とも昨日はそれに相応しい働きをしてくれたからね。

 何ならこの倍の額を要求されても喜んで払うくらいだよ。


「いや、別にそんなに気にしなくてもいいんだよ? 一万え……ごほんごほん。金貨一枚分くらいの働きはしてくれたと思うし」


 わたしは気にせず受け取ってほしい旨を伝えるが、二人は頑なに拒んでいる。

 というか、恐れおののいているといった方が適切かもしれない。

 それくらいアリアちゃんとイリアちゃんも信じられないものを体験したように謎に体を震わせていた。


 どうしたものかと悩んでいると、隣でわたしたちのやり取りを見ていたエミリーが口を挟んでくる。


「あの、コロネ様。少しよろしいでしょうか?」

「ん? エミリーどうしたの? もしかして、この状況を何とかしてくれる案を思いついちゃったり!?」

「も、申し訳ございません。そういう訳ではないのですが……アリア様やイリア様のような見習いの方々を雇うときの、お給料の相場などご存知でしょうか?」

「え、お給料の相場? んー、全然知らないね。だけど、大体一時間あたり銀貨一枚くらいなんじゃないの?」


 銀貨一枚は日本円で千円ほどだ。

 ちょうど日本のバイト代と同じくらいだね。


 あっけらかんとした様子で答えるわたしに対し、エミリーは、やっぱりか……、とでも言うような感じで頭を抱えた。


「そ、その感覚は一体どこの国の給与形態なのでしょうか……。あのですね、コロネ様。お給料というものは、基本的に誰を雇うかによって変動するものなのです」

「誰を雇うか?」

「そうです。例えば同じ料理人を雇うにしても、既存のレストランで働いている一般的なシェフと、そのレストランの料理長とでは雇う際の金額が変わってきます。ここまではよろしいですか?」

「まあ、そうだろうね。さすがにそこまで肩書きが違うと身に付けてるスキルのレベルも差がありそうだし」

「はい。そこでお聞きしたいのですが、こちらの二人の肩書きはなんだったか覚えていらっしゃいますか?」

「アリアちゃんとイリアちゃんの肩書き? え、料理人とかじゃないの?」


 わたしの答えに、名前を呼ばれた二人が立ち上げって否定する。


「違いますよ! 私達はまだ『見習い』です!」

「そ、そうです! 料理人だなんて、今の状態じゃ間違っても名乗れないですっ!」


 言われて、たしかに見習いだとか言っていたなと思い出す。


「ああ、そう言えば見習いとも言ってたね! まあそれでも別に時給銀貨一枚は普通なんじゃないの? さすがに本職の料理人と比べたら賃金が劣るっていうのは仕方ないかもしれないけど、銀貨一枚くらいはもらえるでしょ? ほら、最低賃金ってやつで」

「サイテイチンギン……? よ、よく分かりませんが、コロネ様はだいぶこの国の給与形態を勘違いしておいでのようです。いいですか、よく聞いてくださいね、コロネ様」

「え、は、はい」


 何だか含みを持たせて詰め寄ってくるエミリーに、わたしはややのけぞりながら返答した。

 当のエミリーはわたしに顔を寄せながら、ビシッと人差し指を鼻先に近づける。


「この王国内において、業界や職業に関わらず見習いの者が受け取れるが、良くて銀貨一枚くらいなのです!!」


 そのまさかの発言に、わたしは絶句してしまった。



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