第248話  身を案じちゃう、ぽっちゃり


「「本日はありがとうございました!!」」


 アリアちゃんとイリアちゃんが店の前で同時に頭を下げた。

 わたしは、店の鍵を閉めながら向き直る。


「あはは、そんなに畏まらなくても大丈夫だよ! それにありがとうって言いたいのはこっちの方だし」


 これはわたしの嘘偽りない本心だ。

 何たって今日だけでかなりの数のお弁当のストックが作れたからね。

 それらを作ってくれたのは紛れもないアリアちゃんとイリアちゃんが懸命に働いてくれたからだ。

 とはいえ、真面目に働いただけじゃなく、二人の才能によるところも大分あるとは思うけどね。

 何せ二人とも料理スキルが異常なほど高い。

 一度作り方を見ただけでほほ完全に同じものを再現できるなんて一体どんな脳みそをしているのかと問いただしたくなるくらいだ。

 わたしも長年両親のお弁当屋さんのお手伝いをしていたからそれなりに料理スキルは養われている方だと思っていたけど、アリアちゃんとイリアちゃんに比べたらまだまだ全然大したことないレベルだと実感させられる。

 この調子だと、多分すでにお弁当に使用したおかずなんかの作り方は完全に学習されてしまったとみるべきだろう。


 二人の頑張りと才能におののきつつ、わたしは次回の話を切り出した。


「そう言えば、二人はいつわたしのお店に来てくれるの? 明日とかも来れるのかな?」

「はい! 明日も明後日もその次も毎日来ます!!」

「そ、そんなに来れるんだ。わたしとしては嬉しい限りなんだけど、アリアちゃんもイリアちゃんも予定とか大丈夫なの? 別に無理しなくてもいいんだよ?」

「だ、大丈夫、です……! 私たち、基本的にほぼ毎日レストランの雑用をしながら料理を教えてもらう日々を過ごしていたので。今まで休んだこともないですし、料理に関係するお仕事なら何連勤でもいけます……!」

「そうそう! そうなんです! イリアも言っている通り、私たちのことは心配しないでください! それに、コロネさんみたいな素敵で見たことないような料理スタイルを持っている人の教えを直接請えるなんて、私たちの方から働かせてくださいってお願いしたいくらいですから!!」


 アリアちゃんとイリアちゃんは興奮した様子でわたしに詰め寄ってくる。

 接近してくる二人に少し後退りしながら、わたしは答えた。


「そ、そうなんだ。そこまで言ってくれるなら、二人のお言葉に甘えて明日も来てくれるかな?」

「はい! ぜひ!!」

「あ、明日も頑張ります……!!」


 二人はにこっと笑顔を見せた。

 年頃の女の子は癒されるなぁなんて思っていると、もう時間が遅いことに気づく。


「ハッ、気づけばもう夜だよね。二人ともあんまり遅くなると危ないし、今日はここらで解散しようか。帰りは二人で大丈夫? 不安だったら家まで着いていくけど」

「大丈夫です! いつもレストランで働いている時は今よりももっと遅い時間なんで!」

「そ、それに夜とはいっても今からはラグリージュが活気づいてくる時間帯ですし、明かりには困りませんから」


 もうすっかり日は落ちていて、辺りは暗くなっている。

 だけど街中に街頭が設置されていて、まだまだ活気あるお店がいくつも開いているからか、明かりは十分にあった。

 暗くて怖いというような雰囲気とは無縁の、常にお祭り騒ぎのような街並みだ。

 イリアちゃんの言うように、そこまで心配はいらないのかもしれない。

 わたしと違って二人はこの街の勝って知ったる住人だしね。


「そっか。まあ、それでも気をつけてね。期間限定とはいえ、二人とも今はわたしのお店の従業員なんだから。オーナーとしてやっぱり心配しちゃうから。明日も元気にお店までやって来てね!」

「はいっ! 明日も元気満タンでバリバリお仕事させていただきます!」

「そ、そんなに私たちのことを気遣ってくださってありがとうございます……! 明日も頑張ります……!!」


 そうして二人と別れの挨拶を交わし、わたしたちはそれぞれの帰路へとついて行った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る