第249話 寝起きドッキリを食らっちゃう、ぽっちゃり
チュンチュンと小鳥の鳴き声が遠くから聞こえてくる。
わたしのうっすらと浮上してくる意識に追い討ちをかけるように、ゆさゆさと体を揺らされた。
「起きてくださ~い!」
頭上から降り注ぐ声と体への刺激に、わたしはばちりと目を覚ました。
だけどまだまだ睡魔が尾を引いており、一瞬で心地よい睡眠の世界に引きずり込まれそうになる。
だけどそれを許さず、エミリーが重ねて声をかけてきた。
「コロネ様。起きてください。もう朝ですよ」
「んん、エミリー? もうちょっと……あと五分だけ……」
「だ、ダメですよぉ! そうやって昨日もお昼頃まで二度寝されたんですから! それに、ほら。今日はこちらのお二方も来てくださっているんですよ」
「なに……お二方……?」
不可解なワードに、少しだけ興味がわいて意識が引き戻される。
そして寝ぼけ眼のままのそのそと起き上がると、わたしが寝ていたベッドの端に二人の女の子が立っていた。
まだ目がぱしぱししているからぼんやりとした像しか結ばないけど、シルエットからしてとてもよく似た二人であることが分かる。
んん……?
誰だろう、この子たちは……。
わたしがあやふやな思考を無理やり動かして疑問に思っていると、二人の少女は同時に頭を下げてきた。
「コロネさん、おはようございます!」
「お、おはようございます……!」
まだ少し幼さが残る可愛らしい女の子の声。
そして、これはどこかで聞いたことがあるような気がする。
思い出せそうで思い出せない……というような状況のまま考えていると、突然脳内に閃光が走った。
「ん? ええっ!? も、もしかしてアリアちゃんとイリアちゃん!?」
わたしは予想外の相手を前にドキンと心臓を跳ねさせた。
そして、慌てて起き上がった。
「おはようございますコロネさん! アリアです!」
「イ、イリアです!」
二人は同時に再びぺこりと頭を下げた。
さっきからやたらと動作が一致しているなぁと思っていたけど、それもそのはず。
何てたって、二人は双子の姉妹だからね。
日頃から阿吽の呼吸で行動しているから、行動も似ちゃうんだろう。
だけど、今はそんなことはどうでもいい。
「な、なんで二人がわたしの部屋にいるの!? え、ここってわたしの部屋だよね!?」
一瞬驚いて周囲を確認してしまう。
うん、良かった。
間違いなくわたしの部屋だ。
ていうか、ここはドルートさんが手配してくれた最高級ホテルのスイートルームだ。
わたしの部屋もだだっ広い空間になっていて、オシャレなインテリアや絵画なんかが飾ってある。
かつてのわたしの部屋とは無縁の部屋だ。
とりあえず、ここがわたしの部屋であることは間違いないみたい。
アリアちゃんとイリアちゃんがいるもんだから、もしかしていつの間にかお店の厨房で寝ちゃったかと思って変な汗をかいたよ。
「お二人がここに来られた理由なのですが、どうやら昨晩ドルート様がこの部屋の場所を教えられたようでして」
「……てことは、ドルートさんから聞いてわたしの部屋まで訪ねてきたってわけ?」
「そうです! せっかくなのでコロネさんの身の回りのお世話もお手伝いさせていただければと思いまして! け、決してドルート様が運営されている高級ホテルの最上階の部屋がどんな感じなのか知りたかったから来たわけではないですよ!!」
「ほ、ほらだから言ったでしょお姉ちゃん。やっぱり朝からいきなり突撃するのはコロネさんにも失礼だって……」
「し、しょうがないでしょ! これを逃したらもう一生こんな所来られる機会なんてないかもしれないんだよ!? だったら、ちょっとくらいリスキーでも勉強と思って飛び込んでみるのが正解でしょ! それにイリアだって高級ホテルの朝食はどんな料理が出されるのか興味あるって言ってたじゃない!」
「そ、それはそうだけど……」
アリアちゃんとイリアちゃんは目の前にわたしがいることも忘れて二人で話を進めている。
まあ、聞こえてくる会話の流れから大体状況は掴めたよ。
それに寝起きからちょっと時間がたったことで少しずつ頭も冴えてきたしね。
二人はまだこそこそと何か話し合っているけど、わたしはベッドから降りてアリアちゃんとイリアちゃんの元に向かった。
「まあ、事情は何となく分かったよ。せっかく来たんだし、とりあえず一緒に朝ごはんでも食べていかない?」
わたしのこの提案を聞いた二人は、一瞬ぽかんとした後、遅れて意味を理解したのか互いに手を取り合って喜びをあらわにした。
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